三つの呪い 第一話
キョクトー諸島、メイフ島。
そこはドザー王国もある、小さな島です。
そこで活動する、四人組の女冒険者パーティーがありました。
リーダー、カリータ。
経験豊富な大ベテラン、リツモ。
大柄な戦士、ノフカー。
そして、天才少女剣士■■■■■■。
彼女たちはスキルこそ習得していませんでしたが、とても優秀な女冒険者たちでした。
多くの冒険をこなし、その名声は高まっていました。
中でも■■■■■■は、特に有名になりました。
四人の中でもっとも若く、幼いと言っていいほど。
生意気で口は悪いですが、剣の実力や才能は本物。
そりゃあ目立つに決まっています。
いずれは大成する、今の時点で大物だと、誰もが讃えていました。
彼女はますます増長し、調子に乗り、仲間の三人へマウントを怠りません。
仲間の三人は、面白くありませんでした。
大口をたたくだけならまだいいのですが、■■■■■■は本当に天才で、将来有望で、名声があるのです。
こんなに腹が立つことはありません。
しかし変なことをすれば、彼女たちの名声は地に落ちるでしょう。
悶々としていた彼女達ですが、ある日冒険によって『とんでもないもの』を手に入れてしまいました。
はるか昔に封印された、『おまじないの本』です。
そこにはとても恐ろしい『おまじない』が書いてありました。
『憎い相手から長所を奪い、自分のものにするおまじない』
『長所が移動しても、誰も気付きません。世界が書き換わり、最初からそうだったことになります』
原初のおまじないが書かれた本には、不思議な魅力がありました。
三人の冒険者は、その誘惑に負けてしまったのです。
彼女たちは■■■■■■を騙し、おまじないの魔法陣に放り込みました。
三人の憎しみに反応したのか、おまじないは作用してしまいます。
リーダーであるカリータは言いました。
「私よりも目立つお前が嫌いだった。私ではなくお前がリーダーだと思っている者までいる。とても耐えられない。お前の名声をすべてよこせ」
経験豊富な大ベテラン、リツモは言いました。
「その若さが憎たらしい。アタシはどんどん老いていくのに、お前はどんどん輝いていく。アンタの若さをすべてよこしな」
大柄な戦士、ノフカーは言いました。
「お前の剣の才能は本物だ。お前はきっと、素晴らしい剣士になるだろう。その才能が欲しくてたまらない。オレに、その剣の才能を全部くれ」
普通なら、そんなものはただの愚痴です。
しかし恐るべきおまじないによって、『三つの呪い』は正常に作用してしまったのです。
名声、つまりは認知。
若さ、つまりは未来。
武器の才能、つまりは器用さ。
それらをすべて奪われた■■■■■■は、人間の姿を失い、奇妙な獣の姿になってしまったのです。
「そうか! 名声をすべて失うということは、お前は人間の名前も失ったのか!」
「なるほど、動物ならば12歳でも死ぬ間際だな!」
「ほうほう、その手では剣を掴むこともできないぞ!」
三つの呪いが混じり合い、■■■■■■は息をするのも苦しい、四足歩行の獣になってしまいました。
もう誰が見ても、彼女を天才美少女剣士とは思わないでしょう。
そして、彼女からすべてを奪った三人は、みるみる強くなっていったのです。
「ははは! 私ですら、お前の名前を思い出せない!」
「ああ! アタシの体が、若返っていくよ!」
「おお、剣とはこんな簡単に振れる物だったのか!」
彼女たちがもともと持っていた力に、■■■■■■の長所が加わって、とんでもない強さを得ていました。
彼女たちの輝きは、まさに一人分とは思えないものです。
「こうなると、殺すのもかわいそうね……いえ、殺した方が慈悲深い。生かして、苦しめてやろう!」
「そうだな、それがいいね! こいつには減っていく残り時間を楽しんでもらおう!」
「くっくっく……獣としての人生、オレならば御免だがな! お前なら楽しめるさ!」
三人は高笑いしながら去っていきます。
『うう、ううう……うああああああ!』
獣は泣いてしまいました。
確かに自分は彼女たちを怒らせたかもしれない。
でもこんな目に遭うほどなの?
彼女は泣いて、泣いて、泣き疲れて、眠ってしまいました。
暗く、深く、人のいない森の中。
隠れることも忘れて寝ていた彼女に、太った狩人が近づきます。
「おお、なんだ、この獣は。初めて見るぞ?」
太った狩人は、今にも死んでしまいそうな獣を捕まえました。
獣は途中で目を覚ましますが、抵抗する力もありません。
「ううむ、食べても美味しくなさそうだ。それならいっそ、毛皮にして売ってしまうか」
太った狩人はしばらく悩んだ後、はっと手を打ちます。
「そうだ! たしかドザー王国に、とんでもない金持ちが現れたとか! そいつに売ってしまおう!」
太った狩人は、意気揚々と歩き出します。
何日も歩いてドザー王国に着いた彼は、ミドルハマーという町にある大豪邸の扉をノックしました。
出てきたのは、男の服を着ている女の子、リンゾウという女王様です。
「おやおや、狩人さん。どうしたのですか?」
「じつはとても珍しい獣を捕まえまして……よろしければ、ペットにいたしませんか?」
「珍しい獣? おいおい、とても弱っているじゃないか!」
「ええ、ええ、餌も食べないのです。弱っている……ではないですね、きっとグルメなのですよ!」
ろくに食べ物ももらえなかった獣は、とても弱っていました。
もうすぐ死んでしまうでしょう。
心優しいリンゾウは、狩人にお小遣いを渡しました。
「これで買います、いいですか?」
「おお、こんなに! ありがとうございます、ありがとうございます!」
スキップしながら帰っていく狩人ですが、リンゾウは慌てて豪邸の中に戻ります。
このかわいそうな獣を助けようと、暖かいミルクを用意しようとしたのです。
「おいおい、どうしたんだい、リンゾウ君」
「ああ、ジョンマンさん! 実は弱った子を買ったんです! かわいそうなので、助けてあげたいんです!」
「ペットを飼うのなら、相談してほしいねえ。ん?」
リンゾウ君のお師匠様であるジョンマンは、目を見開いて驚きました。
「すげえ呪われてるな、この子」
呪われている、という言葉に獣は驚きます。
『貴方は私が呪われているとわかるの?! おねがい、助けて!!』
仲間に裏切られ、呪われて、何もかも失った■■■■■■。
ですが彼女の『物語』は、ここから始まるのです。




