さよならルタオ、さよならリーン。
リーンの奮戦によって、ルタオ冬国は内戦の危機から脱した。
多くの人々が安堵している中で、リーンが第一王子をぶん殴って王位を奪取したという一報が届いた。
『あいつならやりかねない』
『きっとムカついたから殴ったんだな』
『ざまあみろ』
『あいつが女王で大丈夫か?』
『一人で政治するわけじゃないから大丈夫だろう』
現女王は退位するものの、摂政として政務に携わるとのこと。
言ってしまえば、現時点で政権に変化はなく、次世代が変わっただけのこと。
それも第一候補だの第二候補ではなく、リーンへ正式に決定しただけ。
まあその決まった人物がリーンであることに不安がないわけではないが、彼女の『行動』は的確で迅速だった。
国家にとって有益な国王は誰か。
すくなくとも、追放された三人ではない。
相対的にマシだということで、反発は免れたのであった。
その後、リーンは正式に即位。
戴冠式では今回の事件解決に協力した者たちへ勲章も授与され……。
後始末も含めて、事件は完全に終了したのである。
※
戴冠式から一週間後。
ジョンマン一行は、港町の住民に見送られながら、帰りの船に乗っていた。
なんだかんだ長く滞在していたルタオ冬国とも、これでお別れである。
甲板の船べりに立つ一行は、遠くなっていくルタオ冬国を眺めていた。
「なんとか丸く収まってよかったですね!」
「尖ったところをへし折って捨てるのを、丸く収めるとは言わないよ……まったく」
「それでも、内乱が起きるよりはよかったじゃないですか、ね?」
オーシオは話を円満に終えようとしたが、ジョンマンはそれを拒否している。
このまま家に帰っても『アレでよかったのかなあ』と後悔を抱えるだけだ。
「アリババもそうだったが、ああいうのは『問題の解決』はできても『事後処理』はできないし、何ならやろうともしないんだ。オーシオちゃんは、ああなっちゃだめだよ」
「は、はい……無理です」
「うん、そうだね」
この世には真似できないバカもある。
オーシオが学んだことはそれであった。
「ううん、結局今回の冒険は、リーンちゃんが主人公だったなあ。最初からそうだったけども、私はあんまり活躍できなかった。残念」
一方でコエモは、自分がわき役に収まってしまったことを残念がっていた。
彼女の予定だと『一流冒険者は若き日から頭角を現していたのだ!』という物語になるはずだったが、『若き日の一流冒険者は、迷君の即位に協力したのだ』という物語になっていた。
これでは自分の物語としては、あんまりである。
「私としては、自分の欠点の洗い直しができましたわ。第三スキル、第四スキルの重要性を改めて感じました……実戦はこなせましたが、まだまだ白帯! もっと頑張らせていただきますわ!」
オリョオとしては、初めての実戦で、現在の実力と課題が明確になったことが収穫であるらしい。
実戦が早すぎたとは思わないが、足りないことも明白だった様子。
「今回は聖域魔法の発動と、その効果を目の当たりにできたことが嬉しいです! 流石は伝説の魔法……傾いた国を立て直すほどの有用性! やはり聖域魔法は素晴らしい! 伝説の魔法、その真髄を見ましたわ!」
マーガリッティは伝説の魔法が大活躍する冒険に立ち会えたことが嬉しいらしい。
彼女の主観からすれば『旅先で出会った級友が、なんと伝説の魔法使いで、それを使って国を救った』である。
きっと家族や教師に、凄い体験をしたと報告をするだろう。
「マンマ・ミーヤ! 僕はね! みんなと一緒にルタオ冬国を廻って、各地のお料理を食べられたことが楽しかったな! かまくらでおにぎりを食べて、ジンギスカンを焼いたりして、トウモロコシも美味しかった!」
リンゾウとしては、故郷を案内できたことが嬉しいらしい。
みんな仲良く、を何よりも重んじる彼は、それだけで満足なのだろう。
「……で、リンゾウ君。君はなんでここに居るのかな? 君はリーンちゃんの代わりに、ルタオ冬国の女王になるはずなのでは?」
見ないふりをしていたジョンマンだが、さすがに限界だった。
男装しなおしたリンゾウは、なぜか帰りの船に乗船している。
もう出航しているので、彼女もドザーへ戻るようだ。
「ふっふっふ……僕と妹がいつのまにか入れ替わっていたことは、浄玻璃眼でも見抜けなかったようですね」
