最後の希望(笑)
廃坑前の戦いは、かくて終わりを迎えた。
乙女たちの初陣は、犠牲者ゼロという尊い結果になった。
疲労困憊の彼女たちは遠くへ移動することができず、廃坑から離れた場所に『かまくら』を作って避難した。
小さな入口から冷気が入ってくる雪洞の中で、六人は身を寄せ合いながら七輪を囲んでいた。
「こんなに大きいかまくらに入ったのは、子供の時以来です! ありがとうございます!」
「別に遊ぶためじゃないんだが……」
ルタオ冬国の生まれであるリーンにとって、かまくらは子供時代の遊びである。
彼女の性格的に、頻繁に作っていたと思われる。
「かまくら……雪を積んで作ったテント、雪洞ともいう……風が入ってこないだけで、だいぶ暖かい。本のネタになる! 後年のコエモは、幾度となくこの雪洞を使って生き残ったのだ……!」
一方でコエモにとっては初体験であったらしく、本に書けるネタを得て嬉しそうである。
テントではなく雪洞で寒さをしのぐというのは、確かに冒険っぽいので彼女が喜んでも無理はない。
「まあ盛り上がるのはいいけども、温まってきたところで食事にしようか」
「あ、オモチですか? 私、かまくらの中で焼く、魚醤味のオモチが大好きなんです!」
「俺も好きではあるけどさあ、疲れた時に食べるもんじゃないと思うなあ……」
ジョンマンは荷物の中から穀物の塊を取り出して、七輪の上に置かれた金網の上に並べた。
しばらくは凍っていた穀物が溶けていくだけだったが、やがてぱちぱちと焼け始めた。
疲れている五人の乙女は、はしたなくも生唾を呑んでしまう。
「焼きおにぎり……ルタオ名産のお米を使ったシンプルな料理だ。魚醤で味付けをしてあるから、焼けたら食べていい。ただ中まで凍っているから、まだまだ待ってくれよ」
「そんな、殺生な……」
食欲を直撃してくる匂いの中で、オリョオは『待て』をされた犬や猫のようにしょんぼりしている。
炭火によって内部まで熱が通っているが、それでもまだまだ先は長い。
かまくらの中は、もはや飯テロと化していた。
もう凍ったままでもいいから食べたいな、内側だけ残して食べたらはしたないか。
そんなことまで考える始末であったが、リーンがとても嬉しそうに笑ったことで空気が変わる。
「こういうのって、ルタオの風物詩なんです! 詩とか歌とかでも、あるあるネタになるんですよ! ほら、同じ釜の飯を食った、みたいな!」
遠い国で出会った友人たちと一緒に、自国の文化を楽しむ。
夢に描いていたことが実現したことで、リーンは心底嬉しそうだった。
「……本当はもっと、こう、国の騒動とかとは無縁で、旅行できてほしかったです」
「いやあ、俺はこういう理由が無かったら来たくないけどなあ……」
「叔父上、黙っていてください」
こんな状況でなかったら、もっと楽しかったはず。
それだけが残念だと言わんばかりのリーンだが、ジョンマンとしては危機的状況でもなければ故郷を出たくなかった模様。
「ジョンマンさんはこう言ってるけど、無理矢理引っ張ってきたら結局来てくれるって!」
「それは良くないと思いますよ」
コエモは強引な提案をするが、マーガリッティは流石に諫めていた。
「リーンさん、私たちは不謹慎なくらい楽しめていますわ。ですから、そんなに気にしないでください。今はみんなで『七輪を囲む』をしましょう」
「はい!」
オリョオの言葉もあって、リーンの陰りは完全に消えていた。
ワクワクした顔で、コエモへ提案をする。
「コエモさん! 私、コエモさんが書いた本がすごく読みたいです! 何年後かに書く予定だとおっしゃっていましたけど、できれば早めに書いてくれませんか?」
「え? どうしようかなあ……」
「ほら、帰りの船の中とかで!」
「帰りの、船……か……天候次第だね、うん……」
できれば帰りの船のことは考えたくないコエモは、一気に気落ちした顔になるのであった。
オリョオやオーシオも同様の顔をしており、なんとか話題を切り替えようとしている。
「叔父上、まだ焼けてませんか?」
「まだしばらく」
「早く食べたいな~~……だぜ」
※
身を寄せ合いながらかまくらで一晩を明かした一行は、翌朝再び歩き出した。
