賽は投げられた、出目にかかわらず勝敗が決しているとしても
さあいよいよ試合開始というところで、サザンカが立ち上がった。
その彼女を、トラージュが睨む。
「サザンカ先生、何をするつもりですか?」
「この試合を中断させます。禁呪を使うものと試合をするなど、生徒に悪影響です」
一方でサザンカは、ジョンマンを強く睨んでいた。
「貴方には貴方の教育方針があるのでしょうが、少なくとも彼女たちに禁呪は早い。そうではありませんか? 私は貴方を軽蔑します」
禁呪とは、多大なデメリット、膨大なリスクの生じる呪文のことである。
装着者の心が折れた時、その肉体を再起不能まで追い込む。
そんな鎧を生徒に、子供に授けるなど正気ではない。
「……それはそう。俺も正直、早いかな、と思ってる」
ジョンマンもどうかと思っているらしく、素直に認めていた。
「貴方の弟子が再起不能になる可能性もありますし、それを見た私の生徒が傷つく可能性もあります! 到底許可できません!」
サザンカの言葉は、正論だった。
彼女の言葉を聞いても、特進クラスの生徒たちは頷くばかりである。
だが……。
「使用する呪文、スキルに制限を設けなかったのは私たち側の落ち度です」
トラージュは、それを許可しなかった。
あくまでも大人として、正論を並べる。
「それにノォミィの攻撃魔法を撃った後でそれを言っても、説得力はないでしょう」
「そうだそうだ~~! トラージュ先生の言う通りだ~~! その言葉には大賛成!」
そしてそれに続く言葉には、リンゾウも大いに頷いていた。
もちろん、マーガリッティも同意見であった。
「アレだけ凄い攻撃魔法を撃っておいて、相手が再起不能になるのを心配するとか……そんなの通らないよ!」
「これには私も同意見です、サザンカ先生。貴方の発言が間違っているとは思いませんが、『あの三人』を送り出しておいてそれはないでしょう」
そしてトラージュやマーガリッティがそろって反対意見を出されれば、サザンカに言えることは何もなかった。
そして、自分の落ち度を認めざるを得ない。
(……あの挑発に乗ってしまった、私の負けだわ)
『マーガリッティちゃんが学校全体で主席なんだろう? だったら、他はそれ以下だ。それとの三対三なら、俺の弟子が負けるわけがない』
あの言葉がなければ、使用する魔法やスキルの危険性について言及し、制限を設けられていたかもしれない。
それなら双方の安全に配慮した試合にできていただろう。
だがサザンカも特進クラスも怒ってしまった。
だからこそ安全性が高いとは言い切れない編成にしてしまったのである。
その結果、文句を言える立場ではなくなってしまった。
「……試合が決したと判断したときは、私が試合を止めます。それは良いですね?」
「もちろん。どうせ誰が見ても明らかな結果にしかならない、貴方の判定がさしはさまる余地はない」
一方でジョンマンは、調子を取り戻していた。
冷静になり、戦況を見守っている。
「数値として、そうなるしかない」
そう、もう賽は投げられた。
出目に関わらず勝敗が決まっているとしても、それは仕方のないことである。
※
エインヘリヤルの鎧。
それは全属性へ完全耐性を誇り、状態異常さえ完全に遮断する、最強の鎧。
それを前にして、ノォミィの顔は強張っていた。
「まさか、禁呪を使ってくるなんて……」
自分も偉そうなことを言える立場ではないが、大人が相手ならまだしも子供が使ってくる技ではない。
少なくとも、彼女はそれを想定していなかった。
「~~!」
「カイゴ……冷静になれって?」
(うんうん)
「そうね……私ならぶち抜けるわ!」
そんなノォミィの肩を叩き、冷静になるよう促すカイゴ。
彼女はボディランゲージを駆使して、ノォミィを落ち着かせていた。
「くくく……デカい口を叩いて、ノーダメージとか……みっともないね。私なら責任とかを感じて、もっとうろたえて泣いて謝っちゃうかもね……むしろそうしないことに、憤りを感じちゃうタイプなんだよね。私は責任感が強いからさ……あ、それをしないノォミィは、責任感がないタイプだって言いきっているわけじゃないよ」
なお、防御魔法陣の中で『準備』を続けているケエソマは、ネチネチと責めている模様。
「……ケエソマ、アンタ大丈夫なの? この戦い、アンタにかかってるんだからね」
