32:勝負に拘る時だってあったりする
「雪ちゃん!!」
白組の席に戻ってきた雪ちゃんに対してあづみちゃんが駆け寄って抱き着いていった
どうやらあづみちゃんは感極まったらしく、雪ちゃんを締め落とすかの様な勢いで抱き着いていた
「あ、あづみちゃん…あづみちゃんの御蔭で勝ったよ」
「……私の御蔭?」
「う、うん…あ、あづみちゃんがい、いいいつも頑張ってくれてるから…わ、わ私もが、頑張れたんだぁ…」
「……雪ちゃん」
雪ちゃんの言葉を聞いてあづみちゃんはグリグリと頭を雪ちゃんの身体に擦りつけている
……あづみちゃんは子犬か何かかな?
まぁ、何はともあれ美しい友情だよねぇ…
「雪ちゃん凄かったよ」
「よ、よよ夜人くん…う、ううううん!!!」
俺が労いながら掌を上げると、おずおずとハイタッチに応えてペチンと音がする
あづみちゃんも大分落ち着いただろうし、後は俺がアスレチック競争で頑張るだけだな…
今の時刻は正午くらい
本来ならばお昼ご飯の時間だが、今日に限っては13時から皆で家族とお弁当を食べるそうだ
まぁ、お弁当食べた後だとお腹一杯で動けなくなりそうだしね
『最終プログラム、アルパカ組さんによるアスレチック競争です。出る子は集合場所へ集まってください』
おっと、遂に俺が出場する番か
そろそろ向かわないとなと思っていると雪ちゃんとあづみちゃんが「夜人くん」と呼び掛けて来た
「けけけけケガしない様にが、ががが頑張ってください」
「よ、夜人くんなら大丈夫よ。が、頑張ってただもん!!」
「……うん有難う。ケガしない様に頑張るね」
俺はそう言って手を振りながら集合場所へ向かって行った
◆
◆
「…夜人、遂に勝負する時が来たな」
「う、うん…そうだね」
集合場所に着いた早々に零に絡まれる…まぁ、正直想定内だけどさ
「知ってるか?このアスレチック競争に勝った組は20点貰えるんだぞ!!」
「あ、あぁそうみたいだね…」
多分応援を盛り上げる為に先生方がその様に設定したんだろう
じゃないと紅組が勝っても同点になっちゃうしね…
この保育園の凄い所は勝ち負けをしっかりと決める点だ
この間知ったけれど、この保育園は中々ハードルが高く…所謂金持ちが多い保育園だそうだ
それ故に元からセキュリティ性が高かったみたいで俺が通う事も許可されたという訳だ
だからこそこの保育園は勝敗をハッキリさせる
此処に通う園児の大多数が今後社会に出る際に前世の俺よりも難しい決断を迫られる事が多いのだろう
社会に於いてなぁなぁな事など何1つとしてない
そんな精神を今