表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/87

昔のノリ

 ザンクがひとしきり泣いた後、魔獣は彼を連れてジョンマンの家に戻った。

 彼ならば辛い修行にも耐えられる。そう太鼓判を押すつもりだった。


「故郷の奴らさあ! お前が鍛えればいいじゃんって言うんだよ! ふざけんなだよなあ!」

「わかる! すげえわかる!」

「そりゃできるぜ? 俺は天才じゃないから、指導できるぜ? でもさあ! 鍛えるってことは、そりゃもう、徹底して痛めつけるってことだぜ?」

「そうそう!」

「よそ様のご子息でも緊張するってのに! ないがしろにした娘と! あんな出来たお婿君の間にできた! 最後の生き残り的なご落胤だぜ!?」

「痛めつけられるわけねえよなあ!」

「だろおおお!?」


 ジョンマンとザンサンは、酒を飲んで盛り上がっていた。

 それはもうじゃんじゃん飲んでいて、完全に出来上がっていた。

 悪い意味で男らしい二人だった。


「アークニの奴だって、最後までヤーヤに謝ってたんだぜ!? 助けに来るのが遅れた俺を責めずに、だぜ!?」

「かああ! 出来た嫁だなあ!」

「『貴方は白馬の王子様、いつだって私のところに来てくれた』って言ってたんだぜ!? で『ごめんなさい、ヤーヤ。私は駄目なお母さんだったわ』だぜ!?」

「まあ、わかるな!」

「まともな神経してたら、そうなるよな!」


 二人は酒をあおりながら、大いに語り合っていた。


「覚えてるか? アークニはな、子供のころから『将来大人になったらやりたいこと』ってのをメモしてたんだよ!」

「覚えてる! 『結婚式では外国から王様を呼ぶ』とか『ウェディングケーキは山みたいにおおきいの』とか『新婚旅行は世界一周旅行する』とかな!」

「よく覚えてるなあ、お前! そのメモをな、アイツ、ヤーヤにも見せてたんだよ! 『これはママにパパが約束してくれたことなの』『パパが帰ってきたら、ママはこれをするの』って! 辛い中頑張るために、それを支えにしてたんだよ! それはいいけどさ、俺が悪いんだしさ! でもヤーヤは困っただろ!」

「だよなあ……俺たちが総力を挙げて実現させてた時、すげえ顔してたもんなあ」


(なんかすごいこと話してる……)

(おばあちゃん……)


「40人隊のプール金全部ぶっこんで区画整理して結婚式場建てて、諸外国から王様とか女王様とか大統領とか招待しまくって、ケーキも国中の職人雇って、材料集めに俺たちもノルマ課されたりな」

「で、思ったよりでっかい式場になって、招待客が足りないからって、セサミ盗賊団の連中を招待したんだよなあ。呼ぶ方も呼ぶ方だけど、来る方もどうかしてるよな」

「ああ。律儀にシムシムと最高幹部、幹部全員出席してくれたよ……正直嬉しかった。マゼランの爺さんは、すげえ顔してたな」

「あの時のマゼランは、まだメンバーじゃなかったけど……呼んだら大統領と一緒に来てくれたんだよなあ。まあ、すげえ顔してたのは、俺達以外ほぼ全員だったけどな」


 ここで二人は、唐突に寸劇を始めた。


「そうそう! シムシムとアリババで、司会進行したんだよ!」

「『どうも、この度は我がアリババ40人隊のメンバー、ザンサンと、その妻となるアークニさんの結婚式にご出席くださり、ありがとうございます。司会進行を務めますのは、アリババ40人隊隊長のアリババと……』」

「『セサミ盗賊団頭目のシムシムです。普段は商売敵として争っている私どもですが、二人の新しい門出を祝うことを許してくださり、ありがたく思っております』」

「『なあシムシム、お前結構司会進行板についてるなあ』」

「『くく……若いな、アリババ。我がセサミ盗賊団は国際的な犯罪組織なので、結婚式などがないと大勢集まるのが難しいのだ。そして私は頭目として、部下の結婚式で司会進行を務めるのだ』」

「『へ~~。俺はこれが初めてだけどなあ~~。よし、今後も結婚式があったら、俺が司会進行をするか!』」

「『その時はぜひ呼んでくれ。喜んで出席させてもらう』」

「結局アレ一回だったなあ……」


(仲いいの!?)

