35:目指すはゴール!!
「さつきちゃん頑張れー!!!」
唐突にスピードを上げたさつきちゃんに俺は声を張り上げて応援する
この年になると若者の挑戦する気概ってやつにほろっときてしまう
…まぁ見た目は子供、精神年齢は30だけど
挑戦するというヤツは成功しようが失敗しようが須く尊いわ
さつきちゃんのスピードはリノちゃんを追い抜いたりする程のスピードは無い
でも、今以上に突き放されない程のスピードで竹馬で駆けていた
「遂にスプーン落としか…」
スプーン落としはさつきちゃんの十八番だ
俺はアンカーとしてコースに待機を始めた
どうやら俺に倣って零もコースに出て来るみたいだな
そして…俺の予想通り、さつきちゃんはスプーン落としでリノちゃんを追い抜かして俺の下へタスキを届けに来た
「夜人くん!!」
「ナイス!!」
「零くん!!」
「任せろ!!」
俺が駆け出すと同時に零もタスキを受け取ったらしい…
こうなると後ろを振り返らずに前だけを見て走り切るだけだ!!
「夜人くんーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「夜人きゅーーーーーーーーーーん!!ママよーーーーーーーーー!!!」
「零くーーーーーーーん!!頑張ってーーーーーーーーーー!!!」
「男の子同士の勝負…尊い…」
「2人とも頑張れーーーーーーーーーーー!!!」
俺達が走り出すと同時に紅組と白組の皆、そして保護者席からも一斉に声援が怒号の様に鳴り響く
しかし残念ながら今の俺は手を振ったりする余裕はない
(先ずはトンネル潜りだ)
トンネル潜りは何の問題も無い
それは零も同様だろうが、僅かにリードしていた俺がこのまま先にトンネルから飛び出ることが出来ると予想していた
(えっ?!!)
だが俺の予想は崩れ、俺と零はほぼ同時にトンネルから飛び出す事になった
どうやら零は俺よりもかなりトンネルを潜るのが速いらしい…
「夜人くん頑張れーーーーーーーーーー!!」
「零くんカッコイイーーーーーーーーー!!」
両者互角の勝負に周りの声援も過熱する
次の競技は竹馬だ…此処でリードしなければ、スプーン落としが苦手な俺には勝機が薄くなる
俺は竹馬に足を掛け、脇目もふらずに駆け出していく
カーブ地点でも零の姿は俺の視界には出てこなかった
という事は僅かかもしれないが、俺の方がリードしているという事だ
「うおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!」
「よ、夜人くんが叫んでる!!!」
「レアよ!!凄いレア!!!」
「だ、誰かのお母さん動画撮ってない?!!」
俺はそのまま竹馬でリードし、最後の難関であるスプーン落としに取り掛かる
この勢いのまま走り出したら、俺は絶対にミスするだろう…
時間をロスさせてしまうが…深呼吸を1度行い、スプーンにだけ集中して一歩目を踏み出した
「…………」
零の事も気になるが、今の俺は零を気にするとピンポン玉を間違いなく落とす
ゴールした後に結果は勝手に出て来るんだ
そう思いながらタドタドしくもピンポン玉を落とさない様にソロソロと進んでいく
「…………」
一際声援が大きくなった気がする…
けれど今の俺はそれを気にしちゃいけない
飽くまで俺が目指すのはゴール地点だけだ
そうしてピンポン玉を落とさない事だけに注視して俺は進んで行った




