第3話 盗賊の三姉妹
レイラの家があるドロップシティを目指して、草原を進む信彦たち。彼らは傘を閉じて、空から降り注ぐ暖かい光の雨を浴びていた。
レインランドでは通常の雨粒以外にも様々な物が降る。今降っているのは暖光と呼ばれ、程よい熱を持った光の粒である。
「普段からこの雨だったら良いのに」
身体が暖まった信彦は着ていたブレザーを脱いで、シャツにもその光を受けていた。
「ですね~…こういう雨、大好きなんですよ~」
「お前自分で歩けよ…!」
暖光が心地よいあまり歩けなくなったレイラ。信介はそんな彼女を傘の入ったリュックごと背負って歩いていた。
「でも~気を付けてくださいよ~…こういう雨の時に限って──」
「お前ら!そこで足を止めな!」
ダダダダダ!
叫び声と共に現れた3人の少女に信彦たちは包囲された。各々刃物と傘を持っている。見るからに敵だ。
「賊が活発化するんです~」
「おい保津!敵だ!野盗だぞ!それも全員美少女だ!」
「包丁持ってるぞ!」
「違う!あれはダガーだ!」
「おいレイラ、傘を出せ!」
「えぇ~?こういう時ぐらいまったりしましょうよ~」
ポンッと叩くと傘が1本飛び出し、落下地点にいた信彦がそれをキャッチした。
「…おい、俺のは?」
「ぐぅ…」
「寝るなよ!えっと…叩けば出てくるんだったな」
リュックを叩くと傘が出る。道中にその仕組みを聞いていた信介はリュックを叩いた。
「…あれ?もしもし?ジョネス?」
ポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンッドササア!
信介は暴れ出た無数の傘に押し潰された。その内の1本は中にいた和傘のジョネスだった。
「悪いな、ジャムってた」
「こんなにいらねえよ!」
「御注文の30回分だ。ありがたく使えよ」
ジョネスはミスをしていない。こんなに傘が出たのは何度も叩く信介がいけないのである。
「お前たち、魔法の傘を沢山持ってるみたいね!」
「い、痛い思いしたくなければ荷物を置いてけ…です」
「ワタシターチ、泣く子モ黙る!」
「「「プレッツ三姉妹!」」」
ドカーン!
三人同時に傘を開くと、その背後で大爆発が起こった。
「アチィィイ!ちょ、長女のジョーノ!」
「次女のツナ!ご、ごめんなさいお姉ちゃん!雨の魔力を溜めすぎたみたい!」
「服ガ焼ケテルネ!アッ三女のパグ!」
「保津!ドジッ娘三姉妹だ!これは手強いぞ!」
「動けそうにないからお前一人で何とかしろ!うぅ!?滅茶苦茶重い傘があるぞ!ってお前かよ!」
「お兄様の背中…とても暖かいです」
言われなくともそのつもりだ。
背中に火が移った少女達が走り回っている間、信彦は傘を開閉させたり振り回したりして、これがどういう能力を持っているのか確認した。
「開くとハンマーになった!閉じるとメイスになる!」
「そいつはハイスだ。重いのによく持ったな」
そのハイスという名の傘には、ジョネスの言うようにかなり重量がある。しかし信彦は軽く開閉して平気な様子だ。
しかし開くと鋼鉄の生地は通常の形ではなく長方形に変形する。一応雨を凌げるようにはなっているが、これを傘と呼んでいいのだろうか。
「フンッ!そんな重そうな武器で私たちを叩けると思ってるの?」
バシュ!
ハイスは閉じた状態の方が軽いようだ。信彦は軽く素振りすると、目の前のリーダーらしき少女へ走り出した。
「キャー!やられる~!誰か~!」
「わざとらしい演技だな!そのダガーにも仕掛けがあるんだろ!」
「あら…御名答」
ジョーノがダガーを振った瞬間、その姿を消した。
「後ろだ!」
信介の声を聴いて傘を広げるとガキン!という音が鳴って傘が揺れた。
「このダガーはシャエラ。見えない斬撃を飛ばすの。ダメージはないけど、その代わり着弾した場所に瞬間移動が出来る!」
そして気付いた時には他の2人が正面からダガーを振ろうとしていた。
グサッ!
