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魔法ビルド

 健康系最強スキル、竜宮の秘法。

 その習得は、やはり最高難易度を誇る。

 基本的には規則正しく、かつ厳しい物であった。


 食事管理によって、適度に粗食や断食を行う。

 体温管理によって、低温下や高温下の環境に身を置く。

 運動管理によって、まったく動かない時間、あるいは動き続ける時間を作る。

 呼吸管理によって、長時間のシュノーケリングや酸素の薄い空間での運動を行う。


 変な話だが、セルフコントロール能力を養成されていた。

 自制心を培うだとか禁欲的な生活に慣れるとか、そんな若者ほどつらい修行であった。


 そうした修行に耐えられるようになっていたのは、単に努力家だったというだけではない。

 皮肉にも彼女たちが運動不足で、なおかつ魔法使いだったからだろう。

 元から膨大な魔力を宿し、なおかつそれを鍛えていた彼女たちは……。


 その『過酷な生活』によって、最大MP、魔力生成量が増大していくことを理解していたからだ。

 それこそ、あえて抑えなければあふれ出してしまうほどに。

 もちろん、体力についても同じである。


 半年も経過するころには、彼女たちの肉体は元とは比べ物にならないほど『強靭』になっていた。

 一時的な性能、試合の中だけのパフォーマンスを求められるアスリートとは対極。

 長期間の過酷な環境に耐えられる、生物として強い体に生まれ変わっていた。


「はいはい、ペース保って! 心拍数、呼吸を意識して、それが上下しないようにね~~!」

「はい、ジョンマンさん!」

「僕、頑張ってますよ~~!」

「いやだから、頑張りすぎているから! ちょっとペース早くなってるから!!」


 トレーニングを始めた当初、彼女たちはしばらく走っただけで息切れを起こし、疲れ果てていた。

 だが半年間の『管理された生活』を行った結果、既に持久走を行えるようになっている。


 もちろん、筋肉の鍛錬はそこまでではない。

 そのため、ものすごい速さで長時間走れるとかではないのだが……。

 一定の速度を保ったまま、長時間走れるようにはなっていた。


「ペースが速くなっている、ということですが……リンゾウさん、貴方無理をしているのでは?」

「そんなことないよ! 僕はマーガリッティに合わせているからね!」

「それが無理をしているのでは?」

「それは僕よりマーガリッティの方が実力をつけたってことかな?」

「そう思ってもらってもかまいません」

「おお~~負けないぞ~~!」


「だから、ペースを、守れ!」


 和気あいあいとしながら並走するリンゾウとマーガリッティ。

 二人とも向上心旺盛で、かつ似たような体力である。

 今も実力は拮抗しており……だからこそ、良きライバルになっていた。


「二人とも、楽しそうだね~~……まあ最初と比べたら、凄い体力ついたもんね~~……」

「もしかしたら、持久力に関しては私達より上かもしれませんね。これはうかうかできません」

「俺達も先輩として、二人に負けないよう頑張らないといけませんねだぜ!」


 そんな二人を見守る先輩三人は、やはりウェイトトレーニングをしている。

 ダンジョンで採掘される(この国基準で)貴重な、とても重い金属。それを用いたウェイトは、それこそとんでもなく大きい。

 彼女たちが人外の力を得ていることは、見るからに明らかであった。


「……なんか、全員気が緩んでいて、集中力に欠けるなぁ。モチベーションが高いのはいいんだが……」


 そんな全体を見て、ジョンマンは少し悩んでいる。

 もちろん最悪な状況ではないし、これ以上のコンディションを期待するのは贅沢な話だが……。

 ジョンマンも指導者が板についてきたため、彼女たちに新しい刺激を与えようと思い始めていた。


「みんな、一回集合!」


「え、まだやれますけど……」


「いいから、集合!」


 一度、五人の乙女を一か所にまとめた。

 かなりハードなトレーニングを課していたのだが、全員かなり余裕そうである。

 これはいいことなのか、悪いことなのか。

 ジョンマンは少し考えた後、威厳をもって忠告する。


「自分で言うのもどうかと思うけども、君たちに課しているトレーニングはかなり危険域を攻めているんだ。それ以上に負荷をかけたら、大怪我につながると思って欲しい。正直、緊張感が欠けている」


 緊張感が無い、という言葉には五人も反論できない。

 少なくとも、私語は増えていた。


「……まあ、正直慣れてしまったってのがあるんだろう。ここで一つ、新しいステップに進もう」


 ここでジョンマンは、先輩組を見た。


「リョオマ君……申し上げにくいんだが、君は他の二人へ神域時間の修行をつけてやってくれ」

「え……よ、よいのですかだぜ!?」

「君のお父さんからの申し出を断った身で申し訳ないんだが、基本的なところは君から教えてくれ。応用的なところは、俺が指導するから」

「それもそうですが……私たちはまだ、第一スキルをきちんと終えていませんよ?」

「そろそろ伸び悩む時期にはいるころだ、ちょうどいいだろう」


 ここでジョンマンは、とても常識的なことを言い出した。


「成長曲線ってもんがあってね……そろそろ努力に成果が見合わなくなるころだ」

「見合わなくなる?」

「……極めるのは大変って話さ」


 ーー短距離走。

 極めてシンプルにわかりやすい、足の速さを競う競技。

 これのトップアスリートは、ほんのごくわずかな『誤差』を競うことになる。


 はっきり言えば、競技(・・)以外ではまったく意味がない。


「100点満点のテストでたとえれば、0点しか取れない奴が20点をとれるようになるのは大変だ。だが20点をとれるようになれば、50点、70点をとれるようになる」

(……テストってなんだろう)

