第二の人生
ドザー王国の首脳は、混乱状態に陥っていた。
最近国家を荒らしている盗賊団が、フィクションかと思っていたセサミ盗賊団の残党、ラックシップだという。
エインヘリヤルの鎧を身にまとうほどの実力者であり、おいそれと手出しができなかった。
なにせこの国でエインヘリヤルの鎧を装備できるのは、国家最強の男であるハウランドのみ。
もしも彼が負ければ、国家は滅ぶ……。
と思っていたところに、ハウランドの弟にしてアリババ40人隊の元隊員、ジョンマンが帰ってきた。
彼はラックシップと互角の戦いを演じ、これを退けたという。
ジョンマンとハウランドが協力すれば、ラックシップに勝てる……と思っても不思議ではない。
だが実際には、ハウランドがジョンマンに手抜きで瞬殺され、再起不能にされる、という深刻な事態になったのだが。
特に意味もなく最強戦力が使い物にならなくなる、という事態に誰もが頭を抱えるのだった。
※
ハウランドが再起不能になって一週間後のことである。
ジョンマンの家に、コエモが訪れていた。
年頃の娘が、一人暮らしの男性の元へ来たことに抵抗感のあったジョンマンだが、ヂュースの娘であり話し相手でもある彼女を無下にできず、結局家に入れた。
もちろん、ある程度距離をとってのことであるが。
「貴方がハウランドを倒したと聞いて、父はもっとイライラしました。すごく大変なんですよ」
「教えるなよ」
「いえでも……外の声って、ベッドで寝ていても聞こえちゃうみたいで……」
自分がバカにした相手が、実際にはこの国一番の騎士さえも一蹴する化け物だった。
そこで『俺はやる奴だと思っていたんだ』と柔軟に変節する者もいるし、『ハウランドが負けたのか、それはそれでいいな』と矛先を変えるものもいるだろう。
だが自尊心の高いヂュースは、それができなかった。ある意味、真面目と言える。
「でもなあ……あいつもいい大人だろ? 噂をそう簡単に信じるか?」
「ほら、父は私と一緒に、貴方の戦いを見たじゃないですか。ですから『ハウランドは鎧を着るだけで精いっぱい』と言う話も『ラックシップとジョンマンは他にも凄い技を使っていた』っていうのも聞こえて……その、論理的に……理解したみたいで」
「論理的に説明しなきゃよかったな……」
ジョンマンの説明は、騎士団にも住民にもわかりやすく伝わっていた。
両者が『エインヘリヤルの鎧だけ』で戦っている間はハウランドが優勢で、ジョンマンが技を一つ追加した瞬間に勝負が決したのだから、それはもう雄弁な現実である。
だからこそ、ハウランドは心が折れたのだ。ついでにヂュースも。
「それで、ジョンマンさん。なんであんなやり方にしたんですか?」
「それはどういう意味だよ」
「だって……母さんや姉さんにやったみたいに、『イヤ』って言えばそれはそれで済んでいたじゃないですか」
「……その場合、兄貴はラックシップと戦うことになって、あっさり殺されていただろうよ」
「それはそうですけど……でも、もうちょっとやり方があったと思います」
コエモは、一番肝心なところを聞いた。
「ジョンマンさんは、なんであんなに怒っていたんですか?」
コエモの知るジョンマンは、怒らない男であった。
なにせ圧倒的格下であるヂュースからバカにされても、はいはいと流していたぐらいだ。
にもかかわらず、なぜハウランドには傷つける方法を選んだのか。
「……例えば、そうだな。君がヂュースの娘だと知らない人が、君の前でヂュースをバカにしたとしよう。君はムッとするが、まあ仕方ないと諦められるんじゃないか?」
「まあ……そうですね」
「だが君がヂュースの娘だと知ったうえで、君の前でヂュースの悪口を言うのなら……それは怒るだろう」
コエモをして、納得せざるを得ない論理だった。
「俺をバカにしたとき、君のお父さんは俺をアリババ40人隊と知らなかった。だが兄貴は、俺をアリババ40人隊と知ったうえで、自分よりも弱いと考えていた。俺が同じに扱うと思うか?」
「それは、まあ……」
「アレでも我慢した方だぜ? 俺だって『どうせエインヘリヤルの鎧を着こなすだけのやつが!』とか思いつつ『いやいや、案外他の技も使えるかも……』と思って実力を確認したしな」
