ここまで
この呪いは、絶対に解除されない。
元の姿に戻ることはできない。
呪いに気付き、呪いを知り、呪いを可視化できる男がそう断言した。
ならば■■■■■■に希望はない。
豪邸の中で、彼女は失意のどん底に突き落とされた。
「マンマ・ミーヤ! ジョンマンさん! そういうのは良くないと思います!」
叫んだのは、彼女を抱いているリンゾウだった。
「この子にかかった呪いが、どうあっても、絶対に解けないとか……いままではそうだったかもしれませんけど、この後は何とかなるかもしれないじゃないですか! やる前から諦めるなんて、酷いと思います!」
「……」
ジョンマンはここで、露骨に考えこみ始めた。
しばらくの間無言でリンゾウと■■■■■■を見つめ、返事をした。
「それもそうだな、君の好きにするといい。よければリョオマ君も手を貸してあげなさい」
「わかりました、俺も手を貸しますわだぜ!」
「ただ、君たちの特訓も再開しないといけない。そちらをおろそかにしてはいけないよ」
話は終わったとばかりに、ジョンマンは豪邸を出ていく。
リョオマとリンゾウを除く面々も、師匠のあとに続いた。
残ったリンゾウは、■■■■■■を強く抱きしめる。
「大丈夫、僕がついている。きっと何とかなるよ!」
『……本当に、なんとかなるの?』
「大丈夫!」
太陽のように笑うリンゾウの抱擁。
小動物の大きさになった■■■■■■は、甘えるように身を委ねていた。
一方で豪邸を出た面々は、物凄く不安そうにジョンマンに問う。
「あの……大丈夫ですかね? リンゾウ君やオリョオさんに任せるのは、こう……」
共に男装少女であるリンゾウとオリョオだが、それ以上に性格的な問題がある。
大抵の場合はそこまで大きなトラブルを招かないが、今の■■■■■■にとっては辛いことになるだろう。
「最悪死んじゃうんじゃ?」
コエモが遠慮なく『想定される事態』を口にするが、ジョンマンは平然としていた。
「大丈夫、それはない。強い呪いに関る者は、ある意味無敵みたいなものだからね」
一定以上の強者、特にジョンマンは『無敵』という言葉を使わない。
何があっても絶対に負けないとか、なんの心配もいらない、という言葉を徹底して嫌悪している。
そのジョンマンが率先して無敵といったことに、乙女たちは驚愕する。
「少なくとも、今の彼女は『プロット・アーマー』に守られている。たとえ俺が殺そうとしたって、なんやかんやあって助かるはずさ。心配するだけ無駄だよ」
「プロット……アーマー? 鎧? オーシオちゃん、それ知ってる?」
「私も聞いたことがありません、スキルか何かでしょうか……」
プロット・アーマーなる初めて聞く言葉に、オーシオもコエモも『そういうものがあるのか』と驚いている様子だった。
一方でマーガリッティは、知っているからこそなお驚いていた。
「あの、それって……確かに無敵かもしれませんが、創作の世界の話では?」
プロット・アーマーとは、創作の世界におけるご都合主義を揶揄した言葉である。
物語の主要人物が特に理由もなく生き残ることを表し、物理的に、あるいは物語の中の用語として存在しているわけではない。
まして、実在の人物には起こりえないはずのことだった。
「古い呪いが発動している、とはそういうことなんだよ。呪いが完了するまで、彼女は死ぬこともできない。もうなるようにしかならないのさ」
なるようにしかならない。
ジョンマンは普段から捨て鉢なところもあるが、今は完全に白けている。
なぜ古い呪いが廃れたのか、詳しく知っている彼からすれば、今の状況は茶番でしかないのだろう。
「呪いは不条理じゃない、条理そのものだ。だからこそあの子も、決して理不尽な目に遭っているわけじゃない。カルマの清算が済めば、一気に楽になる」
「呪いは解けないのでは?」
「解けないさ」
ジョンマンは『結果は決まっている』とばかりに、説明を先送りにするのであった。
※
