初歩と最終段階
ドザー王国はミドルハマー。
ド田舎中のド田舎の町には、超豪邸と訓練場が隣接している。
国一番の金持ちが道楽で建設している施設なのだ。
盗賊退治という力ある者の遊びを終えた三人は、その超豪邸と訓練場の真ん中に建っている小さな家を訪れた。
やはりというべきだろう。
この国一番の金持ちであるジョンマンがそこにいた。
「アラーミさんとクラーノちゃんと……ん? あれ? たしかえっと……」
「ミット魔法国のジゴマです。先日一度お会いしただけなので、覚えていずとも構いませんが……」
「すみませんね! フレーム流の使い手であることは覚えていたのですが、名前が思い出せなくて! ちゃんと覚えてますから!」
(忘れていてほしかった……)
先日ジゴマとジョンマンは戦った。
ジゴマは教師として『教科書通り』に戦ったのだが、ジョンマンもまた『教科書通り』に戦って勝っている。
教師として恥じることはないのだが、魔法使いとしては物凄く恥ずかしいことであった。
とはいえそれを私情と割り切れる程度には、ジゴマも心の整理ができている。
「先日の無様な敗北を覚えておいででしたか、お恥ずかしい。フレーム流戦闘魔法使いとして赤面の至りです」
「何をおっしゃる。それを言うのであれば、未成年の生徒に禁呪を見せるどころか教えている私の方が恥ずかしい。いやほんと……サザンカ先生に指摘されたあと、何日か眠れぬ夜を過ごしたほどで」
「……やはりまじめな方ですな」
「ごほん! 少しよろしいですかな?」
アラーミが遮るように話し始めた。
もともとアラーミとクラーノはアポイントメントをとっていた。
要件はこちらを優先してほしいのであろう。
「娘の浄玻璃眼の進捗はどうでしょうか?」
「お伝えしている通りです。正直に申し上げて難航してますね。性格的に浄玻璃眼の修行が苦手で、コエモちゃんやリンゾウ君ちゃんや魔獣に遅れています」
(リンゾウ君ちゃん?)
話を聞いていたジゴマの耳に著しいノイズが走った。
まさか噂の新女王だとはさすがに気付くまい。
「そうでしたか……ということはそれがしも習得が上手く行かないということですね」
「こればかりは気性の問題ですので……」
(大変ですな……)
弟子や生徒の親に対して『お宅の子供さんは勉強が進んでいません』と伝えることほど心苦しいことはない。
これで生徒が不真面目なら逆に攻められるが、まじめだとそれもやりにくいのだ。
「やはり浄玻璃眼の訓練は性格がもろに出ます。なので少々荒療治ですが、オーシオちゃんやオリョオちゃんには屈辱を味わってもらおうかと」
「屈辱?」
「修行を順調に重ねているコエモちゃんがどれだけ強くなっているのか、体で知ってもらうんですよ」
修行が上手く行かない者は、修行そのものに疑問を覚える。
これで強くなってんのかな、という気持ちでいっぱいなのだ。
それを解消するには、同じ修業が上手く行っている者との差を見せるしかない。
※
かくてオリョオ……リョオマの父であるアラーミ、国一番の実力者クラーノ、そしてフレーム流魔法使いであるジゴマを観戦者として加えた試合が行われることになった。
場所は球技場のような、屋根のない芝生の試合場。
試合に参加しない者たちは、間合いがわかりやすいように試合をする者たちを真横から見る状態だった。
2D格闘ゲームのプレイヤー目線、と言えば趣旨も含めてわかりやすいだろう。
ジョンマンは審判として中央に立ち、コエモとリョオマは運動着を着て試合する構えになっていた。
「最近はこうやって試合をしていなかったから新鮮だね!」
「そうですね……だぜ。今日は父も見ていますので、全力で臨ませていただきます! だぜ!」
(オリョオはなぜ『だぜ』と言っているのだ? ルタオ冬国に行ったそうだが、そこの方言が移ったのか?)