疲れ切るまで戦った面々であるが、普段から鍛えていることや若いこともあって、翌朝には復調していた。
寒いながらも空は晴れており、怨念の量が減ったこともあってさわやかな朝である。
「それじゃあ次は近くにある大きめの町に行こうか。流石に連戦はきついし、かまくらの中だと疲れも抜けきらないからね。少なくとも、戦闘のまえにちゃんとしたところで休みたい」
「え~~? 私たちはすっかり休めましたよ?」
「……それは気のせいだ。それに、リーンちゃんが顔を出すことに意味もある」
きょとんとしているリーンは、ジョンマンの言いたいことが分かっていない。
「昨日の君は、広範囲で聖域魔法を発動させたからね。近くの大きな街ではそれが見えたはずだ。霊障が解決したこともあって、君の登場を待ち望んでいるよ。安心させてあげるのも、君の役目だ」
「お任せください! 安心させるのは、とっても得意なので!」
「……得意ではあるんだろうが、心配でもあるな」
雪道用のカンジキで歩いていく一行は、リーンの役目を理解しつつも、彼女が余計なことをしないのか心配になっていた。
最初の町で第三王子とその婚約者と遭遇したこともあって、少々不安になってしまう。
しかし怨念の晴らされた道を進み、付近の大きな街に到着すると……。
そこは港町以上の大都市があり、大勢の人々がリーンたちを出迎えていた。
「公女様! リーン公女様!」
「やはりあの聖域魔法は、公女様のお力でしたか! この国をお救いに戻ってきてくださったのですね!」
「もはやこの国は明けぬ夜に包まれたかと思っておりましたが……貴方という太陽のおかげで、朝が訪れました!」
公爵令嬢、第一王子の婚約者、聖域魔法の使い手。
さまざまな属性を背負い、それ故にこの苦境で輝くことを求められる。
これだけ大勢の人を見たコエモやオリョオからすれば、押しつぶされそうな重圧だった。
そんな中で、リーンはなおも輝く。
「みんな、心配させてごめんなさいね! 私が来たからにはもう大丈夫! 全部解決してみせるわ!」
全方位を明るく照らす、後光さえ感じさせる聖女。
絶望の淵にいた民衆へ希望をもたらす、冬国の太陽。
歓声が沸くだけではなく、拝むものまで現れていた。
しかしつい昨日、廃坑前の惨状を思い出せば、そうなっても不思議ではあるまい。
抗う術のあったコエモ達ですら恐ろしかったのだ、他の者たちからすれば遠くにいるだけでも恐ろしいだろう。
その闇を払ったリーンが、崇拝されても不思議ではない。
「どうした、君たちも手を振って応えてもいいんだぞ? 君達だって一緒に戦ったんだから、称賛されてもズルくはないぞ」
「あ、いや……いいかな」
「遠慮します」
いきなり崇拝されるのは流石に嫌だったらしく、他の乙女たちは従者に徹するのであった。
そうしてパレードのように行進していると、出迎えの形で豪華な鎧を着た兵士たちが迎えてくれた。
どうやらリーンの知り合いらしく、彼女は大喜びで駆け寄る。
「貴方たち、迎えに来てくれたのね? 第一王子と第二王子、その婚約者はどうしたの?」
「ははは! どうかあわてないでください、リーン殿下。第一王子はここにおられませんが、第二王子とその婚約者様はこの町にいらっしゃいます。ご案内しますので、どうそこちらへ」
「ありがとう! あ、みんな! 紹介するわね! この人たちは、第一王子、第二王子、第二王子の婚約者の護衛の人たちよ!」
リーンはジョンマンたちに兵士を紹介し、逆にジョンマンたちのことを兵士に紹介した。
「紹介するわね! この人たちは、私の仲間とお師匠様! とっても強くて頼りになる、この国を救いに来てくれたいい人たちなのよ!」
「それはそれは、とてもたのもしい!」
兵士たちはジョンマンの元に向かい、彼の手を取った。
「とても、頼もしいです!」
「……そりゃどうも」
言外に、リーンだけだったらどうしようかと思った、と言われたジョンマン。
兵士たちの心中を嫌というほど味わいつつ、ジョンマンは握手に応じていた。
「ささ、みなさんこちらへ……その道中、この国の現状をお話ししましょう!」
「ええ、是非お願い! 私がいなくなった後、何がどうしてこうなったの!?」
