第12話 宿を発つ前
――ピピッ
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僕は1巻から4巻までの担当になった。昨晩も読んだとはいえ、改めて確認作業を行う。特に1巻には明日行くヴェスティの作業場についても出てくるから、結構責任重大だ。
僕達は作品を黙々と読む。部屋は防音しているにもかかわらず、布がすれる音しか聞こえない。物語の閲覧も、メモもすべて情報端末で完結してしまうためだ。かさばるからしかたないとはいえ、原作はやはり紙で読みたかったな。
そういえば、天上図書館にはすべての紙媒体記録が収蔵されているんだっけ。なら、この「観測」が終わったら読みに行こうかな。○○が終わったらなんて、ちょっと死亡フラグみたいだけれど。
この作業はなんやかんやで早朝近くまで続いた。担当が4巻ずつとはいえ、ヴェスティが作った罠が壊れたままなのか、罠にかからず乗り越えるためにはどうしたらよいのかを1つずつ考えていたらあっという間に朝日が昇り始めたのである。
「あんた達も終わったみたいね。じゃあ情報を共有しましょう」
僕達は情報の共有を始めた。罠の位置について地図のスキャンデータに罠の名前をつけたピンを設置。壊れたままなのか、現在も稼働中なのか、はたまた不明なのかをピンの色で表現。乗り越える方法は説明欄に追加。
徐々に増えていくピンに謎の達成感を感じ始めていたころ、不意にドアがノックされた。朝食を届けに来てくれたようだ。情報端末でやりとりをしていたおかげで、特に片付けなどをすることがないまま朝食を受け取るために扉を開けることができた。もちろん、アルタ姉さん達にはそれぞれ別の形態になって隠れてもらったけれど。
「おはようございます。朝食をお持ちしました。こちらのプレートは掃除の際に回収いたしますので、机の上に置いたままにしておいてくださいね」
昨日受付にいた老紳士の娘なのだろうか。彼の面影を感じる穏やかな女性が、机の上に朝食を並べていく。
「ありがとうございます。とても美味しそうですね」
「うふふ、そう言っていただけて嬉しいです」
女性はテキパキと仕事を済ませると、すぐに部屋から去っていった。朝から仕事とは大変そうだ。あの反応を見るに、この朝食も彼女が作ったのだろう。明日来た時に感想を伝えることにしようか。
「とりあえず食べようか。みんなで少しずつね。そうだ、アズマ君は好き嫌いとかあるの?」
係長は錬金術で取り分ける用の皿を錬成しながら僕に聞いた。
「今日の朝食にはないので、大丈夫ですよ。特にアレルギーとかもありませんし」
貰った朝食は二人分だったが、僕達は少しずつ分けて食べた。宿泊料が高いこともあって、かなりおいしい。王道RPG風の古い町だから少し口に合わないかもと思ってしまっていたが、想像以上においしい。
「今日の朝食にないということは、嫌いな食べ物自体はあるのですね?今後の参考にしたいので伺っても?」
リアスにそう聞かれる。確かにシチュエーションしだいではあるかも……?いや、どんなシチュエーションなのか思い浮かばないけれど。
「辛すぎるもの、甘すぎるもの、苦いもの、刺激的なものかな。あとは、マグロの赤身みたいな若干血の味がするものもムリ」
要するに、僕はやや敏感なおこちゃま舌なのだ。
「もしかして、ピーマンとか嫌いでしょ?」
アルタ姉さんが意地悪く聞く。
「それなりには。肉詰めピーマンはおいしいと思うんですけどね。逆に、『相棒』に食べ物の好き嫌いはあるんですか?」
「味の好き嫌いとかはないわ。『相棒』は個性がすべてだし、神援者と同じで飲食を必要としないの。せっかちな子はホルモンみたいないつ飲み込んだらいいかわからない食べ物を理解できないし、ゆっくり味わう子に一瞬で溶ける食べ物は合わない。そんな感じよ」
そんな感じに雑談をしながら朝食を食べ、僕達は宿を発つ支度ができた。
――ピピッ
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