第13話 地獄のバケツ特訓 その2
夜食中だった信介とプレッツ三姉妹を叩きのめしたアッシーが草原を走り回り、上手く身を隠している3人を探していた。
そして信彦達はナナが魔法で造った質素なオブジェクトの下で雨を逃れていた。それは傘のような形をしているが傘布となる部分が本来地面だったもので、下にいる少年達は頭に土を浴びていた。
「あのアッシーという少女はおそらく、バケツに雨が落ちる音を頼りに私達を探っている」
「どうしてそんな事分かるんだ?」
「彼女が持っている竿竹にかじられた跡があった。あれはポクポクチクと言って食すと聴覚が強化されるアイテムなんだ。まあ理由がなければ聴覚を強くする必要はないから、大抵は装備の素材にされてしまうよ。それにしてもタケノコではなく成長した状態で食べたとは、よほど食い意地が張っているのだろうね」
その解説を聴いて、信彦は声を出して関心した反応を示している。ポクポクチクの聴覚強化能力に驚いたのは勿論だが、それを語る魔法使いナナ・ナ・ナナナナが格好良かったのが大きい。
「ナナは凄いなぁ、そんな事に気付くなんて」
「ワッハッハッ!早く気付かないと物語が停滞して最悪エタりかねんからな」
「エタるのは困るなぁ」
「二人して何の話してるんですか…」
こうして雨を凌いでいる間ならバケツの音は鳴らず、目視されない限り見つかる心配はない。だがそれは同時に、特訓のゴールに向かう足を止めている事と同じであった。
「信介達は大丈夫かな…」
葉っぱから変わって小石が降り始める。これは落葉雨と同じく、風で舞い上がったとされる小石が降って来ている小石雨だ。そしてこれが、ナナの用意したオブジェクトにダメージを与えて行った。
「なんか降って来る土の量が増えてないか!?」
「どんどん小石が乗っかって耐えられなくなってるんですよ!」
「脱出だー!」
そうしてオブジェクトの崩壊から逃れたものの、今度は小石の雨が脅威となった。
「いてててて!」
「キャー!キャー!痛い痛い痛い痛い!」
「まずい!アッシーが来るぞ!」
硬い小石がバケツへ落ちる事でカランカランと音がなる。その音を聴いたアッシーは竿竹を振り回して信彦達の元へ走って来ていた。
「見つけまちたよ!」
「こうなったら戦ォエ!?」
魔法を発動する時間も貰えずにナナは腹を竹で突かれた。その上足払いをされて小石の転がる地面に倒れて、バケツの中身を漏らしてしまった。
「イデェ!!!」
「ギャッ!!!」
続けざまに信彦とレイラも攻撃を喰らいバケツの中身を零してしまった。
「えぇっ!?何するんですか!」
「こうでちこうでちこうでち!」
アッシーは倒したレイラを持ち上げ、バケツの中身がなくなるように激しくシェイク。そのあと投げ捨てられたレイラは目を回していた。
「さてと…信介さん達、懲りずに溜めてまちゅね!」
姿は見えないが、もう一方のグループがバケツに雨を貯めているのに気付いたようだ。アッシーは竿竹を持ち直すと、彼らがいると思わしき方向へ疾走していった。
「いってぇ………二人とも、大丈夫か!?」
「お腹痛いよ~!信彦~!」
ナナは号泣。バケツに雨が入って音が鳴らないように両腕を蓋にしていた。
「うぅ…このままだと埒が明かない…せめて傘があれば…」
「向こうも竿竹振り回してるし、こっちだって傘を使ってもいいよな…」
「ごめんなさい、リュックは病室に置いて来てしまって…」
コッソリと取りに行けばバレないか?そうズルい考えが浮かんだ信彦達の元に、ある人物がやって来た。
「おいレイラ。忘れ物だぞ」
「ジョネスさん!」
レイラの傘が入ったリュックを引っ張って、唐傘小僧のジョネス・ハンウェイが現われた。わざわざ病院から小石を浴びてここまで来たようだ。
「傷だらけだけど戦ってるのか?」
レイラはジョネスに特訓の事を話す。そこでジョネスはアドバイスをすることにした。
「そんなやつ相手にしながらバケツ一杯まで貯めるなんて今のお前らじゃ無理だ。一生雨に打たれる事になるぞ。戦った方が早い」
「戦うって…あんなやつと?」
「あんなチビ、ゾルマと比べたらカスだぞ」
「いや口悪いな!?でもまあ確かに、あいつと戦った時と比べたらなぁ…」
「これ以上は自分で考えろ。俺じゃなくてお前達の修行なんだからな」
ジョネスは身体を閉じると縦に長いリュックの中へ飛び込んだ。リュックを運んできたりアドバイスしたり、色々と世話を焼いてくれた。
「…ひとまず、信介達と合流しよう」
「そうですね。歩けそうですか、ナナさん」
「う、うん…」
三人は適当な傘を広げてバケツに雨が入らないようにした。そしてアッシーが向かった方向へ歩き出し、信介達を探し始めた。