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戦闘能力でゴリ押しダンジョンアタック

 ついに、重厚な鉄扉が解放される。

 チョクシン以外のベテランは外部で待機し、合図に応じて突入の上救助活動に赴く予定である。


 コエモ達七人はたいまつを手に、ミドルハマーのダンジョンに突入する。

 内部はまさに薄暗い自然の洞窟という風情であり、床や壁、天井すら曖昧な場所であった。


 一方で人が踏み荒らしたあと、削れている箇所は存在している。

 一行はそこを道として薄暗い中を進んでいく。


「はあ……今更だけど、私がここに入るとは思わなかったな」


 少し不満そうなのは、冒険者志望であり現地人でもあるコエモだった。

 彼女の吐露に、オーシオは少しだけ意外そうな反応をする。


「意外ですね、コエモちゃんは楽しむかと思っていましたが」

「だってさあ、私にとってここはお父さんが踏破したダンジョンだよ? そんなの入っても、踏破しても、私の冒険じゃないじゃん。お父さんの功績じゃん。だから私、ダンジョンに入るとしても他のところがよかったな」

「叔父上はあまり遠出したがりませんからね……」


 それなりに横幅もある洞窟であるため、一行は互いに距離を取り合っていた。

 具体的に言うと、お互いに手を伸ばし合っても届かない距離である。

 これより近いと、場合によってはコエモやオーシオ、リョオマが他の面々を殴り殺しかねない。

 敵よりも味方を警戒する、冒険初心者の布陣であった。


「ん、ん~~……そろそろかな」


 ほんの一分歩いただけで、魔獣は足を止めた。

 たいまつがわずかに照らす洞窟内部をちらちらと観察すると、マーガリッティに声をかける。


「マーガリッティ先輩、アタシが指示したところに攻撃魔法を撃ってくれる?」

「え? あ、はい……モンスターが見つかったんですか?」

「まだよ」

「?」


 要領を得ないマーガリッティだが、リーダーである魔獣の指示に従った。

 壁や天井などに数発の基礎攻撃魔法が叩き込まれ、何体かの大きな毒虫が降ってくる。


 攻撃魔法を撃ったマーガリッティ本人も驚いたが、他の面々も驚きである。

 一方で魔獣は更に指示を出していた。


「それじゃ今度は、あの曲がり角の奥に撃ってくれる? 着弾したらばーんってなるのがいいわ」

「炸裂魔法を誘導弾として発射すればいいのですね? わかりました」


 流石は万能魔法使いマーガリッティ。

 たいまつで照らされる道の先へ誘導弾を放ち、視界から消えたところでさく裂させていた。

 近代兵器で例えれば小型のミサイルか、あるいは手りゅう弾をカーブで投げたようなものだろう。

 洞窟内部で攻撃音が反響すると同時に、焼け焦げたゴブリンの群れが断末魔の悲鳴を上げつつ倒れていった。


 やはり、ジョンマンの弟子たちは驚いてしまう。

 

「魔獣ちゃん凄い! もしかしてもう浄玻璃眼が使えるの?!」

「そんなわけないでしょうが! こんなん当り前よ、当たり前! ただ掃除(・・)しただけじゃない!」


 コエモから褒められた魔獣だが、程度が低すぎるので逆に憤慨していた。


「いい!? アタシたちは事前に、この階層にいるモンスターの種類を把握しているでしょう? それならモンスターがどこに隠れ潜んでいるのか、ある程度の見当をつけられるのよ。あるいはこうも言えるわね……どこにいたら困るのか、ってことよ」


(そう、それが正しい)


 遠くから監視しているチョクシンは、魔獣の説明に頷いていた。


 ダンジョンは広く、死角が多い。

 どこにモンスターが潜んでいるのかわからず、すべてを検めることはできない。

 ではどうするのか。高確率でいる場所を、確かめるように叩くのである。


 それはモンスターが潜みやすい角や湿り気のある場所、キノコの群生地。

 あるいは襲撃する側のモンスターにとって有利な地形である。自分たちが駆られる側と考えた時『ここにいたら困る』という場所を叩くのだ。

 これを冒険者用語で掃除、クリアリングと呼ぶ。


 そんなことも知らないのだから、彼女たちは確かに初心者だ。

 とはいえ……。


(こんなどうでもいいところで魔法をバカスカ使えるとはな……)


