ばかがやく
かくて、使い手が少ないのも納得の、希少価値の高い魔法使いであることが判明したリンゾウ。
彼女の魔法が有用であることが判明したうえで、話し合いは再開された。
「ということで……僕は故郷に帰らないといけなくなりました!」
「んん……でもなあ、いろいろ危ないぞ。そもそも君はある意味危険人物だからこそ追放される羽目になったんだし、君も結構受け入れていたんだろう?」
「そうですが……」
むむむ、と考え込むリンゾウ。
そんな彼女の肩に、リョオマが手を置いた。
にっこりと、頼もしそうに笑っている。
彼女の顔を見て、リンゾウも大いに笑った。
「ジョンマンさん! 是非お力を貸してください!」
「……具体的には」
「同行してください!」
「えええ……ええ……え~~~えええええええ、ええええええ」
目を輝かせているリンゾウやリョオマに対して、ジョンマンはものすごくイヤそうな顔をしていた。
なんなら、げっそりとやつれて、体調不良を起こしているかのようである。
「えぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇえぇ」
言われる可能性を考慮していなかったわけでもないが、言われることを想像することさえ忌避していた提案である。
ジョンマンの全身が、既に拒否反応を示していた。
「之之之之之之之之之之之之、工工工工工工工工工工」
(何を言ってるんだろう……)
舌が痙攣でもしているかのように、異様な発音が垂れ流されている。
リンゾウやリョオマ以上に、何を言っているのかだれにもわからなかった。
しかしジョンマンの個人的な主観を抜きにしても、内乱寸前の国へ踏み込むことがためらわれるのは普通である。
オーシオはさすがにリンゾウをたしなめていた。
「リンゾウ君、さすがに無茶な要求ですよ! 叔父上でなくとも、嫌がられて当然です!」
「それはわかってます! でも、僕はみんなを助けたいんです!」
「それは公爵令嬢だからですか? それなら……」
「そんなの関係ありません!」
たしなめられてなお、リンゾウは我を通そうとする。
「平民の生まれでも、そうしていたはずです!」
「……!」
本気の発言に、オーシオは思わず揺さぶられた。
ジョンマンが彼女を危険視していた理由が、ここに来てよくわかってしまった。
どう考えても止めるべきなのに、ついつい味方したくなってしまう。
なんなら、同行したいとすら思ってしまう。
そして誰の賛同も得られなかったとしても、一人で突っ込んでしまうのだろう。
まさに、主人公と言うほかない。
「あああ~~~……嫌だけども、いいよ」
ジョンマンもその覚悟を理解しているからか、結局は受け入れていた。
「もう二度とこの町を出るまいと思っていたし、船なんて二度と乗りたくなかったし、まして海外なんて冗談じゃないけども……ダンジョンに潜るわけじゃないなら、まあいいよ」
(どれだけダンジョンが嫌なんだろう……)
「それに、傾きかけた国を立て直したのは、一度や二度じゃないしな……。アイツのせいでな……クソが」
伊達に勲章を何個も持っていない、アリババ40人隊のメンバー。
内乱寸前の国であっても、何とかできるだけの自信はあるらしい。
「それに、マーガリッティちゃんやリョオマ君は最初から同行するつもりだっただろう? 二人のためにも、俺も一緒に行くべきだろう」
「リンゾウ君は、私と同期……お友達です。見捨てることはできません」
「俺も彼女をここに連れてきた身として、同行するつもりでしたわだぜ!」
「そうなると、コエモちゃんやオーシオちゃんも……」
「……じつはちょっと興味がありました」
「……立場上あまり良くないのですが、同行させていただきます」
「だよねえ……俺の元で過酷な修行に耐えている子たちが、ここで立ち止まらないよねえ……」
ジョンマンの元で修行を受けている者たちは、強い心を持っている。
いわば、勇のある者たちだ。
義を見て見ぬふりなど、できるわけがない。
ジョンマンはかつての仲間たちを思い出して、悲しみの涙を流していた。