■■■■■■にとって、リンゾウは頼もしい相手だった。
希望を打ち砕かれた彼女にとって、元気を出してと励ましてもらえるだけでもありがたかった。
『……アンタのこと、信じてあげるわ』
「それで、リョオマさん。どうしましょうか?」
「そうね……」
なんとかするように頼まれた二人は、さてどうするかと考え始めた。
『え、ちょ……は?』
「う~~ん」
「そうねえだぜ」
『なんの考えもないの!?』
呪いに対してド素人だからこそ、何とかできるかもと思っている二人。
ド素人であるため、なんのアイデアもなかった。
「そうだ! とりあえずお風呂に入りませんか!? なにかいいアイデアが浮かぶかも!」
「そうねだぜ、この子も洗ってあげましょうかだぜ」
『体を洗う前にやること沢山あるでしょ!? そういうのは切羽詰まってからやることでしょ! せめて、図書館とかに行った後にしてよ!』
いきなり風呂行きになったことへ不満をぶつける■■■■■■だが、一拍置いて自分の体を確認した。
年老いた小動物、森の中で放置、狩人に袋詰めにされ運搬。
正直に言って、臭いを確かめることも怖かった。
『でもまあ、洗うのも大事よね! 付き合ってあげるわ!』
無抵抗に運ばれていった■■■■■■は、風呂場で洗面器につけられる。
ただそれだけで、結構な汚れが毛の隙間から出てきた。
「うわあ、汚れてる~~! これだけ汚いのがでると、テンション上がりますね」
「洗いがいがあるわねえ、石鹸をもってきましょう」
『……私が汚いのが、そんなにうれしいの!?』
汚くて呆れられるのも嫌だが、テンションが上がって喜ばれるのも嫌だった。
抗議の叫びをするが、二人とも相手にしなかった。
そういうところのある二人である。
『うぎゅ、うぎゅ、うぎゅううう! 目に、目に石鹸が!』
「かゆいところはありませんか~~~」
『石鹸! 石鹸の泡が、目に!』
「あらあら、気持ちよさそうね」
『聞けよ! 言葉が通じなくても、なんとなくわかるでしょ!』
言葉の大事さを思い知りながら、いや言葉が無くても伝わるだろと考えながら、■■■■■■の体はキレイになっていった。
すくなくとも、清潔感を得ることはできた。小動物になってから、初めての快感である。
もちろん体はだるいままだが、それでも多少改善されていたのだった。
「それじゃあ私たちも自分を洗いましょうか!」
「そうね!」
『はあ、天才美少女剣士の私が、なんでこんな目に……!?』
■■■■■■は以前の自分を世界一の美少女だと思っていた。
そんな彼女の目に飛び込んできたのは、男装美少女たちの『ボリューム』である。
年齢相応の体格だった彼女からすれば、常識が崩壊するほどの絶景であった。
『や、やるじゃないの……で、でもほら、私だって、あと数年あればおいついたかもだし……呪いがとければ、勝負になるかもだし……好みの問題だし……勝ち目がある場所でなら、勝てる可能性が残ってたし』
洗面器のお湯につかりながら、敗北感を味わう■■■■■■であった。
※
一晩暖かい毛布にくるまれて眠りについた■■■■■■は、毛布にさえ重さを感じる体を動かして外に出た。
彼女が起きた時には、他の乙女たちもすでに起床しており、朝の運動を終えてそろそろ食事という時間であった。
「おお、起きたんだね! それじゃあみんなと一緒にご飯にしようか!」
『……うん』
「みんなと一緒に美味しくご飯を食べれば、呪いなんて吹き飛ぶよ!」
『……それは、ないんじゃないかなあ?』
リンゾウは太陽のように笑っているが、■■■■■■はむしろ呆れていた。
美味しい食事だけで呪いが解けるのなら、こんなことになっていまい。
これが慰めで『美味しいご飯を食べれば病気なんて吹き飛ぶよ』と同じ種類なら、騙されてやってもいいかもしれない、という気分になっただろうが……。
おそらく彼女は『美味しいご飯を食べたら呪いが解けるよね!』と美味しいご飯万能論を信じていた。
「ほら、どうぞ!」