(おばあちゃんとお爺ちゃんの結婚式って、そんな感じだったんだ……)


「国際的な犯罪組織なんだから、幹部も最高幹部も忙しいだろうに……お前の結婚式のために、よく出席してくれたよな」

「ああ、まったくだ。特にうれしかったのが、シムシムが新郎である俺のことを良く知ってて、褒めてくれたことだな。引退を惜しんでもくれた」

「いくら40人しかいないからって、全員のプロフィールを記憶しているとは思わなかったぜ。さすが大組織の長、マメだぜ」


 ろくでなしの父親が帰ってきたと思ったら、憔悴した母が正気とは思えないような『子供の夢』を実現させ始めた時の、ヤーヤの心中や如何に。


 アークニにとっては大願成就だっただろうが、ヤーヤにとっては悪夢だったはずだ。

 すごく恥ずかしかっただろう。


「で、そのあとの新婚旅行はどうだったんだ? 結局世界一周したのか?」

「したさ。だけど嫁の体力が持たなくてなあ……道中で何度か入院した」

「入院したのか……まあ旅は過酷なもんだしな」

「もともと、娘を育てるために無茶をしていたからな……でも、楽しそうにしていたよ。夢が現実になって嬉しいって」

「そらよかった」

「でもまあ、他のことも大概だったな。超でかい城を新居として建てたら『広すぎて落ち着かない』とか、食べきれないほどのケーキをテーブルの上に並べたら『もう食べられない』とか、一流シェフの料理を毎日食べてたら『美味しいのかどうかわからない』とか、お手伝いさんを雇って家事を任せてたら『やることがない』とかな」

「じゃあ途中で辞めたのか?」

「いや、死ぬまでその暮らしだった。『今まで苦労した分、全力で取り返す』って言ってた」


(どんだけ金持ちなんだ、こいつ……)

(おばあちゃん、そんな生活してたんだ……)


 ザンクはなんの気なしに『おばあちゃんの家に行ってみたい』と母に言ったことがあるのだが、その時ものすごく怒られた。

 なぜ怒られたのか、今更謎が解けていた。


「ま~~……そんなこんなで、悪い意味で男らしい俺と、悪い意味で女らしいアークニを、ヤーヤは嫌ってたんだ。それが発展して、男らしい男とか、女らしい女を徹底して嫌って、逆張りするようになっちまったんだ」

「まあ、まともな神経してればそうなるな」

「でもなあ……正直俺は、心配だったんだよ。たしかに俺は男らしいクズだった。でも世の中、男らしくないクズもわんさかいるだろ? 婿であるランド君が、男らしくないクズかもしれないって……俺は、自分のことを棚に上げて、あんな、いい、夫を……うう……」

「泣けよ、ザンサン」

「自分がもっとしっかりしていれば、あんな悲劇には会わなかったって……なんてできた『男』なんだ! 彼こそ男の中の男だ!」

「うんうん!」

「なあ……ジョンマン! 俺が嫌われ役を演じるべきだったのかなあ! 古い爺さんみたいに『これがお前のためなんだ!』って怒鳴って、無理矢理近くに置いておくべきだったのかなあ! そうじゃなくても、『俺はお前の父だぞ! 娘の家に来て何が悪い!』って怒鳴って嫁と一緒に家へ行けばよかったのかなあ!」

「それはマジでハラスメントだからやめて正解だぜ」


 泣きながら後悔するザンサンを、ジョンマンは慰めている。


「割とマジで、お前はなんもしなくて正解だぜ」


 物凄く素で、酔いのない顔で『まちがってないよ』と言っていた。


「お前の故郷以外にも安全な町はあっただろうから、そこに引っ越すべきだったとは思うが……」

「ヤーヤはアークニに逆張りしてたからな、なんでも反対のことをしないと気が済まなかったんだろう。あと安全な町で生まれ育ったから、危険な町への危機感がなかったんだろうな。ランド君からそういう提案をされても、怒って反発しただろう。あれだけできた夫が細心の注意を払っても、説得するたびにケンカになってただろうな」

「それを察して、何も言わなかったか……それを、死ぬ間際に後悔したんだろうな」

「俺が、俺が、そもそもアークニの傍を離れなければ……!」

「……」

「おいジョンマン、今なんで黙った?」

「……正直に言っていいか? その場合、悪い父親になってただけだと思うぜ。結局嫌われてたぜ」

「ケンカ売ってんのか、小僧!」

「お、やんのかオッサン! 久しぶりだからって、手加減しないぜ?」

「へっ、ぬかしやがる!」


 二人の酔っぱらいは笑顔で拳を構えて、殴り合いを始めようとしたが……。


『ああ、ごほん。カワイイお孫が見てるわよ』


 魔獣の言葉で、一気に素面になっていた。


「……そろそろお開きにするか」

「俺たちも大人になったな……」


『大人になったんなら、ここまで酔っぱらわないでほしいんだけど!』

(男らしいって、難しいんだな……)

第一巻、好評発売中です!


どうもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いやぁ……護衛なんて付けたら反発されてたと思うな…… 身の回りを守って気が付かれないレベルの手練れを一般人守らせるために拘束するなんて、ただ金があれば雇えるもんでもないだろうし 上手くやればできなくは…
一言。 財力も人脈もスゴいんだし、護衛を付けとけよ、と。
[一言] 酒に飲まれない事、酔いを楽しむ事、どちらも酒飲みには大事な事だよね。まぁそれな大人かどうかは知らんけどw 大人の飲み方というかは知らんけど、おっさんの飲み方ではあるww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