ここどこっすか
思ってもない事が起きてしまったブラック企業に働く女性。
彼女が織りなす唄歌いである吟遊詩人へとなるファンタジー世界の物語。
どうやって生きていくのか、そして、この世界はどんな世界なのか。
知りつつも、様々なところを旅していく、まったりとした話。
知らない世界、分からない場所。目の前には知らない男。男があたしに向かって、声を発する。
「カテナ、お前とは婚約を破棄する!今日から、お前の友人であるエリーラと婚約する!」
知らない男に急に婚約破棄された。っていうか、婚約っていつの間に私は婚約していたのだろうか。全く身に覚えがないのだが。
訳のわからない状況で、急に頭が痛くなる。
「うっ…!」
見知らぬ映像が流れる。
幼い少女と少年が楽しそうに遊びながら、約束を交わし合っている。
『将来、結構しよう!僕が君を幸せにするから!』
『本当?約束してくれる?』
『もちろん!きしとして約束する!』
『わかった!約束だよ?』
何と微笑ましい光景だろうか。私にはこんな純粋な時期なんてなかったぞ。
ふっつうに男子と虫を持って走り回っていたわ。…いや待て。純粋も普通も何も、女の子と楽しく遊んだ記憶すらない。
女の子の友達といえば、気弱だけど優しい幼馴染の子だけだった。他の友達には避けられていたような気がする。
話しかけると、悲鳴をあげて立ち去れる。話しかけただけなのに、何で逃げられる上に悲鳴まで上げられるのか。理解ができなかった。
この話を幼馴染の女の子に話すと、ドン引きされた目で見られた挙句に『なんで分かんないの。』と、一刀両断されてしまった記憶がある。
いや、今はどうでもいい。この後の記憶を見ていくと、約束をしたはずの男が、大きくなった少女と疎遠になるわ親友と呼んでいた女と浮気するわ、出るわ出るわ嫌なところの数々。
なんだこいつ。くそか?
そして、今に至っているみたいだ。
でもなんで、あたしはこんな状況に立たされているんだ?
会社帰りにエナドリ飲みながら、ブラック企業の仕事帰りの道で、馬鹿が車道ではなく歩道を走っていたせいであたしは自転車にひかれた。
あのやろう、たたってやるからな。
そこからどうして、この状況に?
しかも、もしかして。もしかしてだけど、この子になってしまったのではないか…?某芸人みたいな事を言ってしまったけれども、確実にそうとしか言えない。
頭を抱えてどうしようか悩んでいると、後ろからダンディーな声が響き渡る。
「殿下!これは一体どういう事ですか!これは決められた約束。王家との約束事。それを破棄するという事がどういうことか、お分かりになられているのか!」
「もちろん、わかっているとも。」
こいつ、もちろんしか言えんのか。見えた映像の中でも、もちろんを連呼してたからな。
しかも、どの時もドヤ顔してたな。今もそうだし。
そして、ダンディズムな男性が睨みつけつように男を見た後に、小さくため息を吐いて告げる。
「この事は皇帝陛下へ抗議したのちに、我らとの取り決めは破棄させていただく。それでもよろしいという事ですかな?」
「当たり前だ!もちろん、父上も許してくれるはずだ!」
いやだから、もちろんしか言えんのかって。もしかして、もちろんbotか?なら納得いくわ。
あたしは呆れたように奴を見つめていると、ダンディズムな男性があたしの手を取ってくる。
「カテナ、ここを出るぞ。お前にとって、あの男は相応しくない。ここを立ち去ろう。」
「うぃっす。」
「カテナ?お前、そんな話し方だったか?いや、それは後で話そう。さ、ここから出るぞ。」
あたしの手を引いて、この場から出ようとしてくれる。
ちょっと好奇心が出てきてしまって後ろを向くと、クソ男の腕に引っ付いていた女が勝ち誇った顔でこっちを見てきている。
あいつもたたってやろ。どいつもこいつも、たたってやるからな。このダンディー以外は。
ってか、自分のことに集中しすぎて気が付かなかったけど、ここどうなってんの?一回漫画で見せてもらった、アホほど豪華な建物に似てるな。
もしかして、そんな感じの漫画の中に入っちまったのか?
