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知識と経験

 ジョンマンとサザンカが戦う。

 それを聞いて、特進クラスの生徒、およびトラージュは盛り上がっていた。

 トラージュは大人なので大騒ぎをすることはないが、それでも表情はやや興奮気味である。


 なにせサザンカは国内最強の魔法使いである。

 国外から招聘された人物であることも相まって、まず相手になる人物がいない。

 その彼女が戦うということで盛り上がっていた。


 一方でジョンマンの弟子はと言うと……。


「ジョンマンさん~~! 私たちの仇、とってください~~!」

「……コエモちゃん、君たちは負けてないよ。勝ったんだよ」

「勝ってないですよ~~! あれで勝った、万歳ってなれない~~!」

(悪いことしたのかもなあ……)


 接戦の末の勝利……というか、相手がタオルを投げての決着である。

 しかも自分たちはズタボロ、泣きたくもなる。


「……あ、いや、その、俺はこうなるだろうと思って送り込んだわけだから……その、ごめんね」

「いえ、叔父上が謝ることではないです」


 なお唯一立ち上がる力の残っていた、つまり勝因そのものであるオーシオは、自分の不甲斐なさに震えていた。


「敵の誘導に、あっさりと乗ってしまいました。自陣側は安全と考えて、全員で自陣に避難……そこを叩かれる……見事な兵法でした! 敵が強く、私たちが未熟だったのです!」


 ケエソマは逃走するであろう場所へ、拘束の準備を仕込んでいた。

 そこに逃げ込んだ自分たちが間抜けだった、というだけのこと。


「数値の上で勝利は確定していたといいますが、私たちがあの罠にかからなければ、快勝も狙えたというのに……!」


 あの罠にかからなければ、自分達はあのままごり押しができたはず。

 それを思うと、指揮官担当としては悔しくて仕方ない。


「そうそう! 本当に、そう! あ~~! 悔しい! だぜ!」

「リョオマ君、落ち着いて……」

「落ち着けませんわ、だぜ! 全方位への広範囲攻撃……エインヘリヤルの鎧と神速時間の合わせ技を完璧に対応されてしまったわ……だぜぇ……!」

(もう何を言っているのかもわからん……)

「それに攻撃をしのぎ切られてしまいましたわ! ああ、本当に、もっとまじめに修行をしておけば……だぜ!」

「まあ前向きになってくれてよかったよ」


 薬になれば、と思っての戦いであった。

 だがそれが効きすぎていることに、ジョンマンは少々の困惑を感じた。

 しかし、悪いことではない。


「君たちの試合は、良くも悪くも学生らしいものだった。だがここからは大人の時間……俺もちょっとは本気を出すよ」


 子供たちは、自分のできる範囲で最善を尽くそうとした。

 それは双方がよくわかっている。お互いに、できることはやり尽くしていた。


 だが大人にそれは許されない。

 大人は常に、完成形を求められるからだ。


「マーガリッティちゃん、特に君は良く見ていることだ。俺の戦いよりも、恩師の奮戦ぶりを」

「……はい」

「……俺はさっき君に、『まず学園で学ぶべきだ』と言ったね。アレは嘘でもはったりでも挑発でもない。俺は本気でそう思っている……それを君の先生は証明してくれるはずだよ」


