第21話 親玉の気配
巨大ムカデを抱えたまま、信介は洞窟の中を駆け抜ける。ムカデを両手で抱えながら、レイラから借りている傘も両方の小指でしっかりと握っていた。
「うおおおおおお!」
正面にいたモンスターが次々とムカデのトゲに貫かれていく。刺さる場所がなくなると、信介はムカデを投げ捨てた。
「ま、待ってください!」
息を整えていたところにレイラ達が追い付いた。
「二人とも、大丈夫か?」
「こっちの台詞だ!モンスターの巣に一人で突撃なんて無茶はやめてくれ!」
「おかげで一気に深いところまで来られましたけど…ここからは足並みを揃えて進みましょう」
レイラの言う通りである。ここに来るまでに出会ったモンスターは序の口の強さで、ここからが本番だ。
巣を騒がせた信介達を撃退しようと、奥から色々なモンスターが現れた。
「信介!私達は後ろから支援する。君は気を引いてくれ!」
「分かった!」
傘を握り、信介は臆することなくモンスターの群れに突撃。射程圏内に入った個体に次々とパンチを打ち込んだ。
レイラは周囲の石ころを銃のような形のグリップから装填し、それを石突きから連射。その行動を繰り返した。
ナナは光源として利用していた光の玉を操り、信介を背後から襲おうとしたモンスター達を足止めした。
三人の猛攻によって、洞窟の中にいるモンスターの数は減っていった。
「はぁ…はぁ…」
「ここら辺にいたやつは全部倒せたみたいだね」
「もう弾になりそうな石がありません…」
信介は汗を拭い、さらに先へ進もうとした。
「待つんだ信介、私もレイラも疲れてしまった。少し休憩させてくれ」
「そ、そうか。確かに勢い任せ過ぎたな…」
信介も疲れていたのか、ナナの提案を聞き入れた途端にその場に座り込んだ。
「ノアのやつめ、どうして私達だけで突入させたんだ…」
「まあまあ、それでもここまで来れたんです。私達だけでも大丈夫だと見越しての采配かもしれないですよ」
「そういうものなのかな…信介、どうかしたか?」
二人が話している間、信介は洞窟の奥を見ていた。先はまだ長いが、この先にいる存在に勘付いたようだ。
「この洞窟の奥深くに何かいる気がする」
「最深部にか…それはもしかしたら、この洞窟に住み着いたモンスターの親玉かもしれないな」
「親黙って事はやっぱり強い…ですよね」
息を整えたレイラは周囲の石を削って尖らせ、傘の中に装填していた。
「かもしれない…が、村の人達の為にも放っておくわけにはいかない」
「でしたらノアさんを呼びに一旦戻りましょうか」
「必要ないだろ」
信介は立ち上がると、ズボンに付いた土を払った。そして傘を最深部の方角へ向けた。
「ノアがこれを見抜いてたのかどうかは知らないけど、せっかくここまで来れたんだ。親玉も俺達だけで倒そう」
「…面白い提案だね。いいよ、やってやろう」
「二人とも本気ですか?!まだどんなモンスターが待ち構えてるかも分からないのに!」
驚愕するレイラの肩に信介の手が乗った。
「心配すんな。危なかったら俺が守るから」
「あ…は、はい。ありがとうございます」
「当然だろ。私達は後衛、君は前衛だからね」
休憩を終えた3人は親玉の待つ最深部に向かい歩き出した。