それに苛立ったノォミィは、ケエソマが役目を果たせるのか問う。
「ぶっちゃけた話、アンタの魔法とエインヘリヤルの鎧って、相性が最悪でしょう?」
「ぷ、くくく……少し相性が悪いだけなのにそれを大げさに最悪とか、バカ丸出し……極端なことしか言えないなんて、凄いバカ。魔法使いらしく知的に振舞ったら?」
まだ魔法の準備を続けているケエソマは、にやにやと笑いながら自信を臭わせていた。
「……三人目が不気味ですね、何かをしてくるのかと思ったら何もしてこない」
そしてその臭いは、対戦相手であるオーシオにも達していた。
試合が始まったというのに、彼女だけは何もしてこない。
それを不気味に思うのは、当然と言えるだろう。
「攻撃型でも防御型でもないことは明らかですが……一体何を使ってくるのか」
「~~ああ、たまらない!」
なお、リョオマは身もだえしながら喜んでいた。
「他流試合の醍醐味ですよね! こういう、相手の手を探り合う感じは! 俺、こういうことがしたかったのですだぜ!」
「そ、そうですか……では、どうしたほうがいいと思いますか?」
強くなって試合がしたい、という思いを抱えていたリョオマ。
彼女はとても嬉しそうであるが、それは試合中にはやめてほしいところであった。
「突っ込んで攻撃しよう!」
ここで意見を出したのは、コエモであった。
「私達には他にできることがないし、相手に時間を与えるのは駄目だよ!」
「そう、ですね」
その言葉に、オーシオは覚悟を決める。
「私たちの鎧は、完全耐性を誇ります。それこそ事故が起きる可能性はない……三人で突っ込んで、防御魔法を破壊にかかりましょう。ただリョオマ君は攻撃に複数回行動を使わず、回避や防御に温存してくださいね」
「わかりましたわだぜ!」
「来るよ、カイゴ!」
「時間稼ぎ、よろしく~~!」
(うん!)
だあん、と。
すさまじい音と共に、三人の乙女が飛び出した。
鍛えた体を神から授かった鎧で強化して、圧倒的な速度でバリアに肉薄する。
三人は三方向からバリアを包囲し、それぞれの拳を叩きつけていった。
「だああああ!」
「たあああっ!」
「ふん、はあ!」
(~~~~~!)
カイゴの展開していたバリアに、ひびが入り始める。
三方向からの同時攻撃に耐えているだけでも素晴らしいが、それでも限界に近付きつつあった。
しかし、この程度で破れるのなら『防御特化』の魔法使いは名乗れない。
まして、特進クラスに在籍を許されるわけもない。
ここでカイゴは、懐から『人形』を取り出した。
その人形はどちらかと言うと置物であり、関節などはなく、かつとてもデフォルメされたデザインだった。
おそらく『古い部族の魔よけの人形』を想像すれば、そのまま当てはまるような代物であった。
それを床に敷かれた魔法陣の上に設置する。
(増設!)
そしてそれと同時に、三方向から攻められていたバリアの外側に、一層新しいバリアが構築される。
驚くべきことに、その強度は先ほどまでのバリアよりも、圧倒的に上であった。
「その人形も基点の一種ですか……しかし、最初から展開していなかったということは、消費が激しいか、あるいは一定時間しか維持できないからとみました! そしてやはり、タワー流ほどの防御力もないはず! このまま攻め続ければ、破壊できます!」
だがそれでも、オーシオは攻撃を続けると宣言し、二人もそれに従って攻撃を続けていた。
お世辞にもスマートではない、脳筋戦法。
だがその攻撃を続けた結果、バリア内部の人形が震え、壊れ始めていた。
「タワー流のバリアは、基点が無事なら維持されるタイプでしたわね。ですがこのバリアは、攻撃を受けるほど基点にダメージが蓄積されていくタイプと見ましたわだぜ!」
リョオマの考察は正しかった。
新しいバリアが受けるダメージは、基点となっている人形に蓄積されていく。
そして当然、人形が壊れればバリアも解除される。
「このままいけば、バリアを破れる。そうすれば私たちの勝利となるでしょうが……三人目は何をしてくるか……!」
オーシオは攻撃を続けながら、バリア内を注視していた。
三人目は相変わらず呪文を唱えるばかりで、魔法を発現させていない。
彼女が何を準備しているとしても、自分たちがバリアを破る方が早いなら問題ではないが……。
そんな楽観は、彼女にはできなかった。
(つ、強い……もう持たない!)
