総括
一方そのころ、ジョンマンは弟子たちを集めて会議をしていた。
「それではみなさん、反省会を開きま~~す」
ジョンマンは疲れた声で、全員に反省会の開催を宣言する。
「みんな思うところがあっただろうけども、まずは俺から……」
「あんな向上心のない奴らに劣勢を強いられたことが、ものすごくショックでしたわ! もっと強くなりたいですわ! だぜ!」
「……リョオマ君はまず、俺の話を聞こうか」
ある意味反省しているリョオマ君ちゃんだが、先生の話をおとなしく聞くことができていないため、反省会の意味を理解していないと言える。
「俺が本職の先生じゃないから仕方ないが……生徒や弟子の前でキレ散らかしちまったな。アレは良くない。生徒の前で禁呪を使ったり、生徒に禁呪を教えている時点で大概だが……やっぱり、教える順番をミスったか……」
反省会というより、弟子たちの前で反省をこぼす会にしているジョンマン。
悩んでいる内容は真面目で、しかも一般的に考えればサザンカ側の方が正しいので擁護しにくかった。
「どうせ禁呪なんて、教えるのは簡単なんだし……」
「え、そうなんですか? あ~~……いや、そうですね、そうでしたね」
禁呪の習得は簡単、という言葉にコエモは疑問を抱きかける。しかしよくよく考えれば、禁呪である『エインヘリヤルの鎧』の拾得者は国内にゴロゴロいるし、自分達もあっさりと習得していた。
禁呪の習得が簡単であることは、既に実証済みである。
「それでは叔父上、『生命の維新』も習得は簡単ということですか?」
「ああ。なんなら応用もクソほど簡単だぞ。そうでなかったら、才能のない俺がああもぽんぽん使えるわけがない」
ジョンマンは『生命の維新』を、広域破壊、収束攻撃、防御に使っていた。やろうと思えば、身に纏うこともできるらしい。
一種類の魔法を応用しているのだと考えれば、その魔法がよほど簡単でなければ機能しない話だ。
「というか、本来は命と引き換えにぶっ放す技だぞ。二回打てないんだから、練習自体できない。それでも使える簡単な技だ」
「よく考えればそうですね……」
「歴史的に見て、原初の魔法はすべてが禁呪だったそうです。当時は技術が未熟だったため、安全性の確保という概念自体なく、とりあえず魔法が発動すれば成功、というものでした。詠唱技術などの発達によって、性能が下がり習得難易度が上がる代わりに安全性が確保されはじめ、リスクやデメリットが排除された『禁呪でなくなった魔法』が生まれたそうです。つまり本来の定義で言うなら、『禁呪でなくなったので通常の魔法』と『危険性を排除できないので禁呪のまま』と説明するのが正しいのですね」
流石はマーガリッティ、学生だけに歴史にも詳しい。
彼女の説明を聞いて、他の弟子たちも頷いている。
「へ~~……じゃあ『僕の魔法』も、『禁呪のまま』なんだ」
「いや、君の魔法はまたちょっと毛色が違う。というか、むしろその対極だ。君の魔法になんのデメリットやリスクがある?」
「……無いですね」
(いい加減、リンゾウ君ちゃんの魔法について教えてほしい……)
ずっと濁されている、リンゾウの魔法。
デメリットやリスクがあるというわけではなく『使える人間が限られているので、自分の正体が露見してしまう』ということを恐れて使いたがっていない。
しかしもうすでに正体はバレバレなので、隠さずに教えて欲しいところであった。
「でだ……反省会を続けようか。リンゾウ君はなんかある?」
「ないです! むしろ、最高だと思いました!」
「そ、そう……」
いつものように目を輝かせている男装少女。
アリババを思い出してしまうので、ついつい目を背けてしまうジョンマン。
「特に! みんなで謝って仲直りできたのはとっても良いなって思いました!」
「そうだね……俺もそう思うよ……うん」
「僕の故郷では、何があっても絶対に謝らない人ばっかりだったんです!」
なお、ものすごい闇が吹き上がった模様。
キラキラした目なのに、口から出るのは猛烈な闇であった。
「そんなに謝らない人ばっかりだったのかい?」
「はい! それはもう! 仲直りしてってお願いしても、絶対に断ってくるんです! 『俺にはお前がいればいい』とか『貴方は私だけを見て』とか! みんな仲良くするのが一番なのに!」
「……そうだね、うん」
人柄の明るさにごまかされていたが、もしかしてリンゾウはものすごくかわいそうな子なのではないか。
