第23話 ゼロではない
炭鉱と一体化していたゴーレムを撃破した事で、カミュー村の炭鉱夫達は沢山の石材を回収する事ができた。材料が集まった事で村の防壁建築は一気に進み、それから一週間で完成にこぎ着けた。
「たった一週間で見事なもんだなぁ!」
「これが魔法の力か…」
「これでこの村も安全だね!」
ノアと信彦、そして信彦に同行することを決めた村長の娘であるネメは、完成したばかりの壁上の通路を見回りも兼ねて歩いていた。
只今は午後3時。天気はレモンティーの雨。
ベトベトに濡れるのが嫌だった信介は、ガッツァーの一味に貸し出された長屋の中で外を眺めていた。
作業で疲れ果てていた三姉妹は酷い寝相で眠っている。ナナは外に置いたバケツにレモンティーが溜まるのをボーっと見ていた。
「信介さん?お疲れですか?」
「あぁ、そりゃあな。一週間働き詰めだったし…」
これが普通の人間だ。しかしノア達は完成の喜びで疲れを忘れてはしゃいでいるのだ。元気過ぎる。
「私も疲れました…」
レイラも布団の上でウトウトとしていて、今にも寝落ちしてしまいそうだった。
ノアは壁上から地面に飛び降りて、今回のクエストの報酬を貰いに村長へ声を掛けた。クエストを受けた時には報酬が貰えるわけでもないと言っておきながら、抜け目のない男である。
「お~い村長!無事に防壁が完成したって事でそろそろ報酬の方を頂戴するぜ」
「あ、ノア…それなんだがな…すまん!この一週間、ハイペースで作業してただろ?それでいつもより多く給料を払っちまって…お前らに出せる金がねえ!その代わり皇軍との戦いで協力が必要になったらいつでも手を貸してやるからよ…」
「んな!?嘘だろ!…じゃ、じゃあ食糧は?」
「それもこの一週間、いつもより頑張ってくれた皆の燃料に…っていうかお前とその連れの男二人が滅茶苦茶食ってただろうが!」
「マジかよ~!?なんだよそれじゃあ働き損…報酬ゼロってかぁ…」
「それじゃあ信彦の他にもう一人、別の世界から来た子がいるの?」
「会わなかったか?信介って名前で、多分長屋の方にいると思うんだけど…」
「ねぇねぇ、信彦がいた世界ってどんな感じなの?」
「僕がいた世界か?う~ん、まず何から話そうか…」
ふと、楽しげに話している信彦とネメに視線が向いた。
「お前の娘は確かに預かった。次に帰って来る時はお前よりも立派になってるだろうぜ」
「期待してる…だがな、泣いて帰って来たらタダじゃ済まさないぜ」
ここへ来たことで新しい仲間が増えた。それが今回のクエストの報酬だ。ゼロではないのだとノアは一人納得するのであった。
「確か三姉妹もナナも、あいつとの会話がキッカケで仲間になったとか言ってたっけ…ノブには仲間を寄せる素質があるんだろうな…」
用事が済んだ今、もうこの村に残る理由はない。ノアは仲間を集合させると、拠点のあるクロスドリアへ出発した。