「した後で怒ったわけですか」
「いや……心が折れた時は『どんだけ俺を下に見ていたんだよ!』っていう方向でキレた」
エインヘリヤルの鎧は、使い手に勇士の心を求める。
それを失ったとき、使い手へ食らいつく。
だがその基準は割と甘く、よっぽど絶望しなければそんな事態にはならない。
にもかかわらず、ハウランドにそれが起きた。
ならばハウランドにとって、ジョンマンが自分よりも圧倒的に強いことは、よほど信じられなかったのだ。
「そりゃあさあ! ガキだったころの俺は、それはもうどうしようもなかったぜ? でも25年だぜ!? しかも俺はアリババ40人隊に所属して、世界で最も深いダンジョンを踏破して、そこから帰還したんだぜ?! なんでいまだに下に見られているんだよ! 少しは『もしかしたら俺よりずっと強くなっているかもしれん』って思うだろ、普通!」
「ま、まあ、そうですよね……」
「俺はなぁ! 兄貴が勉強しているときも、恋愛している時も、子育てしている時も、後進の指導をしている時も、書類仕事をしている時も、ずっとずっとずっと冒険していたんだぞ!? 負けるわけねえだろうが!」
少なくとも現時点において、ジョンマンが死ねば何も残らない。
ハウランドには部下や生徒、子供たちがいるだろう。彼が死んでも、確実なものが残る。
自分のこと、仲間のことしかしてこなかったのだから、当然だ。
だがだからこそ、個人の実力において大きな差があるのは当然である。
「ああ、思い出しただけでイライラする……」
「ははは……そうですよね、怒りますよね……」
「ああ! 再起不能になって、ざまあみろって気分だ!」
ーーーさて、ジョンマンは『そいつの素性を知ったうえで、それをバカにする発言は許されない』と言い……コエモは『家の中にいても外の声は聞こえる』と言っていた。
(入りづらい……)
ジョンマンの家の、そのすぐ外、扉の前。
ハウランドの娘であるオーシオは、二人の会話を聞いてしまっていた。
※
しばらくして、オーシオはジョンマンの家に入った。
ジョンマンの前には、まさに自分の子供ぐらいの年齢の娘が二人もいる状況である。
一般常識を持っている彼からすれば、とても居づらい空間であった。
自宅なのに、まったくくつろげていない。
「ごほん……叔父上、この度はご迷惑をおかけしました」
「あ、いや……そのなんだ……聞こえていたと思うからあえて言うが、コエモちゃんの言うようにもう少しやり方があったと思う。兄貴を……君のお父さんを再起不能にして、悪かったな」
「いえ……正直、私も父や兄には幻滅していまして……」
近衛騎士の軍服を着ている彼女は、それはもう闇を放っていた。
今の彼女の状況が、とんでもなく悪い証拠である。
「父が再起不能になったこともそうですが、そんな父を見て兄も絶望して……ふさぎこんでしまったんです。つまりその……言ってはなんですが、一度試合で負けて恥をかかされただけで、親子そろって再起不能に……みっともないというか、なんというか」
彼女の表情は、まさに失望であった。
やはり負けたことよりも、再起不能になったことのほうに呆れているのである。
「特に兄なんて……『最強無敵のパパが負けたなんてウソだ~~!』みたいな理由で引き篭もるとか……マジでムカつく……あとはお前に任せるとか……お前何様だよって感じ……!」
「そうか、大変だな……」
「ええ、本当に……情けない……軟弱者ども……!」
体を小刻みに揺らして、怒りをあらわにしているオーシオ。
同年代でありながら多くの責務を背負う彼女に、コエモは少しばかり同情していた。
「……それで、現在王宮は大混乱中です。あんな父ですが、それでも国内最強の地位は揺るぎませんでしたから。その父が貴方に手も足も出ず負けたのですから、貴方と互角であるラックシップに対して何もできないと判明しました」
「正しい認識だな」
「幸いと言うか……ラックシップは、部下を集めている一方で、まったく保護していません。好き勝手に暴れさせていますが、我々が撃退しても報復などはしてこないのです」