 

 ジョンマンはわかりやすく話しているつもりだが、学校に通ったことがないコエモにはまったくわからなかった。


「だが90点から92点、94点と上げていくのはとても大変だ。それこそ、とんでもない努力が必要になる」

「!!」


 だがしかし、マーガリッティにはとても響いた様子である。


「コエモちゃんたちはこの一年半で、何十倍もの筋力を得た。このまま筋トレを続けたら、三年後には百倍、四年後には百数十倍になる……なんてことはないんだよ。どっかで成果が伸び悩む……限界近くまで鍛えた証明ってことだね」

「限界に、近づく……」

「専門家とか競技者は、そのわずかな差のために膨大な労力を割く。それはそれで尊敬できるが、やっぱりそれは競技のための努力だ、実益を期待するような話じゃない」


 ジョンマンはすこしバツが悪そうに、リョオマを見ていた。


「実際、その、なんだ……君のお父さんも、俺に勝てなかっただろう」

「そう引け目に思わないでくださいなだぜ」

「そ、そうか……」


 変な言い回しになるが、アラーミ・ティームがジョンマンに勝てなかったのは、努力を怠っていたからではない。

 神域時間を極めることに労力を注ぎ込んだ結果、神域時間の練度を100点満点にしようとした結果である。


「成長曲線……限界に近づくほど、誤差程度の成果……」


 響くところでもあったのだろう、マーガリッティはその言葉を何度も口にしていた。

 ジョンマンはもちろん気付いていたが、すぐに切り替える。


「まあそういうことで、筋トレと並行して第二スキルの習得を目指してもらう。後輩の二人は、まだしばらくは伸びるから、今の修行を続ける感じで……?」


 ここまで言ったところで、ジョンマンは急に振り返った。

 そしてその視線の先には、二人の男性が立っていた。


「この街にいるとは聞いていたが……そうか、戦士の元で修行を受けていたのか」

「無事で何よりと、喜ぶべきだろう。だが教員としては、やはり歓迎しかねるな」


 異なる雰囲気を持った、二人の魔法使い。


 その姿を見て、マーガリッティは察したようだった。


「あの二人は……私の母校の教師です」

「ええ?!」

「一人は『フレーム流戦闘魔法使い』であるジゴマ先生……もう一人は『タワー流戦術魔法使い』であるコウソウ先生です」


 マーガリッティは、明らかに困惑した顔をしている。


「なぜこんな遠い国まで、お二人が来たんですか?」

「え、心配だから、とかじゃないの?」


 その困惑に、リンゾウが素で突っ込みを言う。

 お前が言うな案件であるが、ごもっともだった。


「お二人は、私の担任でも何でもない、別クラスの教師です。有名な魔法使いなので私も知っていますし、会ったこともありますが……挨拶をするぐらいの関係で……」

「……それは確かに、ここに来るのは変だね」


 親しい教師が、元生徒に会いに来た、と言うのはわかる。

 全然親しくない先生が、学校を辞めた自分の前にきたら、そりゃあホラーであろう。


「端的に言えば、未練と言うことだ」


 動きやすい服装の魔法使い、『フレーム流戦闘魔法使い』であるジゴマがまず切り出していた。


「マーガリッティ、君にはとんでもない才能が有った。どの道を選んでも大成する、素晴らしい魔法の才能がね」

「……」

「だからこそ、どの教員も、自分の教室に来てほしがっていた。だが君が特進クラスに進んだ以上、止めることはできなかった。『奴』の教育方針に思うところはあったが、それを口にするだけの実力はあったし、何より……腹立たしい話だが、君を育てるには『奴』が一番向いていたからね」