 ジョンマンは泰然と、再展開された試合会場に入っていく。

 彼の弟子たちはそれを見守りつつ、観客席に腰を下ろしていた。


 もちろんその隣には、トラージュや特進クラスの生徒たちがいる。

 生徒の面々は複雑そうにジョンマンの弟子を……特に試合をした三人をチラチラ見ており、同時に三人の方も見返していた。

 だがそれも試合が始まるまでのこと。対峙する教師と師匠を見て、息を呑んでいた。


「まずは、試合を提案して下さり、感謝しております。正直に申し上げて、私は試合を申し出たかった。ですがそれは……あの試合結果からは、言えないことでした」

「真面目だねえ、先生」

「教師は真面目であるべきです。特に、生徒の前では」

「違いない」


 サザンカは、ジョンマンに敵意を向けていた。

 憎悪、激怒。それを秘めて、隠しきれずにいた。


「貴方は先ほどの試合が、いい試合だと言いましたね。自分の弟子たちに、いい影響を及ぼしたとも」

「ええ、まあ、うん」

「私は逆です。あの試合は……私の生徒に、良くない影響を及ぼしました」


 その言葉は、まったくごもっともであった。


「心が折れたら再起不能になる。そんな禁呪を、生徒に……子供に教えるべきではない! まして、試合で使うなど……あってはならない!」

「……それはそう」


 ジョンマンは、自信なさげに頷いていた。


「先ほどの結果を見て、生徒がどう思うか想像しなかったのですか? 結局禁呪が強い、じゃあ禁呪を覚えたい……それに対して、じゃあ教えてあげよう、というのが教師ですか、指導者ですか!」

「いやそれは……」

「そんなものを習得しなくても、人は強くなれる! 生徒それぞれの才能を伸ばせば、禁呪を使うものにも勝てる! それを示すことこそ、指導者であるべきです!」


 ここでジョンマンは、少し黙った。

 そして口を開く。


「君はいい先生だ。とても、とてもな」


 ここでうかつな発言を避けようとする。

 それは、不器用だからこそ伝わる。


「だが口論はここまでにしよう。試合を前にしているんだ、これ以上舌で戦うべきじゃない」

「結果を出すべきだと?」

「君が言ったように『自分でも強くなれる』『禁呪を使わなくてもいいんだ』と思わせるのが教師の務めだろう」


 両者は、中央線、境界線を挟んで対峙する。


「ルールは、君に合わせよう。俺も……本気を出す」

「望むところです」


 生徒同士の試合では、さんざんルールについて、事前詠唱について口論をしていた。

 だがそれを、この二人はすっ飛ばした。これは雑だからではなく、ある種の紳士協定。

 互いに全力を出し合う、出させ合う。

 ある意味無制限の、最も過酷な実力勝負であった。


「ラグナ……ラグナ・ロロロ・ラグナ、ワルハラ……ヴォーダーン! アルフー・ライラー……ワー・ライラー! グリムグリム・イーソープ・ルルルセン! コキン・ココン・コンジャク・コライ!」


 まずは、とジョンマンが四つのスキルを同時発動させる。

 その、四つを同時発動させたというだけで、彼の弟子たちは緊張した。


(四つ全部使ったってことは……あのサザンカ先生は、ティガーザ並みに強いってこと!?)

(叔父上の眼力は確か……ならばこの戦い、学ぶことは本当に多そうですね……)

(ああ~~! 私もあんなふうに、完全無欠のスタイルを完成させたい~~!)


「ジョンマンさんの本気……サザンカ先生はどう戦うのか……」

「やっちゃえ、ジョンマンさん!」


 そして……三人の乙女とは違って、完成しているエインヘリヤルの鎧の威容に、生徒たちは息を呑んだ。

 もちろんサザンカも、同じように戦慄する。

 だが生徒と違って、怯えるだけでは許されない。


(やはり、エインヘリヤルの鎧を主体として、補助スキルをいくつか同時に発動させているスタイル。理事長の推測が正しいのなら、魔力感知に秀でているものもあるはず……いえ、絶対にありますね。そうでなければ、あの『一手差』は読めない)


 ーーーサザンカは、タワー流やフレーム流のように『スタイルありき』の戦法をとるわけではない。

 かといって自身の生徒のように、特定の魔法しか使えない、というわけでもない。

 ほぼすべての魔法を習得しているからこそ、相手を見てから対処法を作ることができる。

 これはむしろ、ジョンマンに近い。


(呪文の詠唱から言って、他に発動させているスキルは二つ……その中に、『アテナの盾』のように防御力を上げるものはないはず。防御はエインヘリヤルの鎧だけに頼っていると考えるべきですね。それなら、料理のしようはある……)