「それじゃあ、明日にも出発しよう。港町に行かないと、ルタオ冬国にどうやって行くのかもわからないしね」
「マンマ・ミーヤ! ジョンマンさん、ありがとう~~!」
「ぎゃあああああああ!」
感極まったリンゾウが、全力でジョンマンにハグを決めた。
台風並みの風評被害を発生させかねない蛮行に、ジョンマンは思わず悲鳴を上げる。
これはもはや、冤罪を誘発させる、情報攻撃ではあるまいか。
「他のみんなも、ありがとう~~!」
ジョンマンが悲鳴を上げているにもかかわらず、リンゾウは気にも留めずに他の女子たちへ抱き着いていく。
ほぼ同世代の同性ということで騒ぐことはないが、リンゾウが自己申告通りの性別だった場合問題行動として判断されかねない。
やはり世間の目は厳しいのである。
「それにしても……私としては、正直こうなる気がしていたのですが、叔父上がこうもあっさりと承諾したことには驚きましたね」
オーシオとしてはある種の予定調和だと思っていた。
しかしこの町を出ることさえ嫌がっていたジョンマンが、ドザー王国を出て船旅に付き合うことへ、こうもあっさり同意するなど意外であった。
「何を言ってるの、オーシオちゃん……ジョンマンさんのことだから、あとで滅茶苦茶渋るよ」
理解が足りてないなあ、と呆れるコエモであった。
※
翌日。
旅の支度をしたコエモ、オーシオ、マーガリッティの前で、寝不足気味の顔をしたジョンマンが弱音をこぼした。
「……やっぱり行くのやめない?」
「ね、こうなったでしょ?」
「そうでしたね、こういうヒトでしたね……」
おそらく夜寝る前にいろいろ考えてしまって、どんどん悪い方に考えが向かって行って、最終的に嫌になったのだろう。
ジョンマンにはよくあることであった。
「ジョンマンさん! 仕方がないとは思いますが、生徒と約束したことを翌日に撤回するなんて、良くないと思います!」
「うぐうう!」
マーガリッティからの熱い正論が、ジョンマンの胸に突き刺さった。
「そうなんだよ……俺もわかってはいるんだよ。でもさあ、弱音を言いたくなるじゃん……もう二度と、冒険とか旅行とかしたくなかったんだよ……」
「お気持ちはわかりますが、リンゾウ君やリョオマ君の前では言わないで上げてください。愚痴なら私たちが聞きますから、ね?」
「うん……」
マーガリッティの包容力によって、ジョンマンの目から涙がこぼれた。
「俺より年下の女性の娘さんから慰められる俺っていったい……」
涙の理由は、なんとも世知辛いものであったが。
「みんな……俺みたいになっちゃだめだぞ……」
人生を冒険に捧げた男の、反面教師ぶり。
人知を超えた力を持つ男の、悲しい嘆きであった。
「マンマ・ミーヤ! 皆さん、お待たせ~~!」
「遅くなってすみません」
そうしていると、今回の件の中心人物たちが現れた。
全員がその方を向くと、とんでもない姿をしていることに驚く。
「じゃじゃ~~ん! 僕の妹のリーンの姿です! どうです、完璧な女装でしょう!」
「俺も親戚のオリョオの姿にしてみましただぜ!」
普段男装している少女たちが、女性の姿になって、女装していると言い張っている。
なんとも滑稽というか奇怪な話だが、一番のツッコミどころは『これから旅をするのになぜ男装を解いたのか』であろう。
いくら『なんちゃって男装』とはいえ、女性の姿よりは相対的に安全なはずである。
「僕の故郷ではリンゾウという名前の男はどこにもいないのです! なので良く知られている妹の格好をすることで、周囲の目を騙す作戦なのです!」
「そんなリンゾウ君ですが、実際には男性なので、世話をするのが女性では問題があります。ですが今は女装をしているので、同じく女装している男子……そう、俺がいるというわけだぜ!」
二人の迷推理……というか自分たちの作戦を誇らしげに語る二人。
頭が悪いだけなので、真面目だし、一生懸命なのだ。
でもそんな二人を見る仲間たちは、リアクションに困るどころではなかった。
「ジョンマンさん、あの二人をあのままにして大丈夫だと思う?」
「ん~ん」
コエモからの常識的な質問に対して、あいまいかつしっかりと否定するジョンマンであった。




