第12話 地獄のバケツ特訓 その1
バケツ特訓が始まって1時間が経過した頃。現在の天候は、空に舞っていった葉が一斉に落ちてきている落葉雨。
少年達は全員倒れていた。バケツも横になっているので、当然雨も貯まらない。
「頑張ってくだちゃい!特訓はこれからでち!」
彼ら全員を相手に出来る程の実力を持つアッシーだがまだ幼い子供である。だから力の差という物に理解がなく、手加減することを知らないのだ。
「それでは雨天皇に勝てまちぇんよ!」
「くっ…!」
信介が首を起こして雨を集めている事に気付くと、アッシーはすぐさま竿竹で額を殴った。
「頑張ってくだちゃい!」
「少しは…少しは手加減しろッ!ッ!」
諦めずに反撃。だが怒りの混じった蹴りは簡単に避けられてしまい、腹部を竿竹で突打されてしまう。
「…あれ?」
しかし信介に気を取られている間に、他のメンバーが姿を消していた。
「あいつら、ようやく別のやり方に移ったな」
同じ場所に固まってはアッシーのサンドバッグになるだけ。ナナのかけた音が立たなくなる魔法を受けた後、全員一斉に散らばったのだ。
「それでは…放ちてくだちゃい!」
せっかく雨を溜めているのにそれを邪魔させるわけにはいかないと、倒れたままの信介がアッシーを掴んだ。何度竿竹で殴られても、手を放そうとはしなかった。
「お頭さま!これずるでち!」
「頑張れアッシー、皆のバケツが一杯になっちまうよ~」
「スルーでちか…んんんんんん!」
アッシーは信介を背負うという強硬手段に出た。小柄な割にパワーもある。冒険素人の信介達よりも、彼女はよっぽど強かった。
「絶対に降ろちまちぇんからね!」
「これで少しは鈍くなるだろ…」
しかし彼の予想を裏切る程、アッシーは速かった。まるで自転車で全力疾走している時のような風を顔に受ける程だ。
「皆の居場所分かるのかよ」
「あいっ!バケツに落ちる雨音を辿ってまちゅ!」
しかし今降っているのは葉っぱだ。信介が耳を澄ませても、風の音ぐらいしか聴こえない。
(いやおかしくないか。足音立てずにこんな速く走れるなんて…それに全く息が乱れてない…)
「見つけまちた!」
「うっ!?わああああああ!」
投げ飛ばされた先には呑気に突っ立って雨を貯めているプレッツ三姉妹の姿が。信介は彼女達と激突し、傾いたバケツの中身が溢れ出てしまった。
「あぁ結構貯まってたのに!」
「大丈夫ですか信介さん!」
「見つかっチャッタヨー!」
「後の三人は…こっちでちゅね」
そうして今頃、バケツに葉っぱを貯めているであろう信彦達の元にアッシーは走っていた。
「こりゃあ逃げ回ってバケツを一杯にするよりも、あの子を倒す方が早いかもね」
「そのまま食べれる木の実と野草を集めたから、これ食べて回復しよう」
「流石に疲れマシター…」
そうして4人は夜食と言うには貧相過ぎる物を食べ始めた。だがしばらくするとバケツを空にしようと走って来たアッシーに襲われて、それどころではなくなってしまった。