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第5話 森に住む魔女

 まずは信彦が信介をレイラの実家へ運んだところまで遡る…


「とりあえずここに寝かせてください」


 背負われていた信介はベッドにゆっくりと降ろされた。顔は火照っていて、額に触れると思った通り熱かった。


「困りましたね…今日に限って薬屋さんがお休みだなんて…」

「こういうのって寝かせておけば治るんじゃないか…?」

「かもしれませんけど、このまま放置するわけにもいきません…そうだ、ここから少し離れた場所にある森に魔女が住んでます。ちょっと値段が高くなりますが、その人に頼んでみましょう。というわけで私、行って」「ダメダメダメダメ!レイラは信介を看ててよ」

「?…分かりました。三姉妹の方々、森の場所は御存知ですよね?護衛と案内をよろしくお願いします」

「任せなさい!」


 こうして信彦はプレッツ三姉妹と森の魔女に会いに行くことになったのだが…




(魔女か~どんな人なんだろう!?おてんば系?のじゃロリ?早く会いて~!)


 薬はついで。信彦の目的は森にいる魔女に会うことだった。どんな美魔女なのか、想像が膨らむばかりだ。


「ジョーノ達は会ったことあるのか?」

「ないわ。森から出てくる商人達は襲ったことあるけど…」


 信彦の広げた大きな傘に4人の身体がすっぽり納まっている。これは多人数相合傘ワゴンという魔法の傘で、内側の次元を歪めて大勢の人間が入れるようになっているのだ。


「噂だと、いつも笑ってる不気味な人だとか…あっ不安になるようなこと言ってごめんなさい!」


 謝りながら傘の外へ出ようとしたツナをパグが止めた。別に謝るようなことではない。たとえ噂でも大切な情報である。


「いつも笑ってる…明るい人なのかな」

「いや、ワッハッハっじゃなくてクヒヒとかの方だと思うけど」




 街を出てしばらく歩き続けると、魔女が住んでいるという大きな森が見えてきた。それと同時に天候が霧雨へと変わった。


「視界が悪いな…遭難しないように気を付けないと」




 さらに濃い霧も相まって、森の中での視界は最悪だった。迷子にならないように、彼らは前に立っている人の衣服を掴みながら前進した。先頭に立つ信彦は責任重大だ。


「…魔女って森のどの辺りに住んでるの?」

「えっそんなの知らないわよ。一度も会ったことないんだから」

「魔女さーん!イマセンカ~?」


 ………


 パグが大きな声で問い掛けたが返事はない。森はあまりにも静かで、自分達以外に誰もいないような気がした。


「魔女さーん!」

「耳元で叫ぶなぁ!良いかい、こういう時はね、こうするんだ」


 ジョーノは信彦から傘を取って畳むと、石突きを地面に付けて地面と垂直に立てた。


「まさか…」


 そして手を離した。当然、傘はバチャンと倒れた。


「よし!この先にいる!」

「いや民間占術過ぎるでしょ!あ~もうハンドル汚れちゃったじゃーん!」


 呆れながら傘を拾った信彦は、ふと目を向けた正面に何か見つけた。


(なんだろう…?)


 霧の中で微かに光っている。それも2つだ。


「ガルルル…」

「何かいグモッ!」


 ツナは信彦の口を手で押さえて、静かにするようにと人差し指を立てた。


「…」

「…」

「…」

「ワンチャン可愛いね~」

『ッパグ!』

「ガオオオオオオオオオ!!!!」


 霧の中で轟く声に怯え、4人は一斉に逃げ出した。しかしパニックになりながらも、この霧の中で誰一人はぐれないのは凄いことではないだろうか。


「ゴメンナサ~イ!」

「そうだ!あの爆発する傘で」「まだ魔力が溜まってないです!」

「じゃあダガー」「皆揃って手入れ怠ってたから錆びて能力が死んじゃった!」


 ズザッ!


 絶体絶命のピンチに追い込まれたその時、信彦は足を止めて後ろを振り向いた。


「こうなったらこいつで相手になってやる!」


 そうして構えたのはここに来るまでにさしてきたワゴンだ。戦闘向けの能力でなくとも武器にはなるが…


「信彦!」

「僕が時間を稼ぐ!うおおおお!」


 スカッ!


 そうして迫って来ていた何かに傘を振ったが、空振りだった。2つあった眼光らしき物も既に見えず、唸り声も聴こえなくなっていた。


「どうなってるんだ…」

「い、一旦森から出ませんか?」

「ソーショーココは危険ヨー!」


 ツナ達の言う通りだと動こうとしたその時だった。




「待って!」


 誰かが彼らを呼び止めた。さっきまでの低い唸り声とは違って、ソプラノな少女の声だった。


「もしかして…森の魔女か!」

「あなた達の目的は何?」

「僕の友人が体調を崩してしまい、森に住む魔女なら薬を用意出来るかもしれないと聞いてここへ来た!金ならここにある!どうか薬を用意して欲しい!」


 ジャリッ!


