40:母と母と母と母
「雪ちゃんのお母さん、こんにちは」
「はいこんにちは。いつも雪と零と仲良くしてくれて有難うね」
「雪ちゃんは優しいし、零くんは面白いので」
「ふふっ…そう」
俺の言葉がお気に召したのか、雪ちゃんと零のお母さんはクスリと笑う
雪ちゃんのお母さんとは保育園で偶に会ったら挨拶する間柄だ
2年前のオドオドとした感じは鳴りを潜め、堂々とした母親という印象を受ける
何度か零が注意されている場面からもダメな事はダメだと男の子相手でも言う事が出来ているんだろう
…その横で「面白いってなんだ!」と言っている零はスルーしておこう…
「あの娘たちが作ったプリンはどうだった?」
「凄く美味しかったです!」
「前に3人が今度はチョコレートを作るって張り切ってたから、また受け取ってあげてね」
「「「?!!!」」」
雪ちゃんのお母さんの言葉に雪ちゃん達は驚愕の表情を浮かべる
「うん、喜んでもらいます」
「「「?!!!」」」
そんで俺の言葉に3人が俺に対して驚愕の表情を浮かべる
何でそんなに驚愕の表情を浮かべるのよ?
あれでしょ?バレンタインデー的な友チョコ的な?そんな感じのチョコの事でしょ?
この2年間は月姉さんに言われて受け取らなかったが…友達の母親に言われて嫌だは言えないでしょ…
俺の返答がどうやら雪ちゃんのお母さんはお気に召したらしく「フフッ」と上品に笑う
「夜人くん、軽々しく受け取ると言ってはダメよ。女の子のチョコレートには色々な意味が籠ってるんだから、ね」
「…そうなの?」
あ、ヤバい…
月姉さんが怖くて深くは確認していなかったけれど、多分この世界では何か意味がある的なヤツだ
そっと後方を観察していると…月姉さんから半端ない圧が醸し出されている
…これ帰ったらお説教コースだわ
「とはいうものの、そこら辺は無視しても良いから受け取ってあげて欲しいわ。」
「……はい、受け取るだけなら」
「そう、良かったわ。3人共良かったわね」
そう言って真っ赤な顔をした3人に対して雪ちゃんのお母さんは微笑みながら茶化している
「香我美さんお久しぶりね」
「っ!!八剱さん、お久しぶりです」
そんな雪ちゃんのお母さんに対して俺の母さんは立ち上がって声を掛ける
さっきまで「食べ過ぎた~」とグデッていた人とはどうしても思えない程キリッとしているなぁ…
「香我美さんがお元気そうで何よりだわ。最後にお会いしたのは…参観日だったかしら?」
「は、はい!!参観日の時にご一緒させて頂いて以来です!!」
因みに俺の頭上ではこんなやりとりが行われているのだが…母さんの名誉の為に言うと萎縮されてはいるが雪ちゃんのお母さんに嫌われている訳では無い
寧ろ、俺の母さんの事を尊敬しているらしい…信じられん
が、証拠とばかりに雪ちゃんのお母さんの目がキラッキラなのは誰が見ても明らかな程キラッキラなのだ
「き、今日は雪のお、お友達のお母さん方と一緒にお邪魔しました!!よ、夜人くんとも娘さん方が仲が良いとの事で、ぜ、是非にと…」
「夜人くんのお母様、初めまして。蕗薹あづみの母です」
「は、初めまして。蓮華の母です」
「こちらこそ。夜人の母です」
そんなやり取りが俺の意図せぬ所で俺の頭上で繰り広げられたのだった