 ダンジョンの入り口付近で、攻撃魔法を十発も使うなど、この国の冒険者からすればあり得ないことだった。

 まずそもそも魔法を使えるものが少ないので、冒険者の中で魔法が使える者となればもっと少ない。

 そんな素人がそれほど強力な魔法を使えるはずもなく、また使える回数も少ない。

 今回のように掃除で……つまりは怪しいところを魔法で攻撃する、というのは贅沢な話なのである。

 たった十発のしょぼい魔法でも、この国の冒険者の基準では『バカスカ』なのだ。


 仮に彼の弟子や後輩が同じように使えば『もっと温存しろ』と口酸っぱく注意するだろう。

 だが彼女たちにそんなことを注意する気にはなれなかった。


(なるほど、これが本職の魔法使い。それも国一番の天才、若手ながら勲章をもらうだけのことはあるか)


 相手は魔法が使える冒険者ではなく、本職の魔法使い。そもそも『魔法が使える』の基準が違う。

 まして彼女は万人が想像する、大抵の魔法をつかいこなせる魔法使い。

 彼女からすれば、今のは準備運動にもならないだろう。


「凄いね、魔獣ちゃん! さすが現役冒険者だ!」

「アンタに褒められてもちっとも嬉しくないわよ! このバカ女王! そもそも陣形を乱すなっていったでしょ! いちいち近づかないの! 離れなさい!」

「あ、そ、そうだったね! ごめんごめん!」


(この分なら奇襲を受ける確率は下がるだろう。問題は戦闘になった時だが……さて)


 知恵、とは強いものだ。射程があればなおさらに。

 待ち構えている敵がいたとしても『芋ほり』のように簡単に倒すことができる。

 だがそれは待っている敵、動かない敵にだけ有効なのだ。向かってくる敵、動いている敵にはそうもいかない。


るるるるおおおおおおおおおおおお!


 チョクシンの考えが呼び水になったのか、この階層では最強とされるモンスターが出現した。

 ホラアナオオカミ。

 いうなれば野犬だが群れであるし、そもそも野犬自体が強い。

 素早い動き、高い知性、強い顎。

 この階層において食物連鎖の頂点に立つ群れが、一気呵成に襲い掛かってきた。


「む……これぐらいなら、俺が!」


 なんの意味があるのかわからない動きをするのは、突出したザンクである。

 ぎこちない演舞のような動きを洞窟内でする彼を、野犬たちは包囲していく。

 仮に一方向を倒しても、残る全方向から攻めたてられて餌食になるだろう。


 しかし次の瞬間、包囲していたはずのオオカミたちがスライド移動した。

 ザンクを食い殺すために包囲していたはずのオオカミたちは、不自然な動きによって一か所にまとめられてしまう。


「とりゃああああ!」


 まさに一網打尽。襲い掛かってきた狼を、文字通りまとめて一撃で倒していた。

 まだまだ少年の彼ではあるが、さすがはザンサンから鍛えられた男。

 この階層で最強、という程度なら問題ではなかった。


「素晴らしいですわだぜ! 神域時間とは似ないものの通じるところのある技術ですわだぜ!」

「あ、あの、リョオマさん!? ちょ、ちょっと近いです! というかぶつかってます! 当たってます! 変形してます!」


 リョオマからむにゅうと押し付けられているザンクは悲鳴を上げていた。

 流石は主人公、とりあえず褒められる環境であった。


(なんだ今の技……スキルとか魔法じゃないな。見たことがない上に、滅茶苦茶有用だぞ。これを実戦で使えるなんて、あの少年もさすがということか)


 チョクシンの目にも、ザンクが一番弱い、というのは明らかだった。

 その彼ですら、チョクシンをして勝ち目がないほどの戦闘能力がある。

 伊達にジョンマンが送り出したわけではない、ということだろう。


「……ねえマーガリッティちゃん。僕たちって浄玻璃眼の特訓でここに来たんだよね? つまりモンスターを見つける練習をしに来たんだよね?」

「そう、ですね。それができているのは、魔獣さんだけですね」

「このままじゃよくないね、僕も頑張ってみつけないと!」

(なんでかしら……リンゾウさんの言っていることはとても正しいのに、賛同する気が起きないわ。普段の行動のせいね……そしてそんな彼女よりも劣っている私……)