「ちょっと、ケエソマ! 本当に大丈夫なの?! カイゴはもう限界よ!」
「うるさいなあ……もうばっちりだよ!」
そして案の定……カイゴがバリアを維持できるギリギリまで『待っていた』ケエソマは、満を持して魔法を発動させる。
「出ろ出ろ出ろ……七色の茨!」
バリアの外周から、おびただしい量の茨が生えた。
それこそ地面が爆発したと勘違いするほどに、圧倒的な速度で鎧の乙女たちをからめとろうとする。
「タケット、メット、カーラット!」
それに反応し、回避できたのはリョオマだけであった。
彼女だけは温存していた複数回行動によって、茨の森から難を逃れた。
しかしコエモとオーシオは、その茨に拘束される。
「これは蔓……いえ、イバラ! 相手を拘束する魔法ですか!」
「う、動けない……ってことはないけども、なんか気持ち悪い!」
如何に完全耐性を誇るエインヘリヤルの鎧とはいえ、縄や鎖などで拘束することはできる。
それは茨などでも同じであり、二人の動きはほぼ制限されていた。
「くくく……七色の茨は、本来七種類の状態異常を付与する拘束魔法。どんな状態異常を付与するかは術者の好みで変更できる……本来なら、対策なんて取れない。七種類全部を対策するなんて無理……でもエインヘリヤルは全属性への完全耐性……効かない、本当に効かない」
自分の魔法が成功したところを見て、ケエソマは笑っていた。
「でも茨であることに変わりはない……手枷足枷タイプほどの強度はないが、これだけの本数を生やせばしばらく抑えられる……!」
「オグラオグラオグラ……ウーゲーベリ……オグラオグラオグラ……ウーゲーベリ……オグラオグラオグラ……ウーゲーベリ……!」
「その間に、火力バカのバカ魔法を叩き込む!」
「~~!」
魔法の茨を引きちぎろうともがくコエモ。
しかし茨の数が多いため、その場を離脱することはできない。
そうしている間も、ノォミィの攻撃魔法は目の前でチャージされつつあった。
「コエモちゃん!」
オーシオはコエモより早く拘束をちぎりつつあるが、それでもコエモを助けるには至らない。
声を上げることしかできなかったが……。
「いけええ!」
そして、ノォミィの攻撃魔法……先ほどとは違って、収束して放った高威力の魔法が放たれた。
もはや万事休すかと思われたが……。
「1、2、3!」
唯一難を逃れていたリョオマが、ここでコエモの拘束を外側から引きちぎり、コエモを抱えて有効範囲から逃れる。
まさに間一髪、攻撃魔法は空振りとなっていた。
「リョオマ君!」
「すみません、息を整えていたら遅くなってしまいましたわ、だぜ!」
「うん、いいよ! 助けてくれて、ありがとう!」
消耗の激しい複数回行動を二度行ったせいで、リョオマは息を荒くしていた。
だがそれでも、コエモの救助には成功していた。
「よくやってくれました、リョオマ君! 感謝します!」
そして自力で拘束から逃れたオーシオも、それに合流する。
三人はバリアから距離をとって、自陣に戻っていた。
「な、なんなのよ、あの子……私の攻撃魔法を、発射された後で助けた? それも、拘束をちぎって? なんのスキルよ……!」
(当たると思ったのに……)
「く、くくく……私の拘束魔法から一人逃れていた子ね……あの子だけは、エインヘリヤルの鎧以外にスキルを覚えていると見た……とても、優秀。うん、優秀……ぷふふふ……」
そして無傷で切り抜けられたことに、カイゴとノォミィは驚愕する。
一方でケエソマは、評価しつつも気味悪く笑っていた。
「その優秀な子を倒す私は、もっと優秀……!」
その声を、ジョンマンの弟子である三人の乙女は聞くことができなかった。
境界線や中央線を越えて元の場所に戻り、話し合いを再開する。
「防御魔法で耐えて、拘束魔法で抑え込んで、攻撃魔法を当てる……びっくりするほどシンプルで強力な連携だよ! リョオマ君がいなければ、私はやられていたと思う……!」
「ええ……おそらく試合前の事前詠唱で、自陣の周囲に拘束魔法の準備をしていたのでしょうね。それをさく裂させた……!」
「楽しくなってきましたわね、だぜ……!」
敵の構成、得意とする魔法、その戦法や勝利への道筋は理解していた。
だからこそ彼女たちは、作戦を立て直そうとする。
「リョオマ君は特にそうですが、私たちも疲れています。しかしその分、相手のバリアも相当削れたはず。拘束魔法もそれなりに準備が必要なはずですし、勝ち目はあるかと……」