ラックシップはのんびりとした生活を送りたいがため、この国に来たという。
彼の基準において、部下に対して一々責任をとるのは、のんびりの基準に入らないのだろう。
まあ、わからないでもない。
「もう王宮では、『あいつ結構な年齢だし、放置しておいても10年ぐらいで死ぬか、動けなくなるだろ』という意見も出ています」
「うわぁ……」
「いや、でも現実的だと思うがな……」
ラックシップに弱点があるとすれば、既に50歳ほどだということだろう。
現時点でどれだけ強かったとしても、長く戦えるわけではない。
それこそ、寄る年波には勝てない、という奴である。
これについては、ジョンマンも完全に同意である。
ただ、清く正しい一般市民であるコエモとしては、国家が犯罪者を野放しにするという決断に不満がある様子だった。
その意見の時点で、正義の敗北と言っていい。
「ただ……奴の拠点内で、見逃せない動きがあったのです」
放置すれば解決する問題、実力と比べれば被害が小さい。
それらから放置することを検討していた国家が、あわてる事態が起きたのだった。
「ラックシップの部下の中から、彼に指導を望む者が現れました。エインヘリヤルの鎧を含めて、その技を自分のものにしようとしているのです」
コエモもジョンマンも、同じように驚いていた。
もしも実現すれば、放置がむしろ悪手となりかねない。
「ラックシップ本人にとっては『のんびり』……暇つぶしのつもりなのでしょう。それに、誰もが辛い修行に耐えられるわけではない。ですが、エインヘリヤルの鎧をはじめとするスキルの、その一つずつでも悪党が習得すれば……危険です」
全員がラックシップ並みに強くなることはないとしても、劣化版でさえこの国では脅威となる。
しかしそれを避けようにも、現時点のラックシップはどうしようもないほど強く……。
「そんなことになったら、大変じゃないですか!」
「コエモちゃんの言う通りだが、それを俺に言いに来てどうしてほしいと?」
深刻な問題ではあるが、それをジョンマンに言うのはお門違いである。
いや、まったく無意味ではないが、目的に関しては確認の必要があるだろう。
「……叔父上、あえて踏み込んだことを申し上げます」
「おいおい、前の問答を見たうえで、そういう言い回しする?」
「失礼なことを言うのですから、それなりには準備をと……」
オーシオは、慎重に、ジョンマンのプロファイリングを語り始めた。
「叔父上に、命がけで戦う気が無いのはわかります。ですが、そう要請されるとわかって、なぜ故郷に残っているのですか。そもそもラックシップと戦わずに逃げることもできました。それでも戦ったのはなぜですか」
「……」
「叔父上は……少しは故郷に愛着があるのでしょう。それに加えて、今更別の場所に根を下ろして生活するというのも面倒……いえ、終の棲家をまた探すのが面倒なのでしょう」
ジョンマンは、難しい顔をしていた。
大体あっていたからである。
「俺はな、世界中を冒険した。それでわかったんだが……俺の故郷、割とましな方なんだよ」
姪っ子の言葉が正しいことを、彼は遠回しに認めていた。
「暑いとか寒いとか、治安がいいとか民度が低いとか……物価が高いとかアリババ40人隊の活躍が有名すぎるとか……まあわかったのは、この世に理想郷なんてないってことだ。どっかには欠点がある。それなら……故郷でいいかなあ、って思ったんだよ」
死ぬまで暮らす土地を探す、というのも冒険だ。
今のジョンマンに、それは耐えられなかったのである。
「で? その、故郷に愛着があるだけで、いざとなったらどこにでもいける男に、何をしろと?」
「……その通りです。貴方はよほど面倒になれば、どこにでもいけるでしょう。それこそ、この国さえ簡単に出られる。そして貴方がその気になってくれたとしても、勝てる保証はない。勝てばいいですが、負けた場合にはだれにも止められないラックシップだけが残る」
さて、命がけで戦うことが面倒になったジョンマン。
彼に対して、オーシオは何を言うのか。
「なので叔父上……ラックシップと同じように、私どもへ指導をしてくださいませんか?」