 彼女の火力は、ノォミィに劣る。

 彼女の拘束力は、ケエソマに劣る。

 彼女の防御力は、カイゴに劣る。


 だが彼女が使える魔法は、ほぼすべて。

 それに加えて、魔法を補助するスキルも網羅している。


「スモモモモモモモモノウチ、モモモスモモモモモノウチ!」

「……魔法補助スキル、圧縮詠唱。やはり使えるか!」


 彼女の呪文が耳に入ったのは、その一度だけだった。

 そこから彼女は、たしかに呪文を唱えていたが、耳で聞き取りきれないほど速かった。


 神域時間や圧縮多重行動の下位互換スキル、『圧縮詠唱』。呪文の詠唱のみを高速化し、時間をかけずに唱えきれるスキル。

 習得するには、当然ながら『早口言葉』が求められる。ただ早く言えばいいというだけではなく、五秒で詠唱する、四秒で詠唱するなどの完璧な時間感覚での早口言葉を言えるようにならなければならないのだ。

 

「~~~!」


 そして彼女が詠唱を行うと、地面からいくつもの巨大な柱が召喚されてくる。

 これは文字が彫られた石碑であり、一種宗教的な美しささえ感じさせていた。


「詠唱用オベリスクの召喚か……それもこれだけの数を同時に、一人で……」


 石に刻まれた文字に魔力を流すことで、詠唱や舞踏と同等の効果を発揮させる。

 繊細な魔力制御を前提とするが、それでも一人で複数の魔法を同時に使うには最高の物だとされている。


「シャッターライン!」


 彼女がその魔法を叫ぶと、彼女の周囲に線が引かれる。

 それはその時点では何の効果も見せていないが、その線がまさに防衛線であることは見るからに明らかであった。


「反応型防御魔法か……普段は発動させず、攻撃を感知したときだけ発動する分消費を抑えられるが……遅れたら負けるぞ」

「私の魔法の発動が、遅れるとお思いで?」


 ジョンマンの説明から、サザンカがどれだけ高度なことをしているのかが分かった。

 それに命を預ける、彼女の才能や自信もうかがえる。

 そして……いよいよ準備は整っていた。


「では……~~~!」


 耳が、脳が痛くなる詠唱。

 それと共に、魔法が発動する。


「アワーラッシュ!」


 水属性を含んだ、高速の泡。

 それがジョンマンへ向かって、攻撃的に殺到していく。


 ジョンマンはそれを見ても動じず、ただ無抵抗に受け続けていた。

 攻撃魔法である以上、それなりに威力があるはずの泡、泡、泡。

 それはジョンマンの鎧にぶつかると、淡く弾けて消えていった。

 当然ながら、ジョンマンの鎧には傷一つつくことがない。


「エインヘリヤルの鎧は、最強とされる。実際俺たちは、最強だと思っていた。その理由は、弱点がないこと。あらゆる属性への完全耐性をもち、状態異常も跳ねのける。が、もちろん無敵ではない」


 攻撃を受け続けたジョンマンは、途中で半歩下がって、体を半身にした。

 当然ながら被弾面積が減り、いくつかの泡がジョンマンに当たらず通り過ぎて行った。

 そのうちの一つが、地面に当たって……大きくえぐっていた。


 それを見て、ジョンマン以外の全員が驚く。

 驚きの種類は違うが、魔法を放ったサザンカですら目を見開いていた。

 だがジョンマンは、かまわず説明を続ける。


「さっきのノォミィちゃんがやったように、一定以上の火力を出せば、魔法でも物理でもダメージが通る。それで無敵ってのは、まあ通らないよな」


 そう説明しながら、ジョンマンは時折首を左右に倒したり、片足を上げたりして、『特定の泡』を避けていた。

 ジョンマンが避けている泡だけが、地面を、あるいは壁面を大きく揺らしていた。


「が……その一定以上の火力を出すってのは、当然ながら簡単じゃない。それを当てるのは、もっと簡単じゃない。つまりエインヘリヤルの鎧の利点は……相手にその『簡単じゃない』を強いれることだ」