街の中を進みながら状況説明を始めようとする兵士達。
リーンは興味津々の様子だが、ジョンマンはいぶかしげな顔をしている。
「ずいぶん慌てている様子ですが、どうしたので?」
「それも、お話します」
国中がとんでもないことになっているのはわかっているので、ろくでもないことだけは確かであった。
「リーン殿下がどうして行方不明になられたのか、私どもは把握しておりません、今からお聞きしたいところですが、その時間も惜しい。なのでリーン殿下がどこかへ消えたあとなのですが……」
リーンたちを守るように隊列を組み、案内をしている兵士達。
今も町の人々はリーンたちを讃えているが、彼らの顔は曇っていた。
「第一王子、第二王子、第三王子……また婚約者様たちは血眼になってリーン殿下を捜索されました。しかしまったく見つからず……業を煮やした第一王子は、とんでもない暴挙に打って出たのです」
愛する人が行方不明になったので、必死になって探す。
それ自体は美談に思えるが、まったくそんなことはないのだ。
「慰霊のための兵士さえも捜索に投入し、それを咎めた者も投獄していきました。捕らえられた方の中には、リーン殿下のご両親も……」
「お父様とお母様も⁉」
「どうやら、お二人がリーン殿下をかくまっているのでは、と疑っていたようで……」
ただでさえどうしようもないことになっているのに、輪をかけて酷い情報が出てきた。
まだ会っていない相手のことをどうこう言いたくはないが、すでに株はストップ安である。
「そうしている間に、霊障は悪化……現在の状況になりました。それでも、誰もがリーン殿下を捜索することに人員を割いており……他のことは片手間となっておりました」
「そうだったのね……あらためて、酷いわ! なんとかしないと!」
「ええ、リーン殿下が希望でございます」
「任せて! まずは第二王子とその婚約者から説得するわ!」
「……ぜひ」
一行はひと際大きな宿に案内された。
その最上階、もっとも広い部屋に入っていく。
そこには第二王子らしき、眼鏡をかけた知的な男性。
および、やはり眼鏡をかけた、知的な雰囲気の女性。
二人が並んで、椅子に座っていた。
「シラカンパ君!? アオピジョンちゃん!? どうして椅子に縛り付けられているの!?」
正しく言うと、椅子に座らされて、縄でぐるぐる巻きに縛られて、その上口枷まで噛まされていた。
リーンが部屋に入ってきたことで大いに反応しているが、何も言えずにいる。
「一体だれがどうしてこんなことをしたの!?」
「私どもでございます」
「なんで!? 貴方たちは護衛じゃないの!?」
状況からすれば、護衛の兵士たちがやったことは明らかである。
しかし護衛の兵士たちがこんなことをしているのは、リーンからすれば不可解の極みだった。
「じつはその……リーン様がお戻りになったと聞いた二人は、それぞれに動かれまして……」
「別々に動いていたの!? 将来を誓い合った仲なのに!?」
「それぞれが、第一王子の護衛である我らを叩き潰すよう命じられていたのです」
「なんで!?」
(わかんねえのかなあ……)
リーンの気持ちはわからないでもない……というか、それぞれの役目や立場という面からすれば、何が起きているのかわからないだろう。
問題なのは、リーンがいるということであった。
「とにかく、この縄を解いてあげて! この二人が何をしたのかわからないけど、きっと理由があるはずよ! 二人ともとっても偉くて賢い……私の憧れだもの!」
自分がバカだと認識しているからこそ、リーンは賢いものを尊敬している。
彼女の認識からすれば、第二王子とその婚約者は尊敬の対象であるらしい。
「承知しました」
「……なあ、言われるがままに縄をほどいていいのか?」
「我らとて、心が痛むので」
「そりゃそうだろうが……」
この町にいたであろう、第一王子の護衛兵達。
それを攻撃するように命じ、部下から逆に拘束された二人。
第二王シラカンパと、婚約者アオピジョン。
二人は縄をほどいた兵士たちを睨みつけながらも、リーンに抱き着いていた。
「会いたかった……会いたかったよ、リーン!」