ルタオ冬国にいわれのない風評被害が生じているが、それは誰も気づかない。
情熱のあふれる若い二人は正面から向き合い、正々堂々の試合をしようとしている。
「二人とも頑張って、二人とも勝って~~!」
(応援としては正しいような、論理的に破綻しているような……どっちでしょうか)
リンゾウは大いに盛り上がって応援しているが、マーガリッティはそれが原因で気が散っていた。
「それじゃあ見合って……はじめ!」
コエモもオリョオも拳を構える。
コエモの体術は基本的にオリョオ仕込みであるため、構えは鏡映しのようだった。
ここで実力者たち、つまり一人前である三人の観客は集中力を発揮した。
一人前であるがゆえに、この戦いの流れを感じ取ったのである。
その濃密に圧縮された時間の中で、オリョオは踏み込みつつ拳を繰り出そうとした。
真横から見ているのでとても分かりやすい。だが正面に立つコエモからすれば少しわかりにくいだろう。
だがこれに対して、コエモはほぼ無意識に後ろへ下がっていた。
眠くなったので目をこすったかのような、反射的な動作である。
だが実力者たちも、対峙しているオリョオも、それがオリョオの攻撃圏内から逃れようとしたのだと察した。
(ならば!)
これに対してオリョオも反射的に対応した。
コエモが下がった分だけ前に出て、もう一度攻撃しようとしたのである。
ぱあん。
その瞬間であった。
オリョオが前に出た瞬間に、コエモは軽く拳を突き出していた。
手打ちに近い、牽制のような打撃……というか、手で押したような動きだった。
ただし訓練された、とにかく早い打であった。
「……あれ?」
一打当てたコエモ自身が、当てたことにびっくりしていた。
なんか攻撃されそうだったので下がった、なんか攻撃が当たりそうだったので手を出した。
なんかその通りになってた。
ある種、武の目指すところを彼女は達成していたのである。
これには見ている実力者たちも驚いていたが、当てられたオリョオも驚いている。
「こ、こんなキレイに当てられるなんて……!」
速いわけでも重いわけでもない。
タイミングと距離を完全に測られた、まさにクリーンヒット。
もしも今、エインヘリヤルの鎧を着ていたのなら、絶望して自滅していたかもしれない。
それほどに敗北感を味わっていた。
彼女にとってコエモは弟子も同然。
その弟子になんとなくで負けてしまった。
父の前ということもあって、挫折感は著しい。
身体的にはまだ戦えるが、精神的には完全敗北であった。
ジョンマンから何か言われるまでもなく、観客席に向かって歩いていく。
「それじゃあ次はオーシオちゃん、行ってみようか」
「はいっ!」
(すごい張り切ってる……)
ジョンマンがまったく驚いていないことから、オーシオは自分も負ける流れだと悟っていた。
それはおそらく避けられまい。だがそれでも全力であらがわなければならない。
(正直に言って、負けたくない!)
私情もある。
彼女としても、戦闘面では下に見ていたコエモに負けることは嫌だった。
それも込み込みで、全力で勝とうとしている。
(今の戦いで何が起きたのか、私にはよくわからなかった。でも速さも力も変わってないのなら……その二つを活かす形で戦う!)
少なくとも今と同じ負け方をする気は無い。
しっかりと顔を防御しながら、試合開始を待っていた。
この作戦に対して、ジゴマやアラーミはうんうんと頷いている。
タイミングと距離を把握されていても速度と力が上ならば、防御しておけばまず負けることはない。
(まず防御……から、一気に勝負をつける!)
(やばい、殺されちゃうかも!)
鉄壁の防御の内側で殺意を練るオーシオに、コエモはもはや涙目であった。
だがそれでもジョンマンは普通に試合を開始させる。
「はい、はじめ!」
(やばい……今は、どこに攻撃しても勝てない! むしろそのまま負けちゃう!)
(さっきと違って攻撃してきませんね。今打ってもらえれば楽に勝てましたが……)
二人は正面からにらみ合って動かない。
しっかりと防御を固めているオーシオに対して、コエモは腰が引けていた。
(コエモさんが距離とタイミングを完璧に測れるようになったことはわかりました。でもオーシオさんがああして受けに徹したなら、どう打っても倒せないとわかるだけ。ここから……どう勝つのでしょうか)
落ち込んでいる場合ではないと奮起したオリョオは、対峙している二人とジョンマンを観た。
ジョンマンは特に緊張した様子もなく、コエモが勝つと確信した顔をしている。
きっと自分の時も同じだったのだろう。
(私の時のように油断……いえ、これは言い訳ではありません。試合の場で油断していた私が悪いだけのこと。その私の油断に対して、コエモさんはきれいに打撃を当ててきた。ですが今のオーシオさんには油断も隙もない。これでどうやって勝つのか……)
必死で考えを巡らせているオリョオに対して、オーシオはすでに戦法を固定している。
(ゆっくりと確実に叩く……!)
