第16話 魔王からのお手紙
――ピピッ
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リアスが穴の中に入ってから数分が経過した。未だ帰って来ないし、音が何も聞えて来ない。彼の翼が空気を切る音すら聞えないのだ。心配になった僕は彼の名を呼んだ。
「リアスー!聞えるー?」
しかし返事はない。静寂だけが返ってきた。
「見に行ってくる」
と、ヴェルスは言うも係長によって止められた。
「大丈夫。いざという時は俺が何とかするから、もう少し待ってあげて」
さらに10分ほど待つと、全身煤まみれになったリアスが穴とは全然違うところから現れた。どうやら、この穴とは別の出口もあるみたいだ。
「皆さん、お待たせして申し訳ありません。この穴はというより、この泉自体ヴェスティさんが魔物除けとして作った罠らしくて少々攻略が大変でした。一方通行でして。ただ、お陰で皆さんでも通れそうな正規の入り口を発見できました」
リアスは服に付着した煤を手で払いながら言った。ただ、服の煤は何だかむしろ広がっているように見えるんだけどな……。しかし、係長がさっと手をかざせば煤はどこかへ飛んで行ってしまった。
「ミストさん、ありがとうございます。では皆さん、こっちです。着いてきてください」
リアスに先導され、辿り着いたのは先程僕達が掘り返していた部分と、泉を挟んで対岸にある場所だ。少し森の中に入ったそこには井戸ように、家の煙突が飛び出していた。
「この煙突からしか入れません。ヴェスティさんは、二度と帰ってこられないことを知っていたからこそこんな行動を取ったのでしょうね」
家の煙突しか出ていないということは、埋めたということだ。原作にこの描写はなかったはずだ。何故だろう。
「あ、前もって煙突の煤を綺麗にして梯子を架けておきましたので安心してくださいね」
そう言って、リアスが先に入っていった。リアスが完全に暖炉から出たのを確認してから僕も降りる。
「リアス、ありがとね」
梯子があと数段というところで、リアスの差し出された手を取る。
暖炉から出た先にあったのは、原作の序盤で登場したヴェスティの拠点で間違いない。やや埃は積もっているが、何百年も過ぎたことで落ち切ってしまったようだ。そこまで埃が多いとは感じなかった。こんなところまで人が来ることもないのだから、埃が増えることがなかったんだろうな。
全員がヴェスティの拠点に到着した。
「じゃあ、捜査を始めよう!」
係長はそう言ってウインクをしながら指を鳴らす。その瞬間、家の中にある燭台やランプが全て灯った。彼は生粋のエンターテイナーのようだ。
僕は、迷うことなくヴェスティの拠点の中でも最も情報が集まっている彼の書斎へと足を運んだ。
書斎は案外綺麗に整理されていた。数枚床に落ちており、ヴェスティらしき人物の足跡が残っているだけだ。そして、机の上にはやや長い走り書きのメモが残されている。一体誰に見せたかったのだろう。とりあえず、僕はそれを読むことにした。
この手紙を読んでいる誰かへ
僕は家を隠したつもりなんだけど、好奇心に負けて入ってしまった可能性のある、今読んでいる君に向けての手紙だ。その好奇心を捨てず、最後まで読んで欲しい。
君がこの手紙を読んでいる今、魔王という存在はいるだろうか。いないのだとしたら、嬉しい。もしくは、長年変わっていなかったとしても上出来だ。なぜなら、僕こそがその魔王である可能性が高いからだ。
この世界には魔王を殺した者は魔王になるという呪いがある。魔王が持つ穢れた魔力に精神が蝕まれた勇者は、凱旋パレードが終わった瞬間、お払い箱になることへの不満が肥大化する。一番の要因は、勇者のモチベーションのために魔王を倒せば自身が望む生活を送れるのだという思考を植え付ける教会だとは思うが。
僕の友人も、魔王になった勇者の一人だ。僕は今から彼を殺しに行く。親友からの殺してほしいという願いを叶えるために。僕ならきっと彼を殺して魔王になっても精神は無事で済むと思う。
もし、前述したような魔王が長生きしている状況であれば、どうか僕の邪魔をしないでほしい。僕が、老衰で死ぬことを目標にしているからだ。老衰で死ねば、その穢れた魔力は僕とともに消えてくれると予想している。
ただ、もし君がより良い策を思いついたのであれば、遠慮なく魔王城を訪ねるといい。教会に洗脳された勇者以外は基本的に追い払うつもりがないからな。
書斎の本棚に並べてある資料は好きに使ってくれ。ただ、教会に見られたらどうなるかわからないから、寄贈したり売ったりはしないように。
魔王のいない世界を目指して、
ヴェスティ
――ピピッ
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