「生きてきてくれて、本当によかったわ!」
「やだもう、二人とも! いつもは抱き着こうとしても逃げてくのに!」
「普段は恥ずかしくてね……でも、もう恥ずかしがらないよ」
「貴方との抱擁が味わえない時間が、私の気持ちを変えたのです」
「そっか~~! よしよし! 縄で縛られていて辛かったよね!」
兵やジョンマンたちは白々しい目で『義兄弟』の再会を見ているが、そんななかでもリーンはちゃんと話を進めていた。
「それで! 二人のことは聞いたけど……私のことを探すことに夢中になって、慰霊をおろそかにしていたって本当なの? 私のお父様やお母様が捕まっているのに、なにもしなかったの?」
「それは……本当のことだ。だが、どうしようもない理由があるんだ」
「そうよね、何の意味もなくそんなことをするわけないものね!」
「ええ……言いにくいのですが、きっと理解してもらえると思います」
なにやら頭がよさそうな雰囲気の二人だが、果たして何を言うつもりなのか。
だれもが見守る中で、心の内を明かしていく。
「……なあ、リーン。君は私と仲良くなった時のことを覚えているか?」
「私と仲良くなった時のこと、覚えている?」
「ごめんなさい、全然覚えてないわ!」
「そうだろうな……君はそういう子だ」
「そうでしょうね……覚えていてほしかったわ」
悪気はないのだが、頭は悪いリーン。
彼女のざっくりした返事に、頭がよさそうな二人はがっかりしていた。
「昔の私は、君が嫌いだった。お世辞にも頭が良くなかったし、兄の婚約者だったからね」
「私は昔貴女のことが嫌いだったわ。俗で幼稚な活劇が好きで、繊細な物語が嫌いな貴方が、どうしようもなく低俗に見えたの」
二人にとって重要なのだろうが、他の者にとってはスキップしたくなるような話が始まった。
「昔の私は、この国の歴史や文化を調べるのが好きだった。誇り高いルタオ冬国が、世界でとても素晴らしいと評価されていると調べることが好きだった。だがある日気付いてしまった。この国にある素晴らしい建造物に、私は一切かかわっていない。この国の素晴らしい観光名所を、私は見に行ってもいない。この国のものづくりに、私は出資も購入もしていない。私はルタオ冬国に属していることを誇りに思っていたが、そのくせルタオ冬国になんの貢献もしていないと気付いてしまった」
「昔の私は、低俗な物語を嫌い、高尚で繊細で難解な物語を好いていたわ。世間に真の芸術を知らしめるために、自ら筆を執って本を書き、有名な作家に送ったの。私は自信満々で、胸を躍らせていたわ。国中、いえ、世界中の人間が私の高尚な作品に触れて、啓蒙を受けるんだろうって。でもその作家先生からの評価は、ボロボロだったわ。君の書いた本は、難解になることが目的になった、読者を困らせることにこだわっているだけの物だって。到底作品とは言えないって。私はとても落ち込んだわ」
「だがそんな私を、君は理解してくれた。『貴方はとても勉強ができるのね! 歴史や社会の勉強に興味をもって、そんなに調べられるなんてすごいわ! もっと楽しいことを教えて!』と言ってくれたね。調べているだけだった私に、それが凄いと言って褒めてくれた……幼いながらに救われたよ」
「拗ねている私に、貴方は『本当に本を書くなんてすごいわ! 評価されなかったことなんて、気にしなくていいのよ! 最初から上手に書ける人なんていないわ! 次はもっといいのを書けるわよ! 応援してる!』と励ましてくれたわね。それが嬉しくて、私はまた筆をとることができたの……今の私がそれなりに名の知れた文豪になれたのも、貴方のおかげよ」
「そんなこともあった気がするわね!」
二人はリーンとほぼ同年代であり、昔のことを語っているからには幼少期のことなのだろう。
その当時にしては成熟した悩みを抱えていたのだろうし、頭がいいのも納得であった。
「私は……兄の婚約者である君を、愛してしまった。だが結ばれることは許されなかった」
「私は同じ女でありながら、貴方に恋をしてしまったの。でも、貴方は王妃になることが決まっている人。どうしようもなかったわ」
二人は胸の内に封じていた想いを、リーンにぶつけていた。