2本の刃は信彦の細い腕に突き刺さった。しかし彼は悲鳴をあげず、二人の少女の顔を見ていた。
「…?!ダガー抜けないヨ!」
「こんなに細い腕の筋力で私たちのダガーが…」
少女達はダガーを抜こうと必死になるが、刃は信彦の身体から出てこようとしなかった。
「こうなったら…もっと深く突き刺すしか…」
「お願いだからやめて…凄く痛いから…」
そして信彦は涙を流して懇願した。
「な、泣くならある物全て置いてどっか行って…ください!」
「無理…痛くて動けない…」
ダガーを腕で止められたのは奇跡だった。刺された瞬間、信彦の身体は死の恐怖に怯えるあまり刃を止めてしまったのである。
「…お姉ちゃん、どうするの?」
「私も刺したけど…抜けなくなっちゃった」
それとジョーノが背中に刺したダガーも同じように抜けなくなっていた。
しばらく、沈黙が続いた。その間、何とか立ち上がろうとする信介だったが、ジョネスが邪魔をして結局動けないままだった。
「盗賊なんかやって…金ないのか?」
「ハッ!あんたに何が分かる?」
「僕は別の世界の人間だけど、同じ貧乏人だよ。両親は必死に働いてるけど、酷な社会が贅沢を許してくれなくてさ」
「私達は両親もいない!捨てられたんだ!だからこうやって稼いで食うしか生きる術はないんだよ!」
「可哀想だな…」
「同情するなら」「僕に何か手伝えることはないか?」
思わぬ言葉にジョーノが言葉を止めた。
「…じゃあ私達の仲間になってよ。その便利な傘で商人を襲うんだ」
「悪事には加担できない。それ以外でなら協力は惜しまないよ」
「自分の立場が悪くなるようなことはしたくないってか?笑わせるんじゃないよ!」
「君達は何を望んでるんだ。奪って生き延びて、その先にどんな未来を夢見てる?」
信彦は身体から刃を離してジョーノを傘の中へ入れた。攻撃されたことへの怒りなどはなく、自分に出来る事がないか必死に考えていた。
「夢なんて…あるわけないじゃないですか」
「ソーネ…私達、生きるノ必死ダタカラ」
「だったらさ、僕と一緒に探さないか?」
「え…?」
「僕達は冒険の途中なんだ。きっとこれから色んな場所に行くことになる。こんな広いだけの草原で強盗を繰り返すよりも沢山の物に出会えば、きっと夢が見つかるんじゃないかな」
すると次女のツナも傘の中へ。信彦と真剣に目を合わせて尋ねた。
「本当に…見つかるでしょうか?」
「見つかるよ。見つけるんだ。それが君達の冒険する理由だ」
三女のパグはバッグから薬品と包帯を取り出すと、傷付けてしまった腕の手当てを始めた。
「デモ私達、悪い事沢山シマシタ…」
「だったらこれからの冒険で沢山良い事をして、償っていくことにしよう」
ジョーノは後ろから甘えるように、信彦を抱き締めた。
「私達もついて行って良いんだね?お前達の旅に」
「あぁ、勿論だ」
こうして、信彦達一向に新たな仲間が加わった。元盗賊のプレッツ三姉妹のジョーノ、ツナ、パグ。彼女たちはこれからの冒険で一体、どんな夢を見つけるのだろうか。
それを離れたところで見ていた信介達は…
「一件落着だな。旅の道連れも増えて良かった良かった」
「良かぁねーよ!あいつら盗賊だぞ!良いのかよそんなやつら仲間にして!」
「お前は頭が固いな。大切なのは罪を憎んで人は憎まず、だぞ」
「そ~ですよ~信介さ~ん…お友達が増えるのは良い事ですよ~…ぐぅ…」
「オメーは早く降りろよ!うぅ!動けねえ!おい!話が纏まったならこっち来て助けろ!」
今回は良い所が一つもない信介であった。