 君は天才だ、という言葉。

 その称賛に対して、マーガリッティはむしろ嫌悪感を見せていた。


「だが君は、『奴』の元を去った……それはつまり、『奴』の指導方針に、君が賛同しかねたということだろう?」

「それは、そうですね」

「それならばまず……学園の中で、別の道を探してほしかったね」


 とはいえ、発言自体はもっともである。

 ジョンマンもコエモやオーシオも、ジゴマの言葉が正しいと思っていた。


「それはつまり……今更勧誘、ということですか?」

「そういうことだよ。学園に戻って、私の元にきてほしい。君の才能を、フレーム流戦闘魔法で活かしてほしいのだよ」

「それは……コウソウ先生も同じですか」

「まあ……そうだな」


 とても動きにくそうな服を着ている魔法使い、タワー流戦術魔法使いのコウソウ。

 メガネをかけている彼は、赤裸々に事情を語っていた。


「だがそこまでおかしなことかね? 君のように優秀な生徒が、別の場所に向かう……引き留めようというのは、当然だろう」

「私はそれを、望んでいません。私はこのジョンマンさんの元で……学園で学べなかったことを学び、学園にいた時以上の成長と充実を得ています!」


 教員からの引き留め、というのはある意味名誉であろう。

 だがそれに乗るぐらいなら、そもそも学園を辞めたりしないはずだった。


「私はここに来たからこそ、成長できているのです!」

「それは勘違いだよ」


 そして、コウソウは残酷に切って捨てていた。


「君にはあふれんばかりの才能が有った。はっきり言って、どの道で、どのように修行をしても大成する。それを環境を変えたおかげだ、と思い込んでいるだけだ」

「そんなことは……」

「ない、と言い切れるのかね?」


 周囲から天才だと思われている。

 そして実際その通りだ。

 だがその才能しか見られていない。

 それを彼女は、受け止めきれなかった。


「そこまでだよ!」


 傷ついているマーガリッティをかばうように、リンゾウが立ち塞がっていた。


「貴方達、本当に学校の先生なの?! 生徒が傷ついているのに、平気で酷いことを言うなんて!! そんなの、絶対に間違ってる!!」


 ある意味、うわべだけを見た言葉なのかもしれない。

 だがその言葉は、マーガリッティ本人を見た言葉だった。


「生徒を褒めるだけで、教員は務まらないよ。間違った道に進むのなら、それを正すのも務めだ」

「ここにいてほしくない、できれば手元に置きたい……なにか、間違っているかね?」


「絶対に、間違ってる! 私は、絶対にそう言い切れる!」


 リンゾウは、本心から怒っていた。

 マーガリッティに共感し、彼女と自分を重ねて、彼女の為に怒っていた。


「帰って! マーガリッティは、ここで私達と一生懸命修行して……凄い魔法使いになるんだから!」


「そういう断定は、俺には言えないことだな……だが、いいことを言う」


 そしてリンゾウを守るように、ジョンマンが前に出た。


「お二人にも大人の事情があるし、全部が全部自分のためってわけでもないだろう。だがマーガリッティも、自分で進路を決めていい年齢だ。そこは尊重してほしいし……なにより、その雰囲気が気に入らない」