 リンゾウがやる気を見せながら周囲を見る中で、マーガリッティは魔獣を見た。

 ジョンマンから任されているだけに、実にまともなリーダーシップを発揮している。

 また、浄玻璃眼の修行という意味でも正しかった。


(魔獣ちゃんは参考になるわね)


 いうなれば、交通安全問題であり、一種のテストである。


 このダンジョンには、どんな種類のモンスターがいるのか。

 そのモンスターはどのような環境を好むのか。

 そのモンスターはどのように捕食を行うのか。


 まずこれを頭に叩き込み、実際のダンジョン内でそれらの条件に合った場所を探す。

 この『条件に合った場所を探す』ということ自体が浄玻璃眼の修行なのだろう。


(よく考えれば、今までもそうだった。雌雄を見分ける特訓も、隠れている昆虫を探す特訓も、学校のテストと同じ……理科、生物の勉強だったわね)


(叔父上が実際にダンジョンへもぐらせた理由が分かるわね。これは騎士の兵法にも通じる考え。地図を見て『敵が潜みやすい場所を予測する』ことと同じ。これなら私でもやる気を出せるわ)


(実際に命の危機がある状況なら、私でも緊張感を保てますわね)


 普段の修行ではいまいちやる気の出せなかった三人が、モチベーションを高めつつあった。

 隠されていない心の表れをみて、チョクシンはわずかに頷く。


(魔獣の言う通り(・・・・)。モンスターに気付くというのは、天性のカンなどというあいまいなものではないし、偶然や幸運でもない。あらかじめモンスターの習性を知っていれば予測が可能。何にも考えず備えもしないバカが死ぬ野生の世界。その点彼女たちは準備ができている)


 やはり、この程度のダンジョンなら問題ない。

 このまま踏破できそうにも見える。


(だが……)


 考えようによっては『じゃあオレは何のためにいるんだ! ふざけんな!』という気持ちになることもあるはずだ。

 しかし、チョクシンはそうならなかった。むしろ心配そうな目で彼らを見守っていた。


(だが、ここはダンジョンだ。ほぼ確実にモンスターがいる場所、高確率でいる場所以外が安全(・・・・・)、というわけではない)


 魔獣だけは事故率を下げているだけ、という緊張感を保っている。

 しかし彼女以外の全員が、現在地が安全だと誤認している。

 ここはダンジョン、今は冒険中。安全な場所も安全な時間も存在しない。


 その不安を肯定するように、ダンジョンの天井から何かが降ってくる。

 それは周囲を観察していたリンゾウの頭部に着弾し、そのままへばりついていた。


「も、もんんんんんんんんんんんんんんん~~!」


「リンゾウ君!?」

「リーンちゃん!?」


 見るもおぞましい、巨大なナメクジ。

 ダンジョンのモンスター、人食いナメクジである。


 このダンジョンに於いて最弱に分類される、そして全世界規模で見ても同様である。

 動きは鈍く、大きさも人間の頭程度で、特別な能力を持っているわけでもない。

 天井から降ってきて頭部などにはりついて、窒息させながら捕食するだけの生物だ。

 簡単に倒せるのだが、実際に張り付かれれば死あるのみ。


 このダンジョンのこの階層にはまんべんなく生息している。極論としてこのダンジョンのこの階層では、どの天井にいてもおかしくない。

 よってこのモンスターを掃除(・・)するには、天井全体を攻撃し続けるしかないのだ。


「どどど、どうしましょうか!? こ、これ、人食いナメクジですよね!?」

「えっと、えっと、こういう時お父さんは……ナメクジに食われるのは間抜けだって言ってた! ぜんぜん役に立たない! お父さんのバカ!」

「そんなことをいってる場合じゃありません! なんとか引きはがしましょう!」

「待ってくださいですわだぜですわ! たしか無理にはがすと大ケガをするとかなんとか……だったようなきがしますわですわ!」

「えっと、こういう時に役に立つ魔法は、どんなのがあったかしら……えっと、えっと……!」


「もんんがああああああああああああああ!」


 混乱する五人と、洞窟内で寝転がり、呼吸困難でもがくリンゾウ。

 その姿を見ても、チョクシンは何かをしようとはしなかった。

 もちろん彼も鬼ではない、本当に危なくなれば手を出すつもりだった。

 まだその段階ではないのだ。


(さすがだな、魔獣殿。貴殿だけは冷静だ)