オーシオはここで片手のガードを下げた。必然的に片方のガードが下がる。無防備と言っていいのかもしれない。
しかしコエモは手を出さなかった。
(あ、ダメだ。今打っても当たらない……でもこのままだと先に攻撃されちゃう!)
コエモが手を出さないことに対して、ジゴマとアラーミはやはり納得している。
オーシオはガードを下げているが、それは意図して下げているだけのこと。
ここに打撃を加えられても耐えられる。そのあと反撃して勝ちだろう。
「二人とも頑張れ~~!」
リンゾウは元気に応援しているが、他の面々は静かに観察するばかりだ。
ゆっくりと拳を攻撃に備えたオーシオはまだ攻撃しない。
こわばっているコエモの表情を観察し、警戒を続けている。
(私はクリーンヒットを狙わない。多少間合いがずれても、腕が伸び切らなくても、ガードされても押し切れる! 外さなければ凡打でも倒せる!)
(やばい、軽くでも当たったら倒される! 顔がマジすぎる!)
ここで、コエモに決定的な利点があったとすれば。
二人の実力差が『ほどよいもの』であったということだろう。
両者の身体能力差が著しいものであれば、どう見切ったところで勝敗は決する。
逆に接戦であればオーシオの戦法も固定できず、コエモも少しは自分の動きを迷っていただろう。
つまりこの瞬間。
オーシオは防御しながら攻撃すると決め、コエモは絶対に回避すると決めていた。
そしてオーシオの攻撃が始まる。
構えていた拳を普通に打とうとしたのだ。
その瞬間、コエモの視界にぼんやりと、しかし何度も見てきたものが映った。
ジョンマンが何度も体験させてくれた、浄玻璃眼による攻撃軌道予測である。
本当に何となくであるが、オーシオの拳が描く軌跡が観えたのだ。
必然、コエモはその軌道から横に身を動かす……動かそうとした。
その時同時に、オーシオの体に違和感を覚えた。
一瞬前までは打ち込む隙が見えなかったのに、今はしっかりと『ここに当てれば勝てる』という場所が見えていた。
これにたいしても反射的に攻撃をしようとする。
オーシオの攻撃は空振りし、コエモの拳はガードされていない顔にしっかりと当たった。
つまり結果として、完璧なクロスカウンターが成功した。
「そんな……!」
「あれっ!?」
コエモに殺意がなく、腰の入った打撃ではなかった。
だがそれでもクリーンヒットであり、オーシオの心も折れている。
「なんという武だ……名人、達人めいた動きだ!」
アラーミは震えていた。
使っている本人が戸惑うほど、完璧に観えている。
浄玻璃眼の覚醒前段階、つまり見切りが極まってきている証拠だ。
さすがにこの段階では超高速戦闘では使えないだろうが、スキルに昇華すれば……。
「……ここまで差が出るものなのですか」
「それだけコエモちゃんも強くなったってことさ」
悔しがっているオーシオと、言葉もできないほど嫉妬しているオリョオに対して、ジョンマンは残酷な真実を伝えていた。
「格闘で何より大事なのは身体能力だ。これに大きな隔たりがあったら勝ち目なんてない。これが近かった場合、体術の差が問われることになる。これも拮抗していたのなら……どれだけ見切れるかが大事になってくる。これも拮抗していたのなら持久力が問われることになるけど、それは少し先だね」
コエモも今日まで一生懸命努力してきた。
身体能力も体術もそれなりの域に入っている。
オーシオやオリョオと比べても、話にならないほどの差はないのだ。
そのうえで見切り、感覚感知の能力はオーシオやオリョオを大きく突き放している。
それがこの結果につながったのだろう。
「まあ一応補足しておくと……コエモちゃんがここまで見切れるのは、オーシオちゃんやりょお……オリョオちゃんが相手だからだ。普段から一緒に訓練していたから、間合いやタイミングを覚えていたんだよ。初めての相手と戦うときは、こんなにうまくはいかないだろうね」
浄玻璃眼を修めてすらいないコエモでもここまで強い。
それを誰もが理解したうえで、ジョンマンはクラーノを誘った。
「それじゃあ今度は浄玻璃眼の最終段階を教えよう。クラーノちゃん、おいで」
「はい! ジョンマン様!」
