第14話 地獄のバケツ特訓 その3
信彦達はアッシーが走って行った方角へ進んだ。そこで見たのは、プレッツ三姉妹を背にしてひたすら殴られている信介の姿だった。
「絶対行かせねぇ!」
「邪魔でちっ!どいてくだちゃい!」
信介は竿竹を奪おうと引っ張る。だが彼以上の力を持つアッシーは、竿竹ごと信介を持ち上げたのだ。
「イダダダダダ!」
「離れてくだちゃい!」
先が鋭利に尖っていたら、今頃竿竹は腹を貫いていただろう。
信介は腹部に竿竹を押し込まれるというなんとも痛そうな方法で持ち上がっていた。しかし悲鳴をあげながらも、その両手を絶対に離そうとしなかった。
「えいっ!えいっ!えいっ!」
信介を振り落とそうとアッシーは振り回す。
そして頭上に向かって振り上げたその時、竿竹はスポッと手から抜けてしまったのだ。
「信介さん!」
それを見ていたレイラが悲鳴をあげた。このままの状態で地面に激突したら、本当に串刺しになってしまう。
「保津ゥゥゥゥゥ!」
レイラの後ろで信彦が叫んだ。彼はいつの間にか手にしていたあの傘を、宙に放り出された信介へ届けようと投げ飛ばした。
「ダメか!?」
所詮は平和な世界で暮らしていた人間だ。信彦の投擲などで、傘が空にいる少年に届くはずがなかった。
「私が届かせる!」
ナナが腕を振り上げると、空に向かう強風が発生して傘の軌道が変わった。だがキャッチするも何も、信介は傘が迫っていることに気付いていなかった。
「信介さん!」
「…レイラ!」
レイラの声が聴こえた信介は傘の存在に気付いた。
そして信介は手を前に出して準備し、見事に傘を掴んだ。それはレイラの兄の傘だった。
「なんでちかその傘!?」
「これはなぁ!」
傘を握り締めた信介に力が溢れる。忌々しい竿竹を明後日の方角へ蹴り飛ばすと、そのまま落下してアッシーに接近した。
「お前に勝つための傘だ!」
着地と同時に叩きつけた拳は、地面を砕いて破片を浮かせる。
「土よ固まれ!」
舞い上がった土塊がアッシーに取り付く。それと同時にバケツが満タンになったプレッツ三姉妹は傘を貰い、動きの鈍くなった敵に突撃していった。
「その傘は──」
「殴れればなんでもいい!」
「さっきのお返しです!」
「ウオオオオ!」
せっかく溜めた雨がバケツから零れ落ちる。しかし仲間を勝たせようと躍起になっている三姉妹の攻撃は止まらなかった。
「俺達も!行くぞォォォ!」
信彦とナナはバケツを溜めることを忘れてアッシーの元に向かう。そのノリに流されそうになったレイラだったが、冷静さを取り戻した。
「なんで倒す流れになってるんです!?」
「あいつが立ってる限り雨は溜まらない!攻め続けるぞ!」
そして信介も加勢した。しかし数で圧倒出来るほど甘い相手ではなく、土を払ったアッシーは全員を相手に戦い始めた。
そして三日三晩、眠らずに戦いを続けて最初に倒れたのはアッシーだった。
「ヤバいなこいつ…途中眠りながら戦ってたぞ…」
「皆さん倒れないでくださいよ…このままノアさんの元まで…」
信彦達は肩を組んで七人八脚の状態でノアの元まで向かった。小石という痛すぎる雨が降っているが、既に満タンのバケツからは弾かれていた。
「よぉ!やり切ったみたいだな!バケツ特訓合格だ!」
ノアが手に持っていたリモコンのスイッチを押すと、全員のヘルメットが頭から外れた。
「頭軽って!?小石降ってるじゃん!」
「早くクロスドリアに!」
そうして喜ぶ間もなく、身を守るために少年達はクロスドリアに走っていった。