 魔獣はパニック状態の六人をみて呆れつつ、ナメクジが落ちてきた天井を見上げた。

 やはりというべきだろう。同じように多くのナメクジがへばりついており、時間差でどんどん落下してきて来る。


「はあ……これだから新人のお守りは大変なのよね」


 魔獣の背中から、巨大な腕が生えてくる。

 混乱している六人にかぶさるようにかばい、ナメクジを受け止めていた。


「あ、え?」


「どいつもこいつも……平常心が足りないわね。ねえコエモ、未来の冒険者様? 仲間がモンスターから不意打ちを受けた時、まずすることはなんだったっけ?」

「あ、えっと……その、他のモンスターが来ないか警戒する」

「警戒した?」

「しなかったです、はい」

「アタシがかばってなかったら、全員餌食だったわよ」


 魔獣は腕を振るってナメクジを弾きつつ、コエモを含めた面々へ指導をしていた。

 もちろん今も、リンゾウは床に転がっている。


「冒険している時はね、仲間を心配するんじゃなくて自分の心配をしなさい。それが結局、全員を助けることになるのよ」

「あ、あの……そういっている間に、リンゾウ君ちゃんが死にそうなんですけど……」

「冒険してるんだから死ぬことだってあるわよ!」


 非情にも見える魔獣だが、彼女だけが正しい。

 冷静に、冷淡に、冷酷にならなければ誰も助けられない。


「で、でもさ! リーンちゃんはルタオ冬国の女王様だよ!? 死んだらマズいよ!?」

「違いますわだぜ! リンゾウ君は女王の弟君ですわ!」

「え、兄という設定では?!」


「……?」

「……?」

(……?)


 魔獣、ザンク、チョクシン。

 リンゾウの事情を良く知らない三人は、静かな混乱に陥り思考が停止していた。


 一時、この場の全員が訳が分からないという顔をするも、魔獣が正気に返る。


「ああ、はいはい。このバカの事情なんてなんでもいいわよ。アタシが処置するから、他の全員は周囲を警戒しなさい」


 彼女の粗雑な指示を受けて、五人は戸惑いつつも従った。

 誰もがリンゾウを心配しつつも、円陣を作って彼女を守ったのである。


「さて……」

「もがああああああ!」


(む、一人で処置する気か? 患者が暴れるのはよくあること、人手がいるのだし手分けをして拘束したほうが互いに怪我をせずにすむが……)


 ここで初めて、魔獣はチョクシンに沿わない行動を見せた。

 ここはザンクにリンゾウの手を抑えてもらうなどをしたほうがいいのだが……。

 アタシなら一人でも余裕よ、と言わんばかりにソロで無理に行動をするのなら減点である。


「よいしょっと」


 にょきにょきと生えてくる魔獣の腕、その数四本。

 力強いそれを優しく使って、リンゾウの両手両足を上から抑え込んだ。

 そのうえで自分の手で持っているたいまつを、ゆっくりとナメクジに押し当てる。


(便利だな……)


 チョクシンは当然ながら、周囲を警戒しているはずの面々も彼女の振舞を見て羨望を抱いていた。

 自分の意のままに動く腕が複数あるのは、こういう時に便利である。


「あと少しね~~」


 ナメクジはしばらく大きく揺れていたが、やがて動きを止めていた。

 熱したフライパンの上に流し込まれた生卵が目玉焼きになるように、ナメクジの体もゆっくりと変色していく。

 ほどなくしてずるりとナメクジの体はリンゾウの頭から外れていた。


「ぷはあああ! ありがとう! 死んじゃうかと思った!」

「まったくそうね。アタシに感謝しなさい」

「これでもう大丈夫だね!」

「そんなはずないでしょうが。アンタ、危うく食い殺されるところだったのよ?」


 リンゾウの顔面は、ナメクジの消化液をモロに浴びていたのだ。

 即死するほどではないが、火傷のあとぐらいは残りそうである。


「大丈夫大丈夫! 竜宮の秘法を習得しているから、この程度の酸は効かないって!」

(なんだそれは……)