「ちょっと息を整えてから、もう一回突っ込む感じだね」
「敵の手は知れたのです、攻撃に複数回行動を割くのもアリですわねだぜ……!」
しかし、彼女たちは間違えていた。
ケエソマの事前詠唱が、自陣に拘束魔法のタネを仕込んでおくことに使われていたのなら……。
試合が開始されてから先ほどまでの時間は、何に使っていたのか、と。
「優秀、優秀……私が、優秀!」
そして、その瞬間であった。
ジョンマンの弟子たち三人の『自陣』全体から、鉄色の茨が生えて登る。
「有刺鋼鉄茨網!」
不意を突かれたうえに、回避できる隙間がない。
今度はリョオマごと、三人まとめて鉄の茨で縛られていた。
「ん~~! さ、さっきより硬い! おそらく、状態異常を付与するのではなく、純粋に相手を拘束するための魔法! 私たちがエインヘリヤルの鎧を装備していると知った後だからこその魔法!」
「私達の陣地の全部から茨が生えているよ……いつの間に?! 試合が始まるまでは、境界線を越えちゃいけないルールなのに……!」
「そうか……あのバリアで稼いだ時間は、私たちの陣形に罠を張るために使っていたんだわだぜ!」
「気付いたところでもう遅い~~! 茨の拘束魔法は、一本一本だと拘束力が弱いけど、それぞれの射程が長い。相手の陣地全体にタネを仕込んで、それを一気に発動! 全部相手の拘束に使えば、それはもうガッチガチ……! そして弱点である『外側からの攻撃に弱い』に対しても……三人全員縛れば問題なし!」
「よくやったわ! あとは……オグラオグラオグラ……ウーゲーベリ……オグラオグラオグラ……ウーゲーベリ……オグラオグラオグラ……ウーゲーベリ……」
満を持して、ノォミィが最後の攻撃魔法の詠唱に入った。
今回は収束させて撃っても、三人全員が有効範囲に収まる。
もしも成功すれば、この試合を決することになるだろう。
「なんとか抜けましょう! これも魔法なら、維持に魔力が必要なはず! 暴れれば暴れた分だけ、脆くなっていくはずです!」
「絶対に負けない……負けられないもんね!」
「ええ、後輩が見ていますものねだぜ!」
そんなことは、オーシオたちもわかっている。
だがだからこそ、全力でもがいて拘束から抜けようとする。
(ケエソマ、頑張って!)
「言われなくてもわかってるわよ……!」
負けられないのは、ノォミィたちも同じだった。
ケエソマは己の役割である、強力な戦士を三人同時に抑え込むという難事をなんとかこなしている。
今この瞬間も鉄の茨がちぎられて消えていくが、それでも発射までの時間は稼ぎ切れるはずだった。
「私の役目は……絶対に果たす、私のせいで負けるなんて、冗談じゃない……!」
否、稼ぐ。
大量の魔力を消費する苦しみに耐えながら、ケエソマは拘束を解こうとしない。
むしろ更なる負荷に耐えつつ、魔法に更なる力を籠める。
彼女たち特進クラスの面々は、尖った才能の持ち主たち。
他の教師に見限られていたところを、サザンカに救われた者達。
だがだからこそ、己の得意分野、己の役割に対しては『こだわり』を持っている。
そしてそれは、必ず結果につながるのだ。
「だから勝ちなさいよね……ノォミィ!」
「わかってるわよ……くらえぇええええええ!」
そして、ノォミィの放ちうる、最大火力の最強魔法が放たれた。
それは拘束されたままで防御もろくにできない三人に直撃し……そのまま吹き飛ばしていた。
最強の鎧を着ているはずの三人は、その濁流にのまれる。
試合会場の最後方、外部との隔てる線にある『壁』にぶつかり、為す術もなく倒れていた。
「ぐ……なんて威力……」
かろうじて立ち上がることができたのは、オーシオだけだった。
無傷とは程遠い、大ダメージ。鎧の維持に体力を消費していることもあって、限界ぎりぎりであった。
「二人とも、立てますか?」
「ダメかも……ごめん」
「不覚……だぜ……」
だがそのオーシオ以外の二人は、立つこともできなかった。
絶望こそしていないが、この試合で戦いを続けることはできないだろう。
(コレが火力特化型の魔法使い……あと一発もらったら、私とてもう……!)
だがここで、彼女の脳裏に過去の『敗北者』たちが浮かんだ。
戦う力が残っていたにもかかわらず、心が折れて戦うことを放棄した者達だ。
(私は、ああならない!)