「俺の浄玻璃眼を節穴扱いしてほしくないが……じゃあ俺たちが今から城に戻ったら、君の妹に会えるのかな?」
「あ、そ、それは、ないですね! 妹も別の場所で修行しているんですけど、そっちに行くって言ってました」
「じゃあ君の妹は何しに来たんだよ」
ふっふっふ、と余裕たっぷりに笑っていたリンゾウだが、その余裕は虚構だった様子。
「ジョンマンさん、そこはいいとおもいませんか!?」
「ちっともよくないと思うんだが……」
オリョオがカットに入るが、安全圏がなさ過ぎてまったく保護できていない。
「まあオリョオちゃんの顔を立てて、そこを無視するとしても……君は国に残るべきでは?」
「ふっふっふ……ジョンマンさんも読み間違えることはありますね!」
「君に関しては、しょっちゅう読み間違えていたんだが……」
「僕もこう見えて、女王の仕事はわかっているんですよ!」
「ちっともわかってないと思うんだが……」
「そう! その通り!」
刮目したリンゾウは、女王の仕事を語った。
「今の僕に、女王は務まらない! むしろ邪魔!」
「……それはそうだけども、じゃあ請け負うなよ」
「ですが! 第一王子、第二王子、第三王子に国を任せられないというのなら……やるしかないじゃないですか、言い出しっぺとして!」
「じゃあ国に帰りなよ」
「ふっふっふ……」
「いい加減殴るぞ、おい」
真面目な話をしているのに、なぜか余裕綽々のリーン。
なぜ彼女は、ドザーへの船に乗っているのか。
「僕たちの父も言っていましたが、必要なことだったとはいえ、僕……の妹は暴力で王座を奪ってしまいました。これでは第二、第三のトラマダラが現れても不思議ではありません」
「力づくで奪ったのは君の妹だから、第二第三のリーンと呼ぶべきでは。トラマダラは奪われた側だろう」
「それを解決するには! 僕が強くなるしかない! その方が国のみんなの為になる!なのでジョンマンさんのところで修行するってわけですよ!」
筋は通っているが、武人の発想が過ぎる。
勝負を仕掛けられたらその場で殴り合いが始まり、勝った方が王様になるとんでもない国を守るには、王様が強くなればいいのだ!
いや、武人じゃないな。バカの発想だな。
「素晴らしいわ、リンゾウ君! まさに武の発想よ!」
「オリョオさんのご指導のおかげです!」
熱い抱擁を交わす、リンゾウとオリョオ。
豊満な肉体同士がぶつかり合い、いろいろと肉感的である。
キララーチがみたら、羨ましいと思いそうであった。
「ですが、国の皆さんは困るのでは? 貴方はともかく……ともかく、リーンさんは、即位しているわけですし」
「安心して、マーガリッティちゃん! 貴方から教わったことを実践しているよ!」
「私、ですか?」
「うん!」
賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ。
果たしてリーンは、マーガリッティから何を学んだのか。
「両親と摂政閣下に、置手紙をしてきたのさ! もちろん、定期的に連絡するって付け足してね!」
マーガリッティが実家と仲直りしたときの話を思い出し、参考にした様子である。
手紙もホウレンソウも、免罪符じゃねえんだぞ。
「これでもう、誰も僕の心配をしない! 僕は修行する! 完璧!」
「これが、問題と向き合ってこなかったツケか……」
こうして無事に出航できているところを見るに、おそらく摂政や両親も諦めているのだろう。
なんなら、近くに居なくてラッキーと思っているかもしれない。
近くにいて面倒を見るジョンマンはアンラッキーである。
「ということで! オーシオさん! 同じ『強い王様』を目指す者同士、高め合っていこうね!」
「……それはまあそうなんですけどもね、ええ、でも……一緒にされたくないです」
「そうだね! オーシオさんは女王候補で、僕は現役女王だもんね!」
(妹はどこに行ったの?)
こうして……現役JOとなったリンゾウと共に、ジョンマンたちはドザー王国へ向かうのだった。
ジョンマンの弟子たちは……。
普段は大したことのないリンゾウのバカさが、非常時でどれだけ爆発するのかを知り……。
アリババやシムシムがどれだけバカだったのかに想いを馳せ……。
本当に事後処理をしないんだなと納得し……。
帰りの船旅も思いっきり揺れて、コエモ、オーシオ、オリョオは苦しんだのである。
ルタオ冬国編はこれにて終了。
次回から舞台はドザーに戻ります。