 何が起きているのか、それは余りにも明らかだ。

 サザンカの放った『アワーラッシュ』という魔法には、ものすごく弱い泡に混じって強力な弾が時折放たれている。

 ジョンマンはその強力な弾を見極めて、それだけを回避しているのだ。


「もちろんサザンカ先生も頑張ってるぜ。弱い魔法に強い魔法を混ぜて、俺をかく乱させようとしている。これに対応するには大雑把に避ける、全部の魔法を避けるのが一番だが……相手がそれをして来たら、全部を弱い魔法に切り替えればいい。そうすれば、走り回る相手が疲れるだけで、弱い魔法を撃つだけの自分は疲れないからな」


 ジョンマンは指導者らしく、サザンカの戦法を解説していた。

 そして『対処法への対処法』も語っていく。


「でもまあ、よく観察すれば弱い魔法と強い魔法の見分けはつく。魔力を感知するスキルがあれば、なおさらにな。強い魔法を何度も撃てるわけがないんだから、被弾を抑える程度の気持ちで冷静に対応すればいい」

(一発も当たらない……やはり高位の感知スキルを持っていた……ならば!)


 サザンカは、ここで攻め手を一気に切り替えた。

 アワーラッシュを止めて、別の魔法を展開する。


「ファンブルミスト!」


 毒属性、酸属性を混ぜた魔法の霧が、ジョンマンの周囲を覆う。

 試合会場の外から、ジョンマンの姿が見えにくくなるほどの霧。

 それは当然、本来なら敵を毒や酸で攻撃するものだが、ジョンマンには全く通じない。


(周囲を魔法に包まれれば、魔力感知はできないはず!)


 しかしサザンカの思惑は、魔力感知を無効化することであった。

 魔法の霧をもってノイズ、雑音を生み出し、感知を妨害しようとしたのだ。


「ソニックスラッシュ!」


 風属性を込めた、薄く鋭く、そして広い範囲を切り裂く斬撃。

 エインヘリヤルの鎧にダメージを負わせられるほどの威力を込めて、彼女はそれを発射する。


「おっと」


 ジョンマンは、それをジャンプして避けていた。

 もちろん霧に包まれたまま、しかし明らかにその斬撃を視認して、それだけを避けていた。


「~~!」

「おっと、おっと、おっと……おっと」


 サザンカは何度も、縦や斜めに斬撃を放つ。

 ジョンマンはそれらをすべて、しっかりと避けていた。

 彼女の攻撃は、壁や地面を切り裂くだけにとどまっている。


(魔力に包まれたまま、別の魔力を感知できる……そんなバカな!? で、でも……それなら!)


 サザンカは困惑しつつも、霧を収めながら別のアプローチで攻める。


「みんな、眼を閉じなさい! ……フラッシュタイム!」


 自らも腕で目を隠しながら、光属性の魔法で閃光を放つ。

 極めてシンプルな目つぶしで、ジョンマンの視界を奪おうとしたのだ。

 そのうえで、再度攻撃を放つ。

 自分も視界が奪われたままだからこそ、やはり広い範囲を攻撃しようとして……。


「今度こそ……ソニックスラッシュ!」


 光に照らされたままの試合会場の中で、高威力の斬撃を放っていた。

 だが……。


「おっと」


 彼女の、あるいは観戦している者の耳に入ったのは、先ほどまでと同じく壁を切り裂く音であった。

 ジョンマンがまたも回避したと、誰もが理解せざるを得なかった。


「な、なんで……」

「サザンカ先生は、浄玻璃眼については詳しくないらしいな。まあ珍しいスキルだから無理もないが……」


 閃光が収まり、誰もが試合会場の中を確認できるようになった時、そこにはジョンマンがしっかりと目を開けたまま立っていた。

 彼は閃光の中でも、眼を閉じることさえなかったのである。


「浄玻璃眼は、感度を下げることもできるんだよ。その気になれば、太陽の黒点を裸眼で観察できるんだぜ? 閃光弾やらの類は、意味を持たねえよ。大体まあ、そういう方向での調整もできないなら、俺たちは太陽の下を歩けないしな」