コエモも下がり、試合の場にはクラーノとジョンマンだけがいる。
審判もいない状態で、双方のスキルは……クラーノの浄玻璃眼だけだった。
「初歩段階でもあれだけ素晴らしい戦いだったのだ……最終段階とはどれほど……!」
(この人、自分の娘が負けたことにまったくこだわってないな)
アラーミの興奮振りにおののくジゴマであったが、気持ちはわからないでもない。
さっきの戦いでも十分見切りの強さは伝わったのだが、その最終段階とはどれほどなのだろうか。
「それじゃあ行くよ」
「どうぞ!」
行くといったのはジョンマンで、どうぞと言ったのはクラーノであった。
だが先に動いたのはクラーノである。
彼女は両手を交差しながら顔面を守った。
その直後にジョンマンの拳がクラーノの顔に向かっていき、防御に阻まれる。
「すごい、攻撃が始まる前に防御できてる……」
ザンクが思わずつぶやいた。
見切りが極まっているとは言えない彼でもわかるほど、クラーノの動き出しがとても早い。
「うむそのとおりだ。彼女は本当に見切りが早い。それがしも彼女と試合をしているが、スキルを使わねば一発当てることもできない。浄玻璃眼を極めているのは伊達ではないのだ!」
(めっちゃしゃべるな……)
手に汗を握って、試合を注視したまま解説するアラーミ。
実に楽しんでいる。今この瞬間は、彼が一番の勝ち組かもしれない。
「失礼します!」
「むっ!」
クラーノはジョンマンの攻撃をしっかり見切りつつ、攻撃によって生じた隙に対して正確に反撃を入れていく。
ジョンマン自身が『無防備な場所』への攻撃に慣れているため、オーシオやオリョオのように一撃で戦闘不能になることはない。
だがそれでも、ジョンマンが一方的に攻撃されていることは事実だった。
しばらくすると、彼の体にダメージの痕が刻まれていた。
それでも彼の余裕は全く崩れない。
「さすがにやるねえ。じゃあそろそろ逆転するよ」
「……はい!」
ここでジョンマンがなにがしかのスキルを使えば、不可解には思わないだろう。
だがジョンマンは素のままだった。ただ拳を構えている。
何が変わったのか。クラーノすらも何が変わったのか、何をするつもりなのかわからない。
彼女すらわからないのだから、他のものにわかるわけもない。
「それ」
「む……おぐっ!?」
まずクラーノが動き、腹部を守った。
その次の瞬間、ジョンマンの拳はクラーノの顔面に命中していた。
今までの攻防を観ていなかったのなら、クラーノがただの間抜けに見えただろう。
しかし今までの攻防を観ていたからこそ、ジョンマンの何かが変わったのだと察した。
だが何が変わったのか、いまだに誰もわかっていない。
「もういっちょ!」
「あ……!?」
右に来ると思えば左、上と思えば下。
クラーノが防御をするたびに、ジョンマンは別の場所へ攻撃を当てていく。
「うぐっ……このまま終わる気はありません!」
「いやいや」
クラーノも果敢に反撃するが、ジョンマンはそれを華麗に防御する。
時にはジョンマンがまったく動いていないのに、クラーノの攻撃が空振りすることさえあった。
「これは……右を撃つと見せかけて左、という具合にだましているのでしょうか?」
「馬鹿な!? クラーノ殿はその見切りも完璧です! それがしも一度もそれを成功させていません!」
ジゴマが防御の失敗の理由を予測するが、アラーミが否定する。
だます、つまりフェイント。それが感知系最強スキルの天才、クラーノに通じるわけがないのだ。
「いや、それで合っている。俺は確かに彼女にフェイントを仕掛けて、彼女はそれにはまっている」
ジョンマンが余裕を持って答えていた。
「なぜ……ですか?」
「簡単な話だよ。俺も浄玻璃眼を使えるからだ。使っているから、じゃない。使えるからだ」
「?」
わからないようにスキルを発動させている、というわけではない。
現在確かにスキルは使っていない。
だがそれでも、修行の際にはスキルを使っている。
「それじゃあヒントを上げよう。ほら」
「えぐ!?」
今度はクラーノの防御が遅れた。
彼女も防御しようとしているのだが、それよりも先にジョンマンの打撃が当たっている。
「これは……予兆が見えなくなった、なくなった?」