はぁ、それで皇帝陛下とか殿下とか婚約とか、そんな話が出てきてたのか。
それに着ている服も豪華だし。こんなの着てみたいと思ったことないけど。かなり重い。早く脱ぎたい。しかも、こんなフリッフリの服なんて着ようとも思わん。
スッとしたズボン履きたい。ティーシャツ着たい。楽になりたい。着る服を軽くしたいという意味で。
二人で歩いていると、これまたどでかい門があって、勝手に開いていくとなんかすんごい、えっと、何これ。
(待って、思い出すから…!待てよ…箱…な訳ねぇし。あ!わかった!荷馬車ってやつだ!この前、ゲームで見た!なんか、かなりいい荷馬車なんだな。)
「さぁ、馬車に乗りなさい。我が家に帰ろう。」
(荷馬車じゃなかった、馬車だった。)
なんかダンディーに手を出してもらったので、そっと乗せて何をするのかという目で見てみる。
だって、なんで手を出されたのかわからん。
するとダンディーが不思議そうな顔で、あたしに向かって話しかけてくる。
「なんだ。馬車に乗らないのか?…まさか、あの男に未練でも…。」
「そんなもんある訳ない!帰るなら、さっさとおさらばしよう!」
「…お前、本当にどうしたんだ。まるで下町の人間のような言葉遣いをして。」
「いいから、帰ろう!一刻も早く!」
「あ、あぁ、そうだな。早く帰るとしよう。さ、馬車に乗りなさい。」
そこで悟る。この差し出された手は、馬車に乗るために支えてくれるためか。
この手を借りて馬車に乗り込もうと思うが、スカートがめちゃんこ邪魔だ。転けそうになる。
仕方ない。ここは捲り上げよう。乗せた方と違う手で思いっきりスカートをまくりあげようとすると、すごい勢いでダンディーに思いっきり止められた。
「待て待て待て、待ちなさい!そこまでスカートを捲し上げてはいけない!少しでいい、転けない程度に持ち上げなさい。いいね。」
「…わかった。」
少しでも転けると思うけど、致し方ない。ここはダンディーに従うか。
そっと裾を持ち上げて、馬車に乗り込む。やっとこさ座れる。両手をついて息を勢いよく座ると、ダンディーになんとも言えない顔でこちらを見られた。
「なんだ?」
「…お前は、本当にカテナなのか?」
「カテナ?…そういえば、ずっとその名前で呼ばれていたような…。」
「まさかとは思うが、カテナではないのか…?」
「カテナって誰か知らないけど、あたしの名前は実咲。田中 実咲だ。
「タナカ、ミサキ…。タナカが名前なのか?」
「違う違う!実咲が名前だ!」
「そうか、ミサキが名前か。」
なんだか、話が噛み合ってるようで、噛み合ってないような気がする。
ダンディーはあたしの事を疑ってるっていうか、理解しようとしてる…ような…?
あたしはあたしで、ただ自己紹介しているだけな感じだ。だって、カテナって奴じゃない。
あっけらかんとしているあたしとは違って、必死にこの状況がどういう事なのかダンディーは考えてるみたいだった。
顎に手を当てて下を向いていた頭を上げてこう言ってきた。
「すまない。君には申し訳ない事だと思うが、頼みがあるのだ。」
「ん?一体何を?」
「どうか、カテナとしていてくれないだろうか?」
「んん!?」
ダンディーから放たれた言葉に、あたしは衝撃を受けるしかできなかった。
カテナになれたと言われた実咲。
明らかになる事ができないであろう彼女は、どうやってこの場をのりきるのか。
乞うご期待!
待ってくれ、まだ終わってない話があるのに、別の話を書いてしまった…。
だって、行き詰まったから、つい。
ちょっと雑な性格をしている主人公です。
温かい目で見てやってくれると嬉しいです。
よろしくお願いします!