 ジョンマンも、マーガリッティの才能は認めていた。

 どこにいても大成する、それも認めている。

 竜宮の秘法を習得するという、退屈なうえで辛い修行にも耐えていることがその証明だ。


「アンタら、場合によっては倒してでも連れて帰る気だな?」


「親御さんからの許可はいただいているよ」

「状況的に、詐欺やら誘拐やらを疑っても仕方ないだろう。それなら力づくもやむを得ないのでは?」


「違いない……それができるだけの実力が、二人にあることもわかる」


 ジョンマンの顔は、やはり苛立っていた。


「が……ここは、大人同士で解決といこう」


 苛立ちのままに、交渉を始めた。


「フレーム流戦闘魔法もタワー流戦術魔法も、どちらも複数の国にまたがる名門だ。まさか戦えない、なんてことはないだろう」

「貴様が我らと戦うと?」

「ずいぶんな自信だな……」

「そっちの有利なルール(・・・)でいい。それに二人の流儀を見せれば、それはそれでアピールになるんじゃないか?」


 そちらに有利なルールでいい、という言葉を聞いて、二人は露骨に攻撃的になっていた。

 それこそ、プライドを刺激された、と言う顔である。


「やる前に、確認がある。私が勝てば、貴殿は彼女を解放するのかな?」


 ずい、とジゴマが前に出た。


「それは彼女が決めることだが……彼女の性格上、実力や結果には従うだろう。少なくとも、ここで俺が無様に負ければ、失望するだろうな」

「違いない……」


 そしてそれを、コウソウは歯噛みしながら見ていた。

 それはただ出遅れた、という後悔ではない。

 このままジゴマが勝つ、という嫌な確信があってこそである。


「じょ、ジョンマン様! ジゴマ先生は、フレーム流戦闘魔法の実力者です! 有利なルールなら、私の『先生』ですら絶対に勝てません! 貴方でも無茶です!」

「君の今の先生は、俺のはずだ。俺を信じてほしいもんだな」


 ここでジョンマンは、手ぶりをする。


「全員下がりな。生徒を巻き込みかねないから負けた……なんて言い訳をされたくないんでね」


「下がりましょう、皆さん。叔父上を信じるのも、私たちの務めです!」


 オーシオが主導する形で、ジョンマンの生徒5人は下がった。

 コウソウもまた、空気を読んで大きく下がる。


 一触即発の空気の中で、ジョンマンとジゴマが向き合っていた。


「ジョンマンさ~~~ん!! マーガリッティのためにも、絶対勝ってね~~!」

「おう、任せておけ!」


 両手を大きく使って、リンゾウが応援をしている。

 それに応えるジョンマンだが、視線はまったく動かしていない。

 目の前に立つジゴマに、全神経を集中している様子だった。


「……見たところ、熟練の戦士のようだな。だからこそ、フレーム流戦闘魔法との交戦経験もあるのだろう。だからこそ、自信がある……ということかな?」

「ああ」

「それは結構……素人を叩きのめして、弱い者いじめをして……それが評価につながることはないからな」


 そしてジゴマは……自分の有利なルール、自分の土俵で戦うことに、絶対的な自信を持っている。

 それを隠す様子も、まるでない。


「ところで、これは『生徒』のための確認なのだが……」


 まるで、西部劇。

 まるで、早打ち勝負。

 その直前のようなやり取りだった。


「もう、仕掛けてもいいかね?」


 ジゴマは片足を上げて、つま先を地面に何度も当てた。

 靴の具合を確かめる、そんな所作であった。


「もちろんだ」

「けっこう!」


 直後であった。

 ジゴマの足から、魔法の弾丸が発射される。

 それはまったく前置きがないかのような、唐突な『無詠唱魔法』に見えた。


「舞踏魔法、バレットステップだな……自然な動きからの攻撃だが、威力はお察しだ」


 ジョンマンはそれをあっさりと弾く。

 足運びや足踏みなど、足の動きを呪文の詠唱とする舞踏魔法。

 その初歩、数少ない動きから放たれる早打ちを、ジョンマンはあっさりと迎撃する。


「ほう」


 それを見て感嘆する声を出しつつ、ジゴマは指を動かした。

 それに合わせて、彼の指からいくつかの小さい弾丸が発射される。


「短音魔法、ガラスショット……か。威力が低いので急所狙い、少し動けば対処できる」


 ごく短い言葉や動きだけで発動する、短音魔法。

 それによって生じた小型で高速の弾丸は、精密にジョンマンの顔に向かっていく。

 それをジョンマンは、前傾になって回避する。


「さて……!」


 ジョンマンは前傾になって、そのまま直進する。

 ジゴマを叩きのめすべく、間合いを詰めていった。


「~~!」


 ここでジゴマは、まったく何もせず、しかし魔法を放った。

 声を出さず、指も動かさず、足も、舌も動かさなかった。

 だが衝撃波が発生し、動く壁のようにジョンマンへ向かう。


「真性無詠唱魔法、ソニックブーム。牽制のつもりなら、間違いだ」


 ジョンマンは片手を振り下ろし、手刀で衝撃波をたたき割る。

 まったく足を緩めず、そのまま近づいていく。


「なんの!」


 いよいよ近づいてきたジョンマンに対して、ジゴマは取り出したナイフで切りかかる。

 だがナイフを持っている腕を、ジョンマンは片手で抑える。


「魔法付与武器、ヒートナイフ……肝心の体術が、しょぼくさいな!」


 そしてそれによって、ジョンマンは完全に間合いに捕らえていた。

 ジゴマを抑えていない方の手で拳を作り、腹部に一発お見舞いしようとする。


(かかったな!)


 それを見ているジゴマは、勝利を確信した笑みを浮かべている。


(私の体には、一定以下の威力の打撃を増幅して反射する、反応性魔法リフレクトアーマーを仕込んである! 貴様が強く殴れば、その分反動を受けるという仕組みよ!)


 自分の攻撃をすべてかいくぐられて、無傷で接近した。

 それ自体は、ジゴマも評価している。

 しかし被弾しながらでも間合いを詰めてくるだけなら、そこいらの戦士でもできることだ。


(きさまら戦士は、魔法使いなんて近づいて殴ればいい、と思っているだろう。実際そうだからな! だがだからこそ、それに対する備えをするのが一人前の魔法使い! まして私にその備えが無いわけがない! 油断したな、田舎の戦士!)


 不意の反動で吹き飛べば、ナイフを持つ腕を抑え続けることはできない。

 フリーになったヒートナイフを、ジョンマンの喉元に突き付ける。

 それでチェックメイト、という流れがジゴマの脳内を巡っていた。


(さあ、打ってこい! 私の腹に、渾身の一撃をな!)