「そのとおり。これが浄玻璃眼を持っている者同士の戦闘の、最終段階だ」
クラーノは生まれながらに浄玻璃眼を会得している本物の天才だ。
だからこそ攻撃の前に生じるわずかなモーション……予備動作ですらないわずかな筋肉の緊張からも相手の動きを予測できる。
体が実際に動く前の前の段階から観測できるのだ。
しかし相手が肉体操作を修めていれば、筋肉の一部をちょろっと緊張させるだけで動きを誘導させられるということ。
また逆に、筋肉を少しも緊張させずに攻撃できるのなら……防御を遅らせることができる。
現在ジョンマンがやっているのはこれである。
「俺は君より精度が悪いが、浄玻璃眼を使える。鏡を見て練習をすれば、自分の動きの予兆を知ることができる。あとはそれを意識して出す練習とか、消す練習をしているわけだな」
精度が高すぎることが仇になっていた。
何が起きているのかわからなかったが、至極当然の理屈であった。
「ちなみに身体操作は竜宮の秘宝の延長線上にある。これはこれで、浄玻璃眼とのコンボと言えるな。これに対抗するには、浄玻璃眼の精度をあえて下げて、もっと大きい予兆だけを見るようにする必要がある。相手が浄玻璃眼を持っているとわかった時は、それを思い出すといい」
「なるほど……勉強になります! さすがはジョンマン様! 神!」
基本にして奥義、ではない。
最終段階に進まないと意味がない、トップ層にだけ必要な武術であった。
「武だ……すごく格好のいい武だ……」
「すばらしい。上級者同士でしか成立しない、正真正銘の最終奥義だ!」
武術家としては最高にハマる話だったようである。
アラーミは当然のこと、さっきまで落ち込んでいたオリョオも感動している。
一方で他の面々は……本当に浄玻璃眼を持っている者同士でしか意味がないことだったので反応に困っていた。
(今習っても、って話だね……)
※
さて、ようやくジゴマの案件である。
ジョンマンとその弟子たちはジゴマの話を聞くことになった。
「貴殿らとの闘いがいい刺激になったようでな。特進クラスの生徒たちは大いに躍進している。サザンカ先生の評価もさらに上がった。そのサザンカ先生が推す君の成長度合いを、政府は確認したい。私が言うと変に聞こえるかもしれないが、君は国一番を狙える天才。我が国の宝だからな」
「天才、ですか……まあ天才ですけど」
「マーガリッティちゃん、僕の顔をじっと見てるけどどうしたの? 朝食べた御飯が顔にくっついてるの!?」
マーガリッティはリンゾウの顔を見た。
彼女に出会うまでは、自分が天才だということに疑問を持ったことはない。
だが今となっては少しむなしいようにも思える。
「私より貴方の方がすごい魔法使いだと思うんですよ……」
「やだなあ、そんなことないって! ダンジョン探索の時もマーガリッティちゃん大活躍だったじゃん!」
「ジョンマン殿。彼女はそこまですごい魔法使いなんですか?」
「……ひいき目抜きにしても、伝説級の魔法使いです」
「そこまですごいのなら、彼女にも一度は来ていただきたいですなあ」
ジョンマンもマーガリッティも、人を貶めることはないが、過剰に人を持ち上げることはない。
そんな二人がすごいと言っているのだから、リンゾウ君ちゃんもさぞすごい魔法使いなのだろう。
ジゴマは悪気なくこぼしたが、ジョンマンの弟子たちはすっかり青ざめた顔になった。
「行きます! 行きたいです! どんなところなんだろ~~!」
「またアリババみたいなことを言いだした……」
(誰でも言いそうなことなのに!?)
ジゴマとマーガリッティだけがミット魔法国に行く予定だったのに、リンゾウが乗り気になってしまったせいでややこしくなってしまった。
ジョンマンは顔を抑えてしばらく考えた後、過去の経験から一番面倒のない方法を選んだ。
「みんなでミットに行こう。そうでもしないと、また国が亡びるぞ」
前回のルタオは本当に王の血脈が途絶えたので、説得力のある話だった。
本当はこの場で殴り殺して埋めた方がいいのだが、さすがにそこまではできないジョンマンたちであった。
本日、コミカライズが更新されます。
よろしくお願いします。