『あんまり美味しそうじゃない……いや、食べるけども、食べるけどね!? これで美味しい食事って言い張るの!?』
■■■■■■が残飯を出されているとかではなく、全員が同じように『健康的』な食事をしている。
建物の豪華さと相反する質素さに、■■■■■■は驚愕していた。
「ふふん! 実はこの健康的な食生活によって、私たちはどんどん成長しているんです!」
『……じゃあ食べるけども、食べるけどもね!? デザートぐらいはつけてほしいわね』
お皿に盛られた粗食を、四つん這いになって食べ始める■■■■■■。
粗食というだけに食欲はそそられず、そこまで美味しいわけでもない。
だがそれはそれとして、老いた獣の体でもむせることなく食べることができていた。
『……まあ、ご馳走様。美味しくは、なかったわ』
「あ、全部食べたんだ! 偉いね! で、どう? 体、治った?」
『治るわけないでしょ……ん、んぎゃああああ!?』
突如として奇声を発する、■■■■■■。
いきなり頭が痛くなり、思わずうずくまった。
彼女の体に、変化が現れたのだ。
「リョオマさん、見てください!」
「まあ、本当に体が変わってきたわ!」
『いたたた……たたた?』
リンゾウとリョオマの目の前で、■■■■■■の体に起こった変化。
それは頭部から角が生えることであった。
『角が生えてる!?』
「すごいじゃない!」
「ええ、凄いわねだぜ!」
『凄くてどうするのよ、凄くて!』
二人は無邪気に『凄いね』と褒めているし、実際まあ凄いのだろう。
だが角が生えたからなんだというのか。
状況は明らかに悪化していた。
※
食事の時間を終えて、ジョンマンから指導を受ける時刻になるころには、■■■■■■の臀部から尻尾が生えたり、背中からしょぼい翼が生えていた。
もともと、どう見ても人間に見えなかったが、どんどん哺乳類から遠ざかっている。
そんな彼女を抱えているリンゾウは、興奮気味でジョンマンに彼女を見せた。
「どうです、ジョンマンさん! この子、凄いんですよ! 角と尻尾と翼が生えたんです!」
「ああ、うん。凄いね」
「ご飯とお風呂、あとは毛布でくるんであげただけなのに!」
「それは関係ないと思うな」
「人間に戻れるまで、あと少しですね!!」
「君は人間を何だと思っているんだ?」
『確信したわ……コイツと一緒にいても、なんの解決にもならない』
こいつなら何とかしてくれるかもしれねえ。
そんな期待や希望は、見事に裏切られた。
世の中第一印象やカリスマ性だけで回って行かないものである。
「私の目には、呪いが進行しているようにしか見えないのですが、実際のところはどうなのですかだぜ」
「進行しているね」
『ええ、そうでしょうね! どうみてもね! アタシでもわかるわよ! この節穴!』
流石にリョオマは『人間から遠ざかっている』と認識しているが、それはそれで何の役にも立っていなかった。
「なぜ進行したのでしょうか? まさか本当に、お風呂や毛布、食事が関係するのでしょうか」
「多分違うね。それはむしろ逆効果なんだが……大方、この子を呪った連中が利益を貪っているんだろう。この子を呪ったやつらがいい思いをしている分、この子が嫌な思いをしているわけだな」
『なんなのよそれ!?』
奪われてしまった、名声、若さ、才能。
それを活用されればされるほど、■■■■■■の呪いはどんどん進行していく。
三人が幸福になるほど、彼女は不幸になって行くのだ。
「だから、このまま君達に任せるよ」
「わかりました!」
「そういうことであれば」
『何が!? どうして!? ふざけてるの!?』
発言がかみ合っていないまま、呪いが進行しつつある中で態勢は現状維持となった。
■■■■■■は抗議するが、やはり誰も何も言わないのであった。
※
このあと『走れば体力がつくよ!』とか『体力は基本ですわ』とか言われて、■■■■■■は走らされた。
もちろんすぐばててしまい、監督しているジョンマンの隣で休憩することになった。
