第2話 事前チュートリアル
――ピピッ
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僕は今、重厚な扉の前に立っている。どうやら、ここがフィクション世界へと繋がる扉のようだ。
僕が今身に纏っているのは、よくあるファンタジー風の服。初めて着るはずなのに、体にとても馴染んでいる。この服は、「服屋」にあるフィクションの服をデザインする部署で作られたものだそうだ。
鎧ではなく、皮を使った軽装備で動きやすい。他の皆も似通った格好をしている。RPGの主人公にでもなった気分。なんだか緊張してきた。
「そうだ、フィクション世界へ行く前にリアス君とヴェルス君の武器形態の確認をしておこうか」
係長がしまった忘れていたとばかりに口を開いた。確かに、いざ敵が現れた時にすぐに戦闘へ移れないのは良くない。が、戦闘経験が0である僕が訓練なしに戦闘を必要とする世界に行くのも少々不安だ。
「そうね。私達『相棒』はこんな風に…」
アルタ姉さんがそう言うと、アルタ姉さんの姿は消え、係長の手には槍が収まっていた。どうやらこれが『相棒』の武器形態と呼ぶらしい。
「武器形態の『相棒』の力があれば、こんな年寄りの俺でも戦えるようになるよ。まぁ俺の場合はこっちがメインだけど」
そう言って係長は何もないところから鎖を出して見せた。マジックか何かだろうか。もしくは魔法のようなものなのかもしれない。
「取り敢えず、君達は武器形態になってもらえるかな。確か双銃だったよね?」
今の鎖について話してくれるつもりはないようだ。そして、リアスとヴェルスから視線を向けられた僕は、両手を双銃を握れそうな形にすると、両手にそれぞれ銃がぴったりと収まった。
脳内にリアスとヴェルスの声が響いた。
〈あーあー、脳内マイクテストー〉
〈アズマさん、聞こえてますか?〉
「き、聞こえてるよ!」
緊張でガッチガチの僕に微笑する係長を見ると、頭や首といった急所に黄色い的のマークが見えた。
〈どうやら、ターゲット認識が上手くいったようですね。たぶん怒らないと思うので、試しにどちらかの銃をミストさんの急所に向けてみてください〉
リアスにそう指示された僕は、係長の心臓へ銃口を向けた。すると、先程は黄色かったマークが赤に変化する。係長は何故かふざけて両手を挙げている。
〈ロック完了。狙った獲物は逃がさない。俺達の弾が獲物を確実に仕留めるから、心配はしなくていい〉
どうやら、敵を目視し銃口を向けさえすればあとは2人にお任せすればいいようだ。ただ、素早い敵だと銃口を向けるのが間に合わないかもしれない。アルタ姉さんも習うより慣れろって言っていたし、今回の観測でたっぷり経験を積んでいこう。
それにしても、今のなんだかゲームのチュートリアルみたいだったな。
「リアスもヴェルスもありがとう!」
僕がそう言えば、彼らは元の姿に戻った。いつの間にか人間形態に戻っていたアルタ姉さんはというと、係長の耳たぶを掴んで軽く引っ張っている。係長は痛そうな、でも嬉しそうな顔をしている。ドМなのか?
「準備は良さそうかな?」
「はい、あとはその場の勢いで何とか頑張れそうです」
係長は僕の背中をそっと押し、扉の前に立たせた。
「さぁ、君の観測係デビューだよ」
後ろを振り向けば、係長もアルタ姉さんも、リアスもヴェルスも、暖かい視線を向けてくれた。こんな視線を自分が受けてもいいのだろうかという考えは捨て、僕は扉を押し開けた。
重厚な扉はいかにもな音を立てながらゆっくりと開いていく。扉の隙間から、森の息吹が流れ込んでくる。完全に扉を開ければ、そこに待っていたのは広大な平野に城が佇むのを遠くから見ることのできる見晴らしのいい崖。
僕の初めての観測が今、始まる!
――ピピッ
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