総集編的な振り返り
新しい弟子が来た翌日、ジョンマンは自宅で新弟子とくつろいでいた。
「むふふふ! たったの一日で、アレだけの豪邸を掃除したわ! 有言実行の女と呼んでちょうだい! 私の下働きとしての働きっぷりには、姉弟子たちも舌を巻くでしょうね! こんなに優秀な妹弟子なんですもの!」
「そうかねえ……まあ掃除したのはエライと思うぞ」
「ぷくく! わかってる、わかってるわよ! どうせ途中で投げ出すとでも思ってたんでしょ? 残念でした~~! 反省した私は無敵で真面目ですぅううう!」
「はいはい、偉い偉い」
昔の俺はこうだったなあ、と思いながらジョンマンは聞き流していた。
相手の方も自慢することが目的であったらしく、ジョンマンが聞き流していても怒ることはなかった。
むしろ自分からさっさと話題を切り替えていく。
「……でさあ、なんでオッサンの弟子は女子ばっかなわけ?」
「それが、なあ……なんでだろうなあ……?」
今まで『なんで?』と聞かれることがなかったため、ジョンマン自身以外は特に問題にしてこなかった『ジョンマンの弟子女子ばっか問題』。
それに切り込んできたのが、若き日のジョンマンに似た淑女だというのだから、ある意味自然な流れである。
「こういう時は、最初から順番に話すのがいいって言うわよ? 聞いてあげるから、整理してみれば? まあ、今まで整理してなかったのはマジでヤバいと思うけどさ」
「うん……」
当然ながら、『弟子募集、美少女限定』なる看板は下げていない。(というか、そんな看板下げたら誰も来なくなるだろう)
にもかかわらず、ジョンマンの元には女子ばかり来ている。
「一番弟子は、オーシオちゃんだ。俺の兄貴の娘、姪っ子だよ。俺の兄貴はめちゃくちゃ出世しててね、この国の王族と結婚してるから、あの子は王族の血を継いでるんだ」
「なんか、いきなりパンチの利いた話ね」
「まあな。で、俺と兄貴が試合をして、俺が兄貴を再起不能にしちまった」
「アンタ、何してんのよ」
「今はちょっと後悔してる」
「もっとしなさいよね、バカじゃないの?」
(弟子のくせに好きかって言いやがる……俺もこうだったな)
一人目の弟子が抱える状況を聞いて、新弟子は忌憚のない批判をぶつけていた。
情報だけ聞いていると、実際そうなので反論はしなかった。
というか、彼女を叱ると昔の自分を叱っている気になるので、あんまりいい気がしなかったのだ。
「で、兄貴が倒れたんで、王族内での立場がヤバくなったあの子は、俺の弟子になって強くなって立場をとりもどそうとしてるんだよ」
「……それ、仇討ち目的じゃないの? こう、隙を見てグサ、みたいな」
「あ~~……まあそう考えても不思議じゃないが、本人にその気はないぞ」
「いや、絶対その気だって……油断したところをぶすりとするわよ」
いきなり家族間の抗争を危惧している新弟子だが、彼女の解釈が間違っているとは思えない。
むしろオーシオが現実的、割り切りすぎているとも言えた。
「二番弟子はコエモちゃんだな。と言っても、ほとんど同時期なんだが……。あの子はこの町一番の冒険者の娘でね、町の外に憧れがあったんだ。だから俺の元で修行して、強くなって海の外に出るんだと」
「……え、終わり?」
「うん」
コエモの事情は驚くほど単純であった。
むしろ彼女ぐらいが普通であろうし、他が異常なのだろうが。
「……で、三人目はリョオマ君で……君で……明日に話さないか?」
「やましいことでもあんの?」
「ないけどさあ……」
異常の極みみたいなのが、三人目として控えていた。
避けて通れないだけに、ジョンマンは心して話す。
「あの子は、見ての通り女の子でね、男装している気になっているんだ」
「その理由を話しなさいよ」
「それがさあ……あの子は武術家の家系でね、元々は俺の嫁になる気でここに来たんだ」
「はあ? 犯罪じゃん! 超かわいそうじゃん! なに、え、オッサン、まさかその話受けたの? それで嫁にあんなプレイさせてんの? うわ、うわ、うわああ! キモって言葉が詰まるほど気色悪いんだけど!? その家、頭おかしいんじゃない?! 倫理観ゼロ!! むしろマイナス!!」
(どうしよう、正常な反応すぎて怒るに怒れない)
ぼろくそに言われているが、思春期の少女ならば正常な反応だろう。
だが間接的に自分がぼろくそに言われている気分になり、切なくなる中年男性であった。
「もちろん断ったよ」
「だよね! いや~~焦ったわ~~! 最低限の倫理もない奴に条理とか言われてたのかと思ったわ~~!」
「でまあ、嫁入りを断られたことを、あの子は気にしてないんだけど、俺の弟子にはなりたがったんだ。でもさあ、その時点で可愛い女の子の弟子が二人もいるわけじゃん。三人目も女の子とかさあ、俺が嫌だったんだよ。だからやんわりと、女子は勘弁って言ったんだ」