 感度を上げ過ぎれば、逆に何も見えなくなる。

 これは常人でも、日常の中でも知れることであろう。


 暗いトンネルを抜けて、晴れた空の下に出た時、前が見えなくなる。

 しかし時間を置くと前が見えるようになる。


 これは当然ながら、周囲が暗くなっているのではない。

 瞳孔が周囲の光量に合わせて、眼球に入る光の量を調整しているからなのだ。


 魔力を感知する浄玻璃眼も、低い魔力を感じないようにしつつ、強い魔力だけを視認できるようにすることもできる。

 またサングラスをかけているかのように、光を遮断して目を保護することも可能なのだ。


「だからその手のかく乱は意味ないぜ」

「……そのようですね、それならば!」


 目くらましは効かない、それならそれでいい。

 サザンカは更に更に、攻め手を切り替える。


「念々土壌!」


 濃い土属性を込めた、地形を変える魔法。

 ジョンマンの立つ地面が、ぬかるんだ沼のように変わる。

 もちろん膝まで埋まるほどの深さはないが、スライムのようにジョンマンの足にまとわりつく。


「おぉ」

「これなら、少ない魔力で広範囲に、かつ貴方の足を止められます!」

「そーだな」

「そのうえで!」


 すこしばかり、移動が困難になる。

 その程度の魔法では、拘束することは叶わない。

 だからこそ、追撃で別の拘束魔法を繰り出そうとした。


「有刺鋼鉄茨網!」


 ケエソマが先ほど繰り出した拘束魔法。

 それより本数や強度は劣るものの、念々土壌との合わせ技によってジョンマンを縛り付けていく。


「食らいつけ、虎喰い犬!」


 そしてダメ押しとばかりに、四本の虎ばさみが、手枷足枷になるべく手首足首に噛みつこうとしてきた。

 もちろん歯が立つことはないが、ジョンマンを拘束しきることができるだろう。

 そうなれば、先ほどのノォミィのように強力な攻撃魔法を叩き込めるはずだった。


「1、2、3、と」


 ジョンマンはここで複数回行動を行い、イバラをちぎって大きく跳躍した。

 ただそれだけで、四つの虎ばさみは空を噛みつくに終わっていた。

 ジョンマンを拘束しきるための、本命の拘束具。それだけの魔力を込めた魔法が、空撃ちになったのであった。


「拘束力は弱いが、確実に当たる魔法。それから始めて、少しずつ拘束力を上げていく……そして本命、というのは実に王道だな」

「あ……ああ……」

「だが三つも四つも同時に魔法を使えば、その分すでに発動させている魔法の精度や威力は落ちる。本命を出した時から、着弾するまでの短い時間。その間がチャンスだぞ」


 ここまで見て、トラージュも特進クラスの生徒たちも、ジョンマンの強さを理解していた。

 そしてそれ以上に、サザンカの敗北を確信せざるを得なかった。


「駄目だ……もう絶対に、魔力が足りない」

「ここからアイツを倒しきることができない……終わった、負けた……」


 先ほどノォミィたちが負けたことと同じ状態に、至りつつあった。

 ノォミィに火力で劣るサザンカが、オーシオ以上の防御力を持つジョンマンを相手に『一発逆転』を狙えるわけがない。

 もう絶対に、勝ち目はなかった。


「まだです!」


 だがそれを、既に息を荒くしているサザンカが否定した。


「私を信じなさい! 私は無駄なあがきをしてはいません!」


 芯をもって、彼女は叫んだ。

 そして、更に攻め手を切り替える。


「結界牢獄!」


 分厚いバリアで構築された、巨大な結界。

 ジョンマンを中心として、彼の陣地を完璧に包み込んでいた。


「入ることはできても、脱出することはできない結界、か……高等魔法だな」

「ええ、その通りです! とはいえ、結界は結界、貴方なら破壊して脱出できるでしょう。ですが!」


 ここでサザンカは、膨大な魔力を込めた『火属性の爆弾』を精製する。


「このエクスプロージョンボムを今すぐに投入すれば、脱出する間もなく爆縮を起こせる!」

「……爆圧結界戦法か」

「その……通りです!」


 爆弾は、密室で使ったときが一番効果を発揮する。