 ジョンマンは、振りかぶった拳を思いっきり打ち込もうとした。

 だがその手は、ジゴマの腹の、その手前で急に止まる。

 それこそ女子供が戯れるような威力の弱パンチで、ぼふんと叩いた。


 ジョンマンの拳に、その弱パンチの倍の威力が襲い掛かる。

 だがそれは、当然ながら大したものではない。


「やはり反応性魔法を仕込んでいたな。だが、反応性魔法は一撃にしか対応していない」


 ジョンマンはそこから間髪入れず、短く振りかぶった打撃を再度腹部に叩き込む。

 ジゴマの体はくの字に折れ曲がり、浮かび上がり、そのまま地面に崩れる。

 彼は勝利を確信したまま、一瞬で気絶していた。


「弱く当てて処理してから、もう一回殴ればいい。簡単な話だ」


 そしてジョンマンは、当然のように何事もなく立っていた。

 実際、何事も起きてはいなかった。

 彼はその知識と経験で、あっさりと対処していた。


「そんな……凄い……!」


 そしてその姿を見て、マーガリッティは感嘆していた。


「フレーム流戦闘魔法は、無詠唱魔法で構築された魔法ビルド。それ故に接近戦、短期戦では無類の強さを誇り、戦士殺し、魔法使い殺しの恐るべきビルドなのに……! その土俵で勝つなんて!」


「実際、強くはあった。舞踏魔法、短音魔法、真性無詠唱魔法、魔法付与武器、反応性魔法。どれを使ってくるのかと思ったら、全部使ってきたんだからな……」


 ジョンマンも、同じように賞賛する。

 わずかな動き、あるいはまったく動かずに発動できるという共通点をもつ魔法群だが、それらはまったく別系統である。


 それをすべて習得し、使いこなし、戦術に組み込んでいる。

 人間としての人格はともかく、魔法使いとしては一流、先生としても一流であった。


「だが、『フレーム流戦闘魔法使いです』と名乗っている時点で、『これから奇襲します』と予告しているようなもんだ。対応できて当然だ」


 本来フレーム流戦闘魔法は、護身術、あるいは暗殺術である。

 日常の中でいきなり狙われる、あるいはその逆。

 そうしたときに、最大の効果を発揮する技である。

 であれば、名乗っている時点で大いに不利だった。

 それを理解しているジョンマンからすれば、自分が一切詠唱を行わずに戦うことなど、ハンデにもなっていない。


「ぷ、ふふふ、はははは!」


 そしてその光景を見て、コウソウは笑っていた。

 それこそ、心底愉快そうな笑いであった。


「いやははは……こうも見事に、教科書通りに勝つとはね。貴殿はとても強い……それに比べてジゴマときたら、同僚ながら恥ずかしいよ」

「……あんまり大口叩かないほうがいいぜ。同じように対応されて負けたら、自分の発言を後悔することになる」

「違いない……だがそれはそれとして、そこのソレが無様であることは事実だろう」


 コウソウは、腹の中に貯めていた言葉を吐いていた。


「彼は自分の流儀に自信を持っていてね……その流儀に則った(・・・)戦いこそ実戦だと言ってはばからなかった。だがその実戦で、為す術もなく負けている。戦士殺し、魔法使い殺しと言っても、こんなものだ」


 実戦の定義は、それこそ流派や仕事によって大きく異なる。

 そしてフレーム流戦闘魔法とタワー流戦術魔法は、それこそ真逆と言っていい。


「その点、タワー流は違う。お互いが手の内を知ったうえで、万全の準備を整えあったうえで、なお勝利する。それがタワー流の実戦であり……だからこそ、貴殿は勝てない」


 どう見ても戦いから遠い体形のコウソウは、両手を広げて、余裕を見せた。


「ジョンマンとか言ったか……まさか、今、私に襲い掛かるかね? できるわけがないだろうが、ね」


 今殴り掛かられたら、為す術もなく負ける。

 コウソウの振る舞いからして、素人であるコエモやオーシオ、リョオマにもそれが分かった。

 そしてジョンマンがそれをしないことも、わかっていることだった。


「君は鮮やかに勝ちすぎた……自分で自分のハードルを上げ過ぎた。だからこそ、私に対しても同じように、鮮やかに勝たなければならない! できるわけがないがね……!」

「詠唱時間、布陣を待つだけじゃない……御託を聞く時間も待たないといけないのか?」

「ははは! それもそうだ……!」


 ここでコウソウは、魔法使いらしく詠唱を始めた。


「アーマードッイ・トッユトッヨ・ヒ~ハ~シ~……!」


 その詠唱と同時に、彼の周囲、三か所に魔法陣が浮かび上がる。

 そしてそこから、ゆっくりと巨大な岩が出現し始めた。


 それこそ、とてもゆっくりとしている。

 完全に無防備であり、出現が完了するまでなにもできないことは明らかだが……。

 ジョンマンは、ただ見ているだけだった。


「これは、結界の基点だ。別に珍しくもない、防衛用魔法の小道具だよ」


 コウソウが指を鳴らすと、その巨大な岩が輝き、コウソウの周囲にバリアが構築される。

 それは見るからに堅牢そうであり、破壊困難に思えた。


「なんてことはないさ。この基点を破壊されない限り、このバリアは維持される。そして基点はバリアの外に置かれているため、今なら簡単に壊せる。だが……アーマードッイ・トッユトッヨ・ヒ~ハ~シ~……!」