「……俺が習得している技を、他の奴に教えろと」
「ええ……命がけではありませんし、それなりに『のんびり』もできるかと」
「教職をバカにした言い方だな……でもまあ、いいか」
ジョンマンとしても、ラックシップに対してなにも思っていないわけではない。
なんだかんだ言って、敵対勢力の残党が、故郷に迷惑をかけているのだ。
それを放置するのは、まあ気分が良くないだろう。
「ただな、やるとなったら俺は真面目にやるぜ。身内だからって、優しくはしてやらねえぞ」
「構いません。私も近衛騎士……今までも血反吐は吐いてきました」
「そうか、それなら……ああ、でも人数は絞ってくれよ。あんまり多いと、しんどすぎる」
「もちろんです、私どもも……」
「あ、ちょっといいですか!」
部外者であり、無関係な、この町一番の冒険者の娘というだけの少女。
彼女はまさに、冒険をしようとしていた。
「私も、ジョンマンさんの弟子になりたいです!」
「……まさか、ヂュースの仇を取りたいと?」
「それはないっていうか……違うんですけど……」
(それはそれで酷いな……)
外の世界が本当にあるのだと、彼女は知った。
だからこそあこがれは強くなったが、恐怖もまた沸き上がった。
「私、外の世界に行きたいんです。でも外の世界には、ジョンマンさんやラックシップみたいなやつとか……超強いモンスターがいるんですよね?」
彼女もバカではない。
ジョンマンのように何も考えず飛び出しても、上手くいく保証はないとわかる。
「だったら、ここで強くなってから出て行きたいんです! 駄目ですか?」
自分のように世界を知りたいというまなざし。
それに対して、ジョンマンは少し照れる。
「いや~~……自分で言うのもどうかと思うけど、俺達はまあまあトップ層だから……俺らみたいなのは上澄みだから……ま、まあでも、ヂュースの娘に対して義理もある」
本来の趣旨からは反するが、ジョンマン本人からすれば悪い気はしなかった。
「指導してみよう……Fランク冒険者でよければな」
※
ジョンマンの家の前で、二人の若き乙女たちへの指導が始まろうとしていた。
幸い町はずれであるため、周囲に被害が及ぶことはない。
ジョンマンは少々楽しそうな顔をして、二人に対して説明を始めた。
「これから俺は君たちへ指導をするわけだが……五つの必須スキルのうち、最優先で覚えてもらう物がある。『エインヘリヤルの鎧』だ」
「……私でも使えるようになるんだな~~、って気分でもあるんですけど、その……」
「一番最初がそれなのですか?」
他でもないジョンマン自身が、それしか使えないハウランドを倒していた。
であれば、優先順位は低いのかとも思えた。
「いや、まずコレだ」
最強の鎧を身に着けるところから、話が始まるという。
さすがは最高水準、要求値が高い。
「実際、マジで強いからな。これを使えるだけでも、兄貴は国一番だったんだろう?」
「それは……」
「この国には、圧縮多重行動を扱える家があるそうだが……それでも兄貴には勝てなかったはずだ。エインヘリヤルの鎧を身に着けていれば、何度殴られてもダメージを受けないからな」
エインヘリヤルの鎧を身に着けた戦士は、攻撃力も防御力も爆上がりする。他の能力も向上するが、単純にこれが強い。
これを攻略するには、同じ鎧を身に着けるしかないくらいだ。
「だからこれを覚えてもらう。圧縮多重行動は、その次だ」
「……そうやって、順番に五つのスキルを覚えていくんですね」
「ま、まあ全部一気に覚えろって言うよりは、いいかな?」
「そうだ……が、もちろん、いきなりエインヘリヤルの鎧を覚えてもらうわけじゃない。それを目指した基礎訓練から始める、と思ってくれ」
とてもまじめに、ジョンマンは先日を思い返させた。
「二人も見ただろう、兄貴の無様な姿を。覚悟のないものが、エインヘリヤルの鎧に見放された結果だ。いろんな意味で、アレだけは避けなければならない」
あまりいいことではないが、ハウランドの姿はいい教訓となった。
どうでもいいようなことで絶望する軟弱者に、最強の鎧を身に着ける資格はない。