「あ、で、男装していると……なんで?」
「……さあ、なんでだろうなあ」
同じような感性の二人は、リョオマ君の感性に納得しかねていた。
「で、四人目はマーガリッティちゃん。ミット魔法国の、有名な学園の理事長の娘でね」
(……まずミット魔法国を知らないけど、黙っとくか)
「俺が習得している『ある魔法』を覚えたくなって、俺に弟子入りしたんだ」
(よくわからんから、あおるのはやめておこう)
(よくわからんから、あおるのを止めているな……)
さて、五人目である。
一番ややこしくて意味不明で、なんなら全員を合わせた分よりも情報量が多い。
「最後はリンゾウ君なんだけど……まず男装の理由は、リョオマ君から『女だと弟子入りを断られるかもしれないから、私のように男装しましょう』と言われたかららしいんだ」
「それをオッサンが把握している時点で、作戦は失敗じゃない?」
「うんまあそうなんだけども、二人は俺たちを騙せている気になっているらしい」
「……よくわからんわね」
「そうだろう。でもねえ、彼女の事情の中では一番わかりやすいんだ」
ジョンマンをして、リンゾウの状況を語るのは難しい。
それを納得するのは、もっと難しい。
彼女はバカで間抜けなのに、一応筋を通した思考をしているので、半端に話が通って余計に混乱するのだ。
「あの子はルタオ冬国の公爵家の生まれでね」
(ルタオ……どこ? 公爵……偉いんでしょうね)
「第一王子の婚約者だったんだ」
(偉い人同士の婚約ね)
「でもコミュ力が高すぎて、他の兄弟と仲が良くなりすぎてね」
(あ~~、なんかわかる。男はああいう、隙だらけの女、好きよね~~)
「これはヤバいと思った女王が国外追放したんだ」
「……は? そこまでする?」
「流れて流れてこの国に来て、山賊とかに捕まってたところを、リョオマ君に救われたんだよ」
「うん、まあ……捕まりそうだものね」
「で、さっきも言ったようにリョオマ君の勧めで男装している気になってる」
「あれでベストを尽くしている気なの?」
「……でまあ、少し前に、彼女の故郷が大変なことになっていると噂を聞いてね、俺達全員でルタオに行ったんだ」
ジョンマンはここで黙った。
何と言ったら、先日の冒険をまとめられるのだろうか。
「いろいろあった結果、王子たち全員を追放して、自分が女王になって、俺たちと一緒にこの国に帰ってきた」
「……?」
新弟子はしばらくだまった。
からかうでもなく、とまどうでもなく、脳内で単語を咀嚼しようとしていた。
噛めば噛むほど味が出る、意味不明の羅列。
普通なら『いろいろあった結果』について追及するかもしれないが、彼女にその冒険心はなかった。
彼女の冒険は、そこにないのである。
「よくわかんないし、頭が痛くなりそうだから、次の話にしない?」
「大賛成」
冒険者だからと言って、どんな冒険でもする、というわけではない。
どんな冒険をするのかも、自分で決めるべきだった。
「で、オッサンはどうなの? となりの豪邸を見るに、すんごいお金持ちでしょ? お話聞きたいな~~。あ、勘違いされると嫌だから、ちょっと距離とろっと!」
「俺の話ねえ……」
ジョンマンは少し照れくさそうに、できるだけはしょりつつ身の上話を始めた。
「俺は元々この家の生まれでね。若いころに飛び出して、海の向こうへ冒険の旅に出たんだ」
「うわ! 一行目からヤバいじゃん! そんで、そんで!?」
「旅先でアリババって言う奴の仲間になってね、そのままアリババ40人隊のメンバーになった」
「……一気に嘘くさくなったんだけど、マジ? 全方見聞録の話? アレマジなの?」
「本を読んだことがあるなら知ってると思うが、俺はその冒険に最後まで付き合ってね……すげえ疲れたんで、故郷に帰ってきて悠々自適な生活をしてるんだよ」
「あ~、辛かったとか苦しかったとかしか書いてないダンジョンか~~……なんか、話まとめすぎじゃない?」
「本を読んだんなら、それで納得してほしいね」
「まあいいけどさ……もしかして、その、あれよ、仲間とは今でも仲良くしてるの?」
結果として仲間と殺し合った新弟子だが、正直に言って、未練がまったくないわけではない。
というよりも、割り切れていない、というべきかもしれない。
また新しい仲間を作っても、同じ結果になるかも、という不安があるのだろう。
「イヤ、全然。あの地獄の五年で、俺たちの絆は消え去った」
「世界最高の冒険者集団なのに、絆が負けたの!?」
「絆なんて錯覚だった。少なくとも地獄に付き合うほどじゃなかった」
心底から嫌そうにしているジョンマン。
そこに一片の隙も見当たらない。
「もし万が一、誰かが俺に会いに来ても……俺は会いもしないだろうよ」
次回、会いに来るかつての仲間