 再度の、召喚魔法。

 それに応じて、バリアの内側、コウソウのすぐ隣に巨大な扉が召喚される。

 その扉が開くと、幽霊のような兵士たちが現れた。

 そのままバリアを素通りすると、バリアの外側にある結界の周りで待機した。


「防衛式神魔法、キャッスルゲート……兵士の姿をした防御魔法と思ってくれ。コレを基点の周囲に配置する、それだけさ」


 ここまでくれば、素人でもタワー流戦術魔法の流れが分かる。

 この調子でガチガチに自分の守りを固めてから、同じように攻撃魔法を『配置』していくのだ。


「アーマードッイ・トッユトッヨ・ヒ~ハ~シ~……!」


 その配置に絶対的な自信を持っているのか、コウソウの笑みはどんどん深くなる。


「次いで召喚するのは、攻撃魔法カノンポールと、同じく攻撃魔法ウルフホールだ。カノンポールはいわゆる固定砲台でね、敵に向かって単純で強力な攻撃魔法を発射する。ウルフホールは狼型の追尾魔法を発射する砲台でね、相手を抑え込むことに特化している」


 観戦している乙女たちが、言葉を失うほどの金城鉄壁ぶりだった。

 自分を守るバリアを構築し、そのバリアの基点を別の魔法で保護、さらにそのバリアの内側に攻撃魔法の基点を配置。

 なんとも嫌らしい、一歩も動かぬ布陣であった。


「さて……魔法の授業だ。無詠唱魔法の弱点を、三つ述べたまえよ」

「狙いが荒い、燃費が悪い、単純な動きしかしない、だな」

「詳しいねえ……その通りだ。まあ無詠唱魔法と一言で言っても、区分があるのは君がさっき言った通りだが……それは私の出題が悪い。気にしないでくれ」


 絶対的な布陣を終えたからこそ、コウソウは得意満面で語る。


「無詠唱魔法はね、燃費、効率が悪い。他の魔法と同じ威力を出そうとしたら、何倍も魔力消費してしまう。それを防ぐために『フレーム流戦闘魔法』では、あえて小さい威力の魔法だけにすることで枯渇を防いでいるわけだな」


 ある意味当然だが、先生らしい解説であった。

 それ自体は、とても正しい。


「それとは逆に……こうした基点を用いた魔法は、燃費が非常に良い。他の魔法使いならば、ここまで多くの魔法を同時に維持し続ければ、一瞬で疲れ切るだろう。だが私は、複数の強力な魔法を同時に、戦闘が終わるまで維持できるわけだな」

「……戦闘直前に準備時間があるのなら、もっとも有用な魔法ビルドと言っていいだろうな」

「そのとおり! ま、その意味でフレーム流とは完全に土俵が違い、よーいドンで戦えば絶対に勝てないのだが」


 自慢するだけの実力はある、とジョンマンも認めていた。

 一言で基点を用いる魔法といっても、いくら燃費がいいといっても、複数に同時に別の種類の魔法を使えるのは凄いことだ。


「だが、一旦布陣してしまえば無敵だよ。手の内を知られていたとしても、まったく問題にならない」

「へえ?」

「君もスキルなり魔法なり、好きに使いたまえ。ま、無駄だが」


 ここで、ジョンマンは機嫌が悪くなった。

 不快感、意地をあらわにする。


「いや、俺はこのままで十分だ。かかってこいよ、センセー」

「……後悔しないことだな!」


 コウソウの脇にある、小型のトンネル。その中から、何頭もの半透明な狼が飛び出してくる。

 ジョンマンはそれを軽々と破壊していくが、小型のトンネルからは尽きることなく出撃してくる。


 もちろんそれだけならジョンマンにとって問題ではないが、さらに固定砲台からも強力な砲弾が飛んでくる。

 これをジョンマンは、飛びのいて回避した。


「……!」

「ははは! よく避ける! さすが、ジゴマを倒しただけのことはあるな! だが、最初から、あっさり勝てるとは思っていないよ……タワー流らしく、じわじわ削らせてもらう!」