彼女は奮起し、拳を構える。
闘志を燃やした目で、正面を見据えて……。
「ここまでです」
そこで、試合が唐突に終了していた。
試合会場の結界が消え、中にサザンカが入ってくる。
彼女はしっかりとした声で、試合の終了を告げていた。
「な、待ってください! 私はまだ戦えます! 試合を終わらせないでください!」
「貴方が戦えることはわかっています、ですが他の人はそうではない」
「コエモちゃんとリョオマ君は確かに戦えませんが、二人倒れたら負けなんてルールはないはずです!」
試合の続行を望むオーシオ。
その彼女に対して、サザンカは、何度か声をかけようとして、それを止めてを繰り返した。
そして……。
「この試合は、貴方たちの勝ちです」
「は?」
認めたくなさそうに、しかしきっぱりとオーシオたちの勝利を告げていた。
「大丈夫ですか、ケエソマさん」
「せ、せんせい……ぐふぅ……」
そしてここでオーシオは、さっきまで自分達三人を抑え込んでいたケエソマが倒れていることに気付いていた。
もちろん、自分達が無意識に攻撃していたとかではない。三人を拘束していたため、力を使い果たしただけであった。
「……あっちも一人、戦えなくなったんだ。でも、あれ……まだ二人は戦えるよね?」
「なぜ、なん、だぜ?」
コエモもリョオマも、それを見て困惑する。
力尽きているのはケエソマだけで、ノォミィとカイゴは疲れているだけだ。
バリアはまだ維持できたであろうし、今の弱ったオーシオを倒すだけの攻撃魔法も使えたであろう。
「それは……!」
「攻撃防御拘束の、三位一体戦法。それはシンプルに強力な『システム』だ」
答えにくそうにしているサザンカに変わって、ジョンマンが解説を行う。
「だが役割分担をしているからこそ、誰か一人倒れればあっさり崩れる。ケエソマちゃんが倒れた今、ノォミィちゃんたちにはオーシオちゃんに攻撃魔法を当てる手段がない。だからサザンカ先生は負けを認めたのさ」
ここでコエモ、オーシオ、リョオマははっとした。
確かに自分たちは一人二人が欠けても戦えるが、相手はそうもいかないのだ。
「……ジョンマンさんは、この結果が見えていたんですか?」
「ああ、一手足りなかっただろう? ケエソマちゃんがオーシオちゃんをあと一回拘束する、という一手がね」
コエモの質問に、ジョンマンは答えていた。
彼は自分の読み通りになったことへ、なんの感慨も抱いていない。
他の結果に、なりようがなかったからだ。
「エインヘリヤルの鎧を着ている君たちを倒すには、ノォミィちゃんでもかなりのチャージを要する。その間君たちを抑え込むには、三人まとめてじゃないとダメだ。そしてそれをすれば、ケエソマちゃんは全魔力を消費しつくすことになる。そして……」
サザンカの生徒たちもジョンマンの弟子たちも、共に最善を尽くしていた。
だがそれでも、サザンカの生徒たち側にとって最高の展開になっていた。
そしてそれでも、一番頑丈なオーシオを倒すことはできなかった。
つまり最初から、勝ち目はなかったのである。
「ノォミィちゃんの最大火力でも、オーシオちゃんを一撃で倒しきることはできない。だから最初から、君たちが勝つと決まっていた」
「ありがとうございます。ですが……」
オーシオはコエモとリョオマを見た。
仲間であり友人である二人が倒れている姿を見て、喜ぶことはできなかった。
それはもちろん、二人自身も同じである。
「自分達の弱さを、思い知りました」
「私も複数回行動ができたら、リョオマ君に迷惑をかけなくてもよかったもんね……」
「浄玻璃眼があれば、敵の罠を看破することもできました……不覚、だぜ」
「ゆるみは解けたみたいだな、いろいろな意味でいい試合だったよ。あとは……」
いい試合だった。
ジョンマンの視点からすれば、そうだった。
おそらくサザンカの視点からしても、試合という意味でならいいものだった。
だが……。
ぱあん、という音がした。
人が人へ、平手打ちをした音だった。
「かあ……理事長先生……」
「貴方には、失望しました」
トラージュが、自分の娘であるノォミィの頬を叩いていたのだ。
「他の二人は最善を尽くしました。他の二人は役目を果たしました。貴方だけですよ、役目を果たせなかったのは」
「か、かあさ……」
「貴方が相手を倒しきれなかった、だからこその敗北です。まったく……火力だけが取り柄の貴方が、火力不足で足を引っ張るなんて……」
毒が滲んで、溢れていた。
「本当に、がっかりだわ」




