第19話 物は言いよう
信彦はジョーノ達に見回りを任せて、村長の娘を探しに村の中を歩いた。
「ヤバいぞヤバいぞヤバいぞ…もしもあの子を泣かしたって村長に知られたら…」
この身が危ない。誰よりも先に再会して謝罪せねば。
信彦の頭にあるのは泣かしてしまったことへの罪悪感ではなく我が身の危機感だった。
「ダメな物はダメだ!」
村長の家の方から村長の怒鳴り声。信彦は悲鳴を漏らしそうになった口を手で押さえた。
あんな喧嘩上等って感じの村長を怒鳴らせたのはどこのどいつか。静かにその場を覗くと、家の前に立つ村長とその娘の姿を見た。
「ダメって言う方がダメだ!私は冒険に行くんだ!」
「村の外は危険がいっぱいなんだぞ!」
「同じ年齢の子ども達の中で未だに大人と狩りに出てるのなんて私だけなんだ!いくらなんでも過保護すぎるよ!」
「狩りと冒険は違う!寝泊りする場所だって自分で見つけないといけないんだぞ!」
「雨宿があるじゃん!」
「雨宿を使うのが自分だけとは限らない。先にいた人、後から来た人が悪いやつだったらどうするんだ!?」
会話がどんどんヒートアップしていくのを見て、さっきまでの自分もあんな感じだったのかと反省。そして信彦は二人の元に向かった。
「まあまあ落ち着いてください!」
「君は…ノアの仲間か。君からも言ってやってくれ。冒険は素人がやっていい物じゃない。やるにしても成人して学校を出てからだって」
「父さん!この子だって同じ子どもなのにどうして冒険していいの!?」
「他所は他所!ウチはウチだ!才能もない娘が何の勉学も励まず冒険者なんてできるわけないだろ!」
「も、申し上げにくいのですが…自分、異世界からやって来た人間でしてね。素人どころか冒険のぼの字すら知らなかったんですよ」
「なに…そうだったのか」
「実際にやってみるまで素人なのは当然のことなんです。知識だけあってもベテランじゃないんです。だ、だから才能って言葉を出して頭ごなしに否定してしまうのはどうかと…」
村長カンザシは信彦の方を向いた。ついカッとなって物申してしまったことを信彦は後悔した。
「…確かに、君の言う通りかもしれないな」
「じゃあ父さん!言い方を変えるよ!私、この人達の元で勉強したい!絶対に戦わない!後ろからちゃんと観戦する!危ない事はしない!それならいいでしょ!」
「え、ちょっと…」
「あぁ、ノアや彼のようにちゃんとした子どもも一緒なら安心だな!」
これまでとは一転、今度は父親までもが冒険に賛成するようになってしまった。
勝手に仲間が増えるのはマズい。信彦はなんとかこの流れを変えようとしたが、大柄な村長のスマイルの圧に負けて何も言い出せなかった。
「そうだ!自己紹介忘れてた!私ネメ!」
「僕は…信彦…はぁ…」
ちゃんと断れなかった自分に責任がある。信彦はノアへの言い訳を考えつつ、村のどこかにいる三姉妹との合流を目指した。