 狼型の追尾弾と、強力な砲弾。

 それが安全圏から間断なく飛んでくる。

 しかもその安全圏は、二重の防御魔法によって維持されている。


「……ジョンマンさんがコウソウ先生に勝つには、あの砲弾と狼を潜り抜けながらバリアの基点に近づき、兵隊からの妨害に耐えながら破壊しなければならないのです」

「そんなの無理じゃん! ジョンマンさん、スキル、スキル使って!」


 マーガリッティとリンゾウは、このままでは勝てないと思っていた。

 逆に言うと、ジョンマンが持つ五つのスキルを発動させればあっさり勝てると思っていた。

 だからこそ、意地を張るなと叫んでいた。


「大丈夫だ、俺を信じろ」


 ジョンマンはあくまでもスキルを使わずに勝つつもりだった。

 そして向かってくる狼たちを前に、冷静に構えていた。


「基点を用意するタイプの魔法は、たしかに高威力で低燃費だ。だが相応に弱点もある」


 そうして、背を向けて走り始めた。

 とても無様に見えるが、やがてその逃走が有効であることを、乙女たちは理解していく。


「……あれ、狼が増えない? 十体ぐらい出たところで、打ち止め?」

「ウルフホールは、基点を用いた追尾魔法……一度に出せる追尾弾の数は十個が限界、と言うことでしょう」


 ジョンマンが狼を破壊するのを止めた結果、無限に湧くかと思われた狼は、たった十体だけになった。

 しかもジョンマンの後ろを追うばかりで、回り込むと言った知的な行動はしていない。

 ただ追いかけるだけ、というプログラム的な馬脚を現していた。


「砲弾も、当たりませんね。偏差射撃……移動先を狙うという機能はない様子です」

「一定の速度で、大回りで避けているだけなのに……ただ走っているだけで、当たらなくなっているのですねだぜ」


 加えて固定砲台からの砲撃も、大回りに走るジョンマンの後ろに着弾するばかりだった。

 現在地に向かって精密に撃っているだけで、動く的には当てられない様子である。


「ほう、冷静だな。タワー流との戦いも、初めてではないようだ」


 そんな、ある意味間抜けな状態になっているにもかかわらず、コウソウは余裕を崩さなかった。


「だが、何時まで走れる? そしてどうやって攻略する? 結界の基点を破壊しなければならないわけだが、その時も同じように避けられるのか?」


 持久戦で勝つ、という意気込みに偽りはない。

 ジョンマンの対処も想定内であり、彼の体力が尽きるまでのんびり待つ構えですらあった。


「そんな調子で逃げ回って……マーガリッティから失望されるのは、どっちだろうねえ?」


 そうした余裕ぶりを見て、五人の乙女は苛立っていた。

 強いことは認めるし、正しい戦術であることも認める。

 だがそれはそれとして、まったく尊敬できない人間であった。


 そして、リンゾウがあることに気付いた。


「あれ……なんで砲台の攻撃が、本人や他の基点に当たってないの?」


 もう一度言うが、固定砲台はバリアの内部、コウソウのすぐ隣に置いてある。

 普通に考えればバリア内部で砲弾が爆発するか、そうでなければコウソウに直撃しそうなもんである。


普通の魔法(・・・・・)って、術者にも当たるもんなんじゃ?」

「それはそうですが、もちろん工夫があるんです」


 その疑問に対して、マーガリッティが説明を始めた。


「実体のない魔法同士……つまり基点ではなくバリアそのものや、固定砲台ではなく砲弾、追尾弾の狼などは、素通りできるようになっているのです」


 バリアの内側から魔法の弾を発射しても、そのバリアが同じ術者なら素通りできるように設定できる。

 互いに当たり判定が無い、という設定が可能なのだ。


「ですから、さっきからジョンマンさんの後ろを走る狼に砲弾が当たっているようでも、まったく数が減っていないでしょう?」

「そ、そうだね……じゃあ、術者に当たるかどうかは?」

「それは、射線上に術者や他の基点がいる場合、発射しないように設定されているのでしょう。ほら……」


 ジョンマンがコウソウの周囲を大回りしている関係上、固定砲台もぐるぐると砲塔を回転させている。

 当然ながらコウソウの方や他の基点を向くこともあるのだが、その時は砲弾が撃たれずにいる。

 つまりはセーフティ、ということであった。


「偏差射撃を行わないのは難しいからとかではなく、万が一にも自分に当たらないようにしているからでしょう……」

「なるほど……」


 つまり砲台には死角がある、ということだ。

 だが狼型の追尾弾によって、それは問題にならない。

 むしろ動く相手を抑えるために、狼型の追尾弾はあるのだろう。

 まったくもって、無駄のない構成であった。


(そのとおり。一部のアホはそれを怠って自滅するケースもあるが、さすがは学校の先生、まともな安全対策だな)


 だがそんなことは、ジョンマンもわかっている。


(そして、俺が疲れるのを本気で待っているわけがない……そろそろ、次の手を打つはずだ)


 ジョンマンの予想を裏切ることなく、次の一手が打たれた。


「そして……タワー流の強みは、配置が終われば術者がフリーになるということだ。もちろん魔力を供給する必要はあるが、フリーハンド状態であることに変わりはない」


 一層の絶望を与えるべく、新しい呪文を唱える。


「スリピグレツト・セブゴート・チュニック!」


 今までとは違う呪文であったが、やはり召喚呪文。

 バリアの外側に、巨大な魔法陣が構築される。

 そしてその中から、巨大な人型ゴーレムが出現した。


「私の最強魔法、マリオネットガーディアン! 全自動で動く他の基点魔法と違い、私自らが遠隔操作できる、強力なゴーレムだ。もちろん他の魔法と同時に並行して活用できる……意味が、分かるかね?」