「だから……いけないとは思っていても、兄の失敗を見て見ぬふりをした。兄が落ちぶれれば、私に王位が巡ってくる。そうなれば、私にも機会が来るかもしれない。そう思ってしまったんだ」
「貴方が第一王子を良く思っていることは知っていたの。だから、第一王子を嫌いになってしまえばいいんだって、思ったの……よ」
概ね想定通りの真相を聞いて、兵士達やジョンマンたちは苦笑いを浮かべていた。
さて、リーンはどう答えるのか、というか応えるのか。
全員の視線がリーンに集中する。
果たして彼女は、どう反応するのか。
「???」
何が何だかわからない、という顔で返事に窮していた。
というか、二人が何を言っているのかわからない、という顔だった。
バカ丸出しではあったが、なんとか二人を理解しようと必死になっている。
「あの、オリョオさん。ちょっと聞いてもいいでしょうか」
しばらく考えたあと、バカな自分では答えに到着できないと判断し……。
もっとも近しい姉貴分に助けを求めた。
「私はこの二人に、納得できる理由があるの? と聞きましたよね。それで二人は私が納得できる理由があると返事をしましたよね」
「そうだったわね」
「それで、私のことが好きだからで、私が第一王子を嫌いになると思って、見て見ぬふりをしていたと言いましたよね?」
「そうでしたわね」
「納得って、『ああそうだったのね!』とか『そういう理由なら仕方ないわね』とかなるものですよね?」
「そうですわね」
可能な限り短くまとめたリーンは、改めてシラカンパとアオピジョンに質問をした。
「なんでその理由で、私が『それなら仕方ないわね』と納得すると思ったの?」
兄の婚約者がどうとか、同性愛だとか、そういう高いレベルの話ではない。
もっと根本的に、低いレベルの話をしていた。
まさかそんなことを言われるとは思っていなかった二人は、目をむいて驚く。
「え、え?!」
「そんな、なぜ……」
「国民のみんなが困っていて、私のお父様やお母さまが捕まっていて、それで見て見ぬふりをしたことが『私が好きだから』で納得できないんだけど」
リーンはバカだが、バカなりに『基本』は抑えている。
できるだけ筋道を立てて理解しようとしているからこそ、二人が何を言っているのかわからないのだ。
「なんでわかってくれないんだ?!」
「どうして納得してくれないの?」
「わかりたいから、わかるように言ってくれないかしら?」
「わかってくれ! 君なら理解してくれる! 君は私の理解者のはずだ!」
「そうよ、貴方だけは私のことを理解してくれるでしょう!?」
「わかりやすく教えてちょうだいよ」
「ここまで言ってもわかってくれないのか!?」
「どうして、なんで!?」
もはやここまでくると、どっちの頭が悪いのかわからない。
いや実際、リーンの方がましかもしれなかった。
「ジョンマンさん……私、全然わからないんですけど……どういうことなんでしょうか」
「俺に聞くなよ……さっきみたいに、オリョオちゃんに聞いてよ……」
「そこをなんとか……」
頼られたジョンマンは、『真実』を話した。
それは上手く言語化できなかった他の人でも頷ける、簡単な説明だった。
「その二人は君に理解を求めているが、別に理解してほしいわけじゃないんだよ」
「え、どういうことですか?」
「自分達が悪いことをしていたことを棚上げして『ああそうだったのね!』とか『そういう理由なら仕方ないわね』って言って欲しいだけなんだよ」
あまりにもあけすけな言い方に、シラカンパとアオピジョンは反論しそうになるが……。
「え、まさか、え? ねえ、二人とも。まさかこの話の流れで『ああそうだったのね!』とか『そういう理由なら仕方ないわね』って言って欲しいの? こんなにたくさんの人が困っているのを放置しておいて?」
リーンの問いに、何も言えなかった。
ここで否定をすれば、それをしてもらえないからだ。
その沈黙は、リーンですら分かる『図星』だった。
「呆れた……貴方たち、いつまで子供みたいなことを言ってるのよ!」
(ごもっとも……)
第一王子の婚約者リーンが、この国の希望であることが悲しいほど明白なのだった。