 気密室などの威力が逃げない空間内なら、内部の人間は確実に死ぬだろう。

 如何にジョンマンが完全なエインヘリヤルの鎧を身にまとっていても、耐えきれるとは思えない。


「いけ~~!」


 彼女は決して高速とは言えない速度の爆発魔法を放った。

 それは分厚いバリアの壁を、ゆっくりと透過していき……。


「一方通行のバリアは高度な条件を付けている分、どうしても分厚くなる。じゃあその透過している途中で爆発が起きたら、どうなると思う?」


 ジョンマンは地面を大きくえぐって、土を壁面に張り付けた。

 それは当然ながら、壁を越えきらない爆弾と接触し……そのまま爆発させていた。

 そしてその爆発は、バリアのみを粉砕していた。


「答え、バリアに全負荷が行く、でした。見ての通りだな」

「……な、ならば!」


 負けてなるか、とサザンカは再度バリアを構築しなおす。

 ジョンマンを包囲する、薄いバリアを展開した。


「今度は、自分の魔法同士が干渉しない性質を利用した爆圧結界戦法です! バリアそのものにある程度の攻撃性を持たせているので、先ほどのようにバリアへ誘爆させることはできませんよ!」

「……これはまた」

「もう一度……食らいなさい!」


 再び、高威力の爆弾を放り込むサザンカ。

 今度のジョンマンは、爆弾が内部に入っても誘爆させようとしなかった。

 ただ黙って、目の前の爆弾が爆発するのを眺めているようだった。


「ここでばくは……」

「今だな」


 さあ爆発させよう、とサザンカが叫んだ時であった。

 ジョンマンは自陣を塞ぐ結界に向かって拳を撃った。

 その風圧で、あっさりとバリアが崩壊する。

 まるでシャボン玉のように、バリアが消えたのだ。


「え?」


 なぜそうなったのか、サザンカとジョンマン以外にはわからなかった。

 爆発を閉じ込めて威力を上げるための結界なのに、軽い攻撃でかき消されたのだ。


「自分の魔法同士が接触しないようにする設定を利用した、爆圧結界戦法。これ実は、とんでもなく高度でね」


 だからこそ、ジョンマンはそれを説明し始めた。


「何が難しいって、爆弾を透過させないといけないのに、爆発は閉じ込めないといけないんだよ。普通の設定のままだと、爆弾を透過させたら爆発も透過させちゃうからね。これだと当てることはできても、威力の向上は見込めない」


 そしてその説明は、サザンカこそがよくわかっていた。

 だからこそ、ジョンマンの離れ業に震撼する。

 震撼したあまり、魔法の爆弾の制御を失い、消してしまうほどであった。


「じゃあどうするのかと言うとだ。爆弾を透過させるまでは結界を『自分の魔法を素通しにする』という設定にしておく。そして爆発させるタイミングで『自分の魔法も防ぐ』という設定にする。これで爆縮が成立するわけだな」


 ジョンマンの説明は、筋が通っている。

 とても分かりやすいのだが、頭に入ってこない。


「だがな、この設定を切り替えるタイミングは、結界の強度が著しく落ちるんだよ。まあそりゃそうだよなって話だが……だからそこを叩けばあっさり破れるわけだ」


 ーーー知識と経験は、力になる。

 教師というものは、生徒にそう教えるわけだが……。


「俺の仲間の一人が『こうすれば簡単に破れますよ』って簡単そうに教えてきたんだよ。ふざけんなって話だよなあ」


 目の前の男は、それを体現しすぎていた。



「全然簡単じゃないってぇの、マジで」

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― 新着の感想 ―
「こうやれば簡単ですよ」とヲタク特有の早口で云って、目にもとまらぬ早業でショートカットキーで教えてくれるムーブですねわかります。←
[一言] ぶっちゃけ経験勝ちだよなこれ 人生を強くなることに費やしてるのに年齢が上なんだからねえ
[気になる点] ルールどうなってるのか分らんが殺意高すぎない? 殺し合いしてるわけじゃないんだよね?
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