老いた小動物である彼女の体は、もうバテバテである。
『……疲れた』
もはや怒る気力もないままに、五人の乙女の鍛錬を眺める。
天才と呼ばれていた彼女をして、意外なほどのレベルの高さだった。
三人の一期生は、才能があるとかではないが、強力なスキルを組み合わせて格闘戦をしている。
仮に以前の自分が戦えば、一瞬でやられてしまうだろう。
二人の二期生は、魔法の練習をしている。
魔法なんて使えない彼女からすれば、多くの魔法を使えるマーガリッティと、特異で優秀な魔法を操るリンゾウは眩しくて仕方ない。
『きっと、強くなるんでしょうね……』
彼女たちはいずれ、一流の戦士になるのだろう。
彼女たちはその若さを鍛錬に費やしており、それは人生を豊かにするという形で報われる。
それはもう、自分には訪れない未来だ。
こんな体では、来年まで生きているのかさえ怪しい。
『うう……ううう』
考えれば考えるほどに、彼女は悲しくなってしまう。
『そりゃさあ……アタシは酷い奴だったけどさあ……こんな目に遭うほど、悪い子だった?』
呪いが解けないという現状を受け入れたからこそ、ついつい愚痴を漏らしてしまう。
『確かに高い買い物をしたり、一人だけおおく報酬をもらったりしたし、仲間をバカにしたり、仕事を押し付けたり、裏で陰口を言ったり、『実はアタシがリーダーなのよ』とか『あいつらはアタシがいないとなにもできないのよ』とか言ったけどさ……』
自分は罪を犯した、それは認める。反省だってしている。
しかし、それでも……。
『ここまでされるほどのこと、したの?』
今の状況が悪事への罰だと認めたうえで、罪に対する罰が重すぎるとしか思えなかった。
そうでもないのだ、『ここまで』は。
だが『ここまで』に過ぎない。
ここから先も苦しめられるほど、彼女は悪いことをしていない。
彼女の罪は、もう清算されたのだ。
『あ、あぎゃああああああ!?』
またも、彼女の体に変化が生じる。
今までは部位が増える程度の、小さな変化だった。
だが今は、大きすぎるほどの変化である。
五人の乙女たちが異変に気付き、そちらを向いてしまうほどに。
「お、好転したか」
ジョンマンにとっては想定内であったため、見上げるそれを見ても驚くことはない。
『な、なに……え、コレ、何?』
■■■■■■がまず感じたのは、『老い』の解消だった。
倦怠感や感覚の衰えが、一気になくなっていた。
ふと手を見ると、『手』ではなく『前足』のままだが、明らかに強大になっている。
いや、手だけではない。全身が、肉体そのものが、人間よりも巨大になっていた。
『ど、どうなってるの?!』
「カルマの清算が済み、呪いが好転したんだ」
『私の言葉が、わかるの?』
「君が普通にしゃべってるだけだよ」
「マンマ・ミーヤ! 本当にそうだわ、ちゃんと喋れてるわよ!」
「凄いわだぜ……本当に、凄いわだぜ」
死ぬ寸前の小動物から、巨大な怪物に変化している。
相変わらず人間離れしているが、どう見ても死にそうにない。
『せ、説明してよ! アンタ、詳しいんでしょ!?』
「もちろん、そのつもりだ。だがその前に、君にかかった呪いについて説明してくれ」
『……天才美少女剣士だったアタシは、名声と、若さと、剣の才能を奪われたのよ』
「それが合わさって、年老いた小動物になったと……なるほどな」
ジョンマンは濁していた『呪い』の歴史について再度語る。
「君はその三人に、酷いことをしたんじゃないか?」
『う……それはまあ、そうね、ええ、してたわよ。カワイイ我儘を、ね』
「嘘を言うな」
『命にかかわりかねない、酷いことをしていました……すみません』
「だろうな。そうでなかったら、まず呪いが発動すらしない」
太古の昔、原初の呪いが発明された当時……。
呪いの発動条件について調べられた。
同じ呪いであるにもかかわらず、発動することと発動しないことがあったのだ。