彼女への対応を少し考えなおしつつ、この話題から離れようと考えてしまう。
「そ、そうだ! ジョンマンさん! ジョンマンさんって、世界最強格の魔法使いのことを知っているんですよね⁉ どんな感じなんですか⁉」
反省会の趣旨から離れることを承知で、コエモが質問をぶつけた。
「サザンカ先生だってとっても素敵な魔法使いなのに、アレより上がいるなんて信じられなくて!」
「……その話はしたくねえなあ」
セサミ盗賊団とアリババ40人隊には、世界最強格の魔法使いが在籍しており、幾度となくぶつかっていた。
その戦いは全方見聞録にも書かれており、因縁のライバルとなっている。
「オズとドロシーのことだろ? あの化け物どもは、マジでステージが違うからな」
世界最強の候補になり得る、最強の魔法使いたち。
その実力を知っているジョンマンは、物凄くイヤそうな顔をしていた。
それこそ、顔から血の気が引いている。吐き気を催しているようにも見えた。
思い出すだけで体調が悪くなる魔法使いとは、いったいどれほどなのだろうか。
「君たちはノォミィちゃんからの開幕ブッパに対して、威力が低い場所に立って凌いだだろう? アレは確かに正しい行動だったが、それは発射体勢に入った魔法の発射方向を変えられないからこそだ。もしもノォミィちゃんが途中で発射方向を変えられるのなら、あの作戦は破綻していた」
「それはそうですが……素人考えでも難しいと思います。どうなんですか、マーガリッティちゃん」
オーシオから意見を求められたマーガリッティは、とんでもないことだ、と首を横に振る。
「そんなこと、できるわけがありません! アレだけの魔力を込めて発射体勢に入った攻撃魔法の発射方向を途中で変えるなんて! そんなことをすれば、手元で暴発して自爆してしまいます!」
細かい原理はわからないが、誰もが彼女の説明に納得する。
ノォミィの大火力魔法は、エインヘリヤルの鎧を着た三人をまとめて吹き飛ばすほどの威力だ。
仮に直撃すれば、ジョンマンやラックシップですら大ダメージを負うだろう。
それほどの威力を込めた魔法の角度を変えるなど、そう簡単にできるわけがない。
「そのとおりだ、絶対にやっちゃいけないことだな。世界最強勢はな、それを当然のようにこなす」
簡単にできないというだけで、世界最強格からすれば『できなければ話にならない』ということであった。
超絶技巧が標準装備とされるステージこそ、世界最強争いなれば。
「アイツらは突っ走りながら呪文を唱えて圧縮多重行動でチャージしつつ、ぶっ放しながら発射方向を変えて薙ぎ払うからな。しかも高速誘導弾を同時にいくつも制御しつつ、格闘戦をこなしながらだぞ? 頭がおかしい」
「……?」
「おまけにフレーム流戦闘魔法も使えるから、左右の指をぐちゃぐちゃ動かして同時にいくつも魔法を展開しつつ、肘鉄を打ってくるからな? その上相手に噛みついてから腹話術のノリでぶっ放しても来るぞ?」
「???」
「それが大混戦の中でやることだからな? 敵も味方も俺以下がいない戦況で、自分の首を狙ってくる奴らを牽制しながら戦うんだからな?」
「????」
何を言っているのかわからないわけではないが、その情景をまったく想像できなかった。
一つ確かなことは、サザンカ先生では到底及ばないステージであろう、ということだ。
そんなのが実在したのなら、劣等感を抱えても仕方ない。
「真似してはいけない、ということはわかりました」
「そうしてくれ」
これをやったら失敗する、自爆する、暴発する、自滅する。
それを同時に並行して成功させ続ける、なんて生徒に指導できるわけもない。
使っている技術は同じでも、まったく別ジャンルなのが世界最強というステージなのだ。
「ジョンマンさんは、それができる方から指導を受けたのですね」
「ああ。だから俺は、対魔法使い戦闘も得意、というか習得している。だから逆に言って、俺の強さを君達へ引き継ぐことはできない」
ジョンマンのように、魔法使いとの戦闘を完ぺきにこなすには、魔法使いから直接指導を受けなければならない。
ジョンマンがほとんど魔法を使えない以上、彼から指導をすることはできないのだ。
「むぅ……それでは俺も、いずれは海に出て修行をしたほうがいいのかもしれませんわだぜ……」
(え……)
ジョンマンの得た『対魔法使い戦闘術』を見たリョオマは、自分もそれを得たいと思うほどになっていた。
しかしそんな彼女を見て、リンゾウは少しばかり曇るのであった。