 一方でリンゾウの顔は、まったくもって綺麗なままだった。

 健康系スキルである竜宮の秘法は、体力量魔力量を増やすだけではなく免疫なども向上する。

 雑魚モンスターの消化液を数分浴びた程度では、肌に傷が残ることもない。


 理屈は想像がつくのだが、チョクシンからすればあっけにとられる話だった。


「一応消毒液をかけておくわよ、その後はぬぐっておきなさい」

「は~~い!」


 精神的にもタフなリンゾウ。もはや彼女を心配することが無意味ではないか。

 ジョンマンと同じ境地に達しかけたコエモ達だが、ここで自分の目の前に『モンスター』がいることに気付いた。


「……うそ、なんでここまで気付かなかったの?」


 まったくもってありえないことに、コエモの前に大型のモンスターがいた。

 アンダースネーク。大型の蛇であり、このダンジョンの中層に生息している。

 この浅い層にはめったに現れないのだが、それが一体だけ彼女の前にいた。


 もちろん、透明になる能力があるわけではない。

 保護色によって多少の迷彩が効いているが、それだけである。

 蛇なので静音性は高いのだが、それでも前を見ていれば気付けるはずだった。

 にも拘わらず接近に気付かなかったのは、言うまでもない。


「私バカだ……前を見てるのに、リンゾウ君に気を取られていた」


 前を向いているのに、後ろに注意が回っていた。

 これでは案山子同然であり、本来の役目を果たせていない。

 コエモは自分の不明を恥じていた。


じゃああああ!


 アンダースネークは長い体でコエモを締め付けつつ、その大きな顎を開けて噛みつこうとしてくる。

 エインヘリヤルの鎧を習得しているコエモだが、現在は装着しておらず、また今から装備するには遅すぎた。


「ん~~ふん!」


 しかしコエモは、限界近くまで肉体を鍛えている。

 体に力を込めて腕を広げるだけで、アンダースネークの拘束を振りほどいていた。

 

「そお……れええええ!」


 さらにそのまま長い尾を掴んで振り回し、硬い地面にたたきつける。

 ただ一撃でアンダースネークは息絶え、まったく動かなくなっていた。


(わかっていたが、凄い力だな……私ならあの体勢になった時点で死ぬしかないぞ)


 チョクシンならば、あそこまで近づかれるようなへまはしない。

 逆に締め付けられてしまったら、単独で脱出することはできないだろう。

 どちらがいいかと言えばチョクシンの方が上等だろうが、それでも驚嘆すべき鍛錬の成果である。


「大丈夫ですか、コエモちゃん」

「ん? ちょっとびっくりしただけ。なんてことないよ……はあ、あそこまで近づいてようやく気付くなんて、自分でがっかり」


 コエモ自身も自分の不明を認め、初ダンジョンの採点結果がさんざんだと評した。

 どうせならもうちょっといい成績を修めたかったものである。


「なあに言ってるのよ、全員生きてるだけで御の字じゃない。初日なんだし、ここいらで区切りをつけて帰りましょ」


 リーダーである魔獣は冒険を切り上げる決断をした。

 すでに全員が課題を見つけた、という判断かもしれない。

 あるいは、トラブルが一度起きたので撤収すべきだと考えたのかもしれない。

 いずれにせよ、正しい判断である。


(とはいえ、帰りは帰りで気が緩む。集中力を保てなければ、結局大ケガを……)

「それじゃあジョンマンさんからの指示通り、帰りはアンタの出番よ。聖域魔法ってのを使って、安全に帰りましょ」

「任せといて! モンスターがどこにいても、近づき次第やっつけるから!」


 聖域魔法はその特性上、雑魚に強い。

 敵味方を識別する範囲魔法であるため、ダンジョンのような危険地帯では特に有用性が高い。

 もうぶっちゃけヌルゲーと化してしまう。


 なので帰りまでは使わずにいたのであった。


 ーー後日、チョクシンは語った。

 ダンジョンの中に安全地帯はないが、聖域は作れるのだと。

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― 新着の感想 ―
チョクシン「もしかして:三国志演義の周倉とか、北斗の拳のリンとバットとか、ドラゴンボールのクリリンとか、銀魂の新八くんみたいな読者代表・兼・実況解説役です?」
[一言] コレ、力技で強引に安全を確保しているだけで 弱いモンスターにかなり振り回されてるしもっと低コストで成果を上げるにはって思考が行くよな もしかしてヂュースとかある程度実績のある人物に第三スキル…
[良い点] 一流でなくとも、大人で一人前の冒険者や。 [気になる点] 改めて鑑みるに、冒険の中で使うにはチートが過ぎる。 [一言] ネズミにとっての最適解とドラゴンにとってのソレは当然の様に異なる以上…
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