 硬貨がギッシリ詰まった袋を掲げると霧が晴れた。そうして目の前に、灯りの点いた丸太小屋が現れた。


「あんな場所に丸太小屋が」

「サッキマデナカッタヨ!アッタラ私達ぶつかってるヨ!」


 パグの言う通りだ。しかし他に気になる物がなく、四人は恐る恐る扉のドアノブを引いた。


 ガチャッ


「ワッハッハ!防衛用の霧を解除し忘れてたよ!魔女だからってそんなに怖がらなくても大丈夫だよ!」


 小屋の中では信彦のイメージしている魔女のような、トンガリ帽子を被って黒いローブを羽織る少女が薬を作っていた。


「きっと今まで追い払った人達が悪い噂を立てたんだろうね。森には怖い魔女がいるぞ~って!ワッハッハ!」

「良く笑う子ですね…」


「私は笑顔の魔女ナナ・ナ・ナナナナ!ナが7つ!ナナでもナでもナナナナでも、好きなように呼んでよ!」

「スッゴい名前」

「ワッハッハ!良く言われるよ!」


 ナナは製薬道具に魔法を掛けて作業を自動化。信彦達を椅子に座らせてティーとスイーツを並べた。


「それで、代金なんだけど」「あ~お金は取らないよ!私医者じゃないし。あぁでも盗賊とか人攫いとかだったら返り討ちついでにお財布もらっちゃうかな!ワッハッハ!」


 森の魔女は元気に笑う明るい少女で、噂など当てにならないと信彦は学んだ。


「この森に住んでるのか?」

「うん。最近、皇軍の暴動が激しいでしょ?だから安全な場所を見つけてはそこに暮らしてるんだ」


 皇軍とは、雨天皇が持つ非合法な軍隊である。兵士は人間と魔族が混合しており、雨天皇の敵になると判断された者達を次々と襲っていく悪いやつらだ。


「お父さんとお母さんが軍人だからって私まで狙われちゃってね~」

「…両親は?」

「お父さんは私を庇って撃たれた。お母さんは私に食糧を全部くれて餓死した…ワッハッハ!治安悪い国じゃ珍しくない死に方だよ」


 カチャカチャ


 重い過去をカミングアウトしたその時、薬を作っていた器具達が完成を告げる音を立てた。


「出来たよ、粉薬」

「ど、どうも。本当にお金払わなくていいのか?」

「うん。お金なくても生活出来るから。スイーツのおかわりはいかが?」

「ありがとう。けどもう行かないと。信介が待ってるんだ」


 信介に飲ませる薬を受け取ると、信彦は外へ出る扉の前まで歩くが、ドアノブに手を伸ばさなかった。


「…あれ?もしかして他に必要な薬があったりする?」

「いや、そうじゃないんだけど…独りで寂しくないのか?」

「寂しくは…なるね。まあ何日も独りだったから慣れてきてはいるけど」


 話していた時に比べて弱ったような笑顔。それを見た信彦は、こう言わずにはいられなかった。



「僕達と一緒に冒険しないか?」




「…ギルドの勧誘?いや、そういうのはちょっと…」

「勧誘じゃない!ってかギルドなんかもあるのかこの世界…じゃなくて!独りでいるより誰かといた方がもっと楽しくて良いんじゃないかって…それにそんなに沢山のスイーツ、一人じゃ食べきれないだろ?」


 ナナがスイーツを取り出した魔法の菓子棚が開いている。中にはまだまだ大量のスイーツが押し込まれていた。


「僕達は雨天皇を倒すために冒険してるんだ。復讐を催促するわけじゃないけど、そいつを倒すことで君を守った両親も報われるんじゃないかな」

「それは……………ワッハッハッ!確かにそうかも!うん!私もその冒険に加わっても良いかな!」


 信彦はもちろん、三姉妹の誰もナナを拒むことはなかった。


 こうして、冒険をする新たな仲間が加わった。魔法使いの少女ナナ・ナ・ナナナナ。魔法以外にも薬の調合を得意とする支援タイプのヒーラーだ。


「それじゃあ早速、体調を崩してる仲間を助けに行こうか!」




 小屋を出ると、ナナは傘立てに挿していた傘を手に取った。そして丸太小屋に向かって傘を開くと、小屋は傘の生地に収納されていった。


「それ、魔法の傘なのか?」

「うん。これで小屋を持ち歩ける。雨宿がなくてもこれで安心だよ」


 ナナは杖で戦う魔法使いだが、こういう戦闘面以外では魔法の傘を使うようだ。




 仲間を増やした彼らはレイラの実家へ戻って来た。


「おかえりなさい!あれ、その人は…?」

「新しく仲間に加わったナナ・ナ・ナナナナ。魔法使いだ」

「ワッハッハ!あなたがレイラだね!よろしく!」

「こちらこそ!それで、薬の方は?」



 信彦は作ってもらった薬をレイラに渡した。彼女はそれと水の入ったコップを信介のいる部屋に運んでいった。

 そして薬を飲んだ信介の体調は安定して、今は副作用で眠っているそうだ。


 レイラは仲間達をリビングに集め、これからの事を説明した。


「私達の目的は一つ。雨天皇を倒して空の封印雲を消滅させることです」

「レイラ、雨天皇を倒すって言ってもどうするんだ?」

「はい。当然今の私達は勝てません。そして雨を味方に付ける雨天皇に対して、どれだけレベリングして良い装備を揃えても勝ち目はありません…しかし対抗策はあります。それがアンブレラナイトの力です」

「アンブレラ…ナイト?」


 席を立ちレイラは本棚から一冊の薄い絵本を取った。昔からある物なのか、絵本は汚れているが読むのに支障はない。


「信彦さんにはこれから、レインランドの伝説を聞いていただきます」

「それって信介がいる時の方が良いんじゃないか?」

「帰って来る前に読み聞かせましたよ。途中で寝ましたけど」


 レイラは信彦と仲間達に絵本が見えるように並べると、優しく伝説を語り始めたのだった。


「昔々…」

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