 自動だからこそ、同時に複数起動できる。

 手動だからこそ、その場に合わせて臨機応変な対応ができる。

 それを同時に使えるからこそ、穴をふさぐことができるのだ。


「なんてことはない……挟み込みだよ、君!」


 コウソウの操作によって、マリオネットガーディアンは走り出す。

 まるで人間のような、ぎこちなさのない滑らかな動き。

 それは彼自身の力量を示し、性能を想像させるものだ。

 そうして、走って逃げているジョンマンの前に立ちふさがり……。


「やっぱりな、そう来ると思っていた」


 ジョンマンに向かって、拳を振り下ろそうとした。


「狙い通りの……フリーパスだ」


 持久走、のんびりと走っていたジョンマンは、ここで急激に加速した。

 それこそ、眼にもとまらぬ速さでマリオネットガーディアンに取りつき、その体の一部をひっかいた。


 彼がやったことは、それだけである。

 にもかかわらず、狼の動きは止まり、砲弾の発射も止まっていた。


 何が起きているのか、五人の乙女にはまるでわからない。

 だが他でもないコウソウには、すぐにわかっていた。


「な……なぜだ、なぜアンテナ(・・・・)の場所が分かった!?」


 このマリオネットガーディアンが遠隔手動操作である以上、命令操作を受信する部位……アンテナに相当する部位が必ず存在する。

 ジョンマンはそこをひっかいて、操作不能状態を作り出したのだ。


「受信部は繊細だ、だから絶対に……マリオネット自身の手が届かない場所に作る。そこをひっかくなんて、簡単な話だ」


 これも、先ほどの話とかぶる。

 マリオネットガーディアンが人型で、手足を動かして攻撃や移動を行うということは……。

 手足が届かない場所にしか、受信部を置けない。

 それを怠れば、自分で自分の受信部を叩く、なんて間抜けなことになりかねないからだ。

 だがそれを防ぐからこそ、逆に特定が容易なのである。


「そして、遠隔操作型マリオネットは『実体』だ。だから自分の砲弾が当たって壊れるなんて、間抜けなことも起きうる。それを防ぐには、射線が重なったときは撃たないようにするしかない」


 砲弾がバリアをすり抜けられるのは、実態のない魔法同士だからこそ。

 それに対してこのマリオネットガーディアンは、基点と同じように実体である。

 そのガーディアンゴーレムへ誤射が起きないように、射線に入っている時は撃たないようにプログラムされていたのだ。


「これは他の魔法も同じだな、防御用に配置された騎士型の防御魔法……反応迎撃型の魔法人形も、このマリオネットの傍では攻撃のモーションに入れない」

「~~~!」

「だからこのマリオネットを俺が運んでいる限り……俺に向かって攻撃ができないわけだな」


 ジョンマンはマリオネットガーディアンを担いだまま、すたすたとコウソウの傍に近づいていく。

 もちろん狼たちはついていくし、兵士たちも傍による。

 だが攻撃のモーションに入ることもできない。

 これは誤作動ではない、プログラム通りの状況である。


「あとは……結界の基点を破壊して、と!」


 ジョンマンは悠々と、三か所の結界基点を破壊した。

 基点自体もそれなりには堅牢なはずが、ジョンマンは誰に邪魔されることもなく、淡々と壊していく。

 そうして、バリアが解除され、無防備になったコウソウの前に立った。


「あ、ああ……」

「なんだっけ、センセー。『一端布陣してしまえば無敵だよ。手の内を知られていたとしても、まったく問題にならない』だったか? そんなわけねえよなあ……」


 ジョンマンは心底から苛立たしそうに、先ほどのご高説を復唱して差し上げた。


「タワー流戦術魔法は、術者が敵の傍にいないことが前提だ。いくら詠唱を許されているとはいえ、相手の目の前で堂々と布陣している時点で、強みのほとんどが無くなってるよ。少なくとも、必勝を確信できるほどじゃない。それこそ『私はタワー流戦術魔法使いです』と名乗っている時点で……フレーム流と名乗っているのと同じように、強みを捨てている」


 ジョンマンには、魔法の才能などない。

 だが経験と知識、そして理解は及んでいる。

 彼の前で、安易に無敵だの完璧だのと言うべきではない。


「で、センセー」

「は、はい~~!」

「フレーム流の流儀はな、何が起きているのかわからないうちに倒すことだ」

「そ、そうです!」

「タワー流の流儀は、何が起きているのかわからせたうえで勝つことだ」

「おっしゃるとおりです!」

「アンタ、俺に負ける理由がわかってるか?」

「はい!」


 そしてジョンマンは、拳を振りかぶった。


「じゃ、負けろ」


 そのゲンコツを、遠慮なく脳天に叩き込んでいた。


「アンタらは強いし正しいし、立派な先生ではあると思うが……雑魚だ。実戦経験を積んでから、出直してこい」

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― 新着の感想 ―
敗者二人の雑魚ムーブにたいする圧倒的強者ムーブだった。
[一言] やっぱりスキルを抜きにしてもジョンマンは歴戦の強者だなあ
[良い点] 「国一番の才能」が余所に流出するとなりゃあなあ・・・ [気になる点] こら、世界的に見た場合「全方見聞録」を信じてる地域の方が少数派? [一言] フラグすら立てられずに退場か・・・
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