「基本的な体力や戦闘訓練は当然として、メンタル面の調整を行う」
「た、滝に打たれたりするんですか?」
「そんなことをしてなんになる。大事なのは……慣れることだ」
誰であっても、初めてのことに対しては慣れていないものだ。
何度も繰り返していれば、良くも悪くも慣れるものである。
慣れてしまえば、深刻に受け止めなくなるのだ。
「世界を回った俺だからこそ……なんていうのは大げさだが、人生経験を積めばわかることもある。現時点の自分よりも強い奴、自分より後に始めたのに自分よりも上達が早い奴、一生かけて頑張っても到底太刀打ちできない怪物……上を目指していけば、そういうのと何度も出会うことになる」
皮肉なことだが、天才で努力家のハウランドは、周囲を挫折させ続けた側だろう。
だからこそ、自分がその挫折を味わうことがなく、しかもそれが下に見ていた弟ということもあって、一気にどん底に落ちたのだ。
「お前たちが一生懸命頑張って、強くなって、自信をつけて、勝てる、負けないという意気込みをもって臨んで……そういうのと戦って、負ける」
「……想像するだに、嫌だなあ」
「そんなもんだ、気にしすぎるべきじゃない」
では、世界最高峰であるアリババ40人隊に、挫折などなかったのか。
そんなわけがない。むしろ壁にぶつかり続けたからこそ、それを超えることで強くなっていったのだ。
「本当に強くなれる奴っていうのは、めちゃくちゃ真剣に努力して、めちゃくちゃ真剣に試合ができて、勝ったら大喜びして、負けたらしっかり反省できるんだ。それらは全部当たり前のことで、一々深刻に受け止めないんだ」
一生懸命練習して、実力をつける。
その実力で試合に臨み、勝つために最善を尽くす。
それでも相手の方が強ければ、手も足も出ずに負ける。
そこで、絶望してはならない。
努力に慣れ、試合に慣れ、敗北に慣れ、勝利に慣れる。
これを普通だと思える者こそが、大成するのだ。
「だから俺は君たちを何度もぶちのめす。世の中には、自分よりも強い奴が腐るほどいて、負けても全然不思議じゃないと体で覚えるんだ」
「ううぅ、痛そう……」
「痛みに慣れるのも練習だ。鼻血が出たぐらいでショックを受けて、エインヘリヤルの鎧に見放されたなんてのもいたぐらいだしな」
「……それは酷い」
ぐぅ、と拳を握るジョンマン。
それはただの人間の手だが、恐ろしい凶器にも見えた。
「オーシオちゃんには言うまでもないが……エインヘリヤルの鎧を身に着けられる者は、素の力も強い。兄貴だって、素手でも大したものだっただろう? 俺が素手で戦っても、兄貴より少し弱い程度だと思ってくれ」
「……父は、私と兄が二人がかりで完全装備でかかっても、あっさりと勝つ人でした」
「ええ!? じゃあジョンマンさんも……」
「そういうことだ、まずは素手でいいが……明日からは完全装備で来るように!」
二人の乙女は、顔を見合わせた後で、目の前の男に挑む。
言うまでもないが、今の二人はとても弱い。
ハウランドに及ばないことは当然ながら、ヂュースにさえも勝ち目がないだろう。
国一番の騎士も、町一番の冒険者も、やはり強いのだ。
だがその二人と違って、彼女らは若く、野心に燃えている。
それこそが、未来の可能性。
ジョンマンはそれを眩しく思いつつ……。
「さあ、強くなろうか!」
第二の人生の一歩目を歩き始めた
この物語は……ひとまず、ここで終わる。
※
『なんかさ……俺、指導者の才能ないのかもしれない。君たちを鍛え始めて結構経つけど、君たちが強くなっていると感じられない。むしろ、弱くなっている気さえする……』
『叔父上……申し上げにくいのですが、私もコエモさんも、とても強くなっています……』
『あのね、ジョンマンさん……多分だけど、私たちが強くなるより速く、ジョンマンさんが強くなっているんだと思う……』
『そうか、なまっていた体が、調子を取り戻しつつあるのか……』
(叔父上、まだまだ調子が上がるのか……)
(世界って怖い……)
第二の人生もまた、長くなりそうである。
これにて完結となります。
短い話でしたが、ここまで読んでいただいてありがとうございました。