「たとえば、だ。マーガリッティちゃん、君の魔法は俺にも撃てるし、無関係な人にも撃てるだろう」
「それは、まあ、そうです。やりませんが」
「呪いの場合はそうじゃない。まったく無関係な人、たまたま通りすがった人に呪いをかけることはできない。よっぽど恨んでいる人にしか発動しない。イメージは湧くだろう?」
無差別に魔法で攻撃することはできても、無差別に呪うことはできない。
なんとなくわかる理屈であった。
「古い呪いってのは、人間関係の『不均衡だけ』を利用したものだった。こうした不均衡をカルマと呼ぶ」
なお、具体的に説明されるとよくわからなくなってきた。
全員がリンゾウと同じように、?マークを浮かべている。
「わかりやすく言うと、親しい人間同士で金貨を十枚借りて返さないトラブルが起きたら、金貨十枚分のカルマが生じるんだ」
「わかりやすい……」
『……アタシ、その手のトラブル、やりまくった覚えがあるわ』
お金が絡むと、話は分かりやすい。
借りた金を返さなかったら、確かに不均衡が生じる。
「このカルマっていうのは、呪いでは重要なものだ。カルマが薄ければ呪いは発動することすらなく、カルマが強ければ強いほど強い呪いをかけることができる」
■■■■■■が仲間の三人へ酷いことをしていたのは事実だろう。
そうでなかったら、ここまで呪いの悪影響を受けることはなかった。
「元天才美少女剣士ちゃん、君は相当ひどいことをして、カルマを貯めこんだんだね。そうでなかったら、何日もあんな姿になることはなかったよ」
『はい、しました……』
「仮に解除法がある呪いでも、今ぐらいになるまでは解けなかっただろうね」
姿を変えられてしまう呪いは、かかった本人に罪がなければ成立しない。
解除法が設定されていても、その罪を償うまで戻れない。罪を償ったら、どんな条件でもあっさりと起きてしまうものだ。
突き詰めて言えば、呪いの解除法なんてどうでもいい。
たとえば『水を飲めば人間に戻れます』という比較的簡単な解除法でも、罪を償うまではなんやかんやと理由がついて水が飲めなくなってしまう。
ある種物語的な力学が働いており『そんな簡単に呪いは解けない』というのが基本なのだ。
そうでなかったら、野獣が美女に愛されるとか、王子からキスをしてもらえるわけもない。
『も、もう反省したからいいじゃない。それより、この後はどうなるの? 呪いは解けないの?』
「さっきも言ったが、呪いの解除法が設定されていれば、君はすべての才能を取り戻してめでたしめでたし、になる。君から才能を奪った人たちは力を失うが、それだけで終わったさ」
今まで三人に嫌な思いをさせてしまっていた■■■■■■は、同じぐらい嫌な思いをした。
あるいは呪った三人は、■■■■■■から受けた不快を補うほど利益を得た。
不均衡は正された。にも拘わらず、呪いは継続してしまっている。
「今の君と、君を呪っている奴らの状態は……君が借金を返し終えたのに、相手はもっとよこせと言って金を奪っているようなものだ。呪いの設定はそのままだがカルマが逆転したことにより、今度は君に利益が回るようになる」
『利益……』
今の■■■■■■は、歳を経た魔獣のようになっている。
美少女剣士の名声は望めず、若さを失い続けているし、剣を握ることすらできない。
呪いは確実に進行している。
しかし、強化に至っていたのだ。
「呪いの作用により元の姿からかけ離れていくが、弱くなるのではなく強くなるのだよ。そして君を呪っている連中は、才能を受け取り続けるが不利益を被ることになる」
呪いの文言は変わらないままに、利益と不利益の関係だけが逆転する。
「君を呪った連中は、君から受けた不利益以上の利益を得てしまった。その報いは……それこそ、君から受けた不利益をはるかに超えるものだろう」
三人が■■■■■■から奪ったものは『使い過ぎれば破滅する魔剣』に他ならない。
そうと知らずに使い続けていれば、必然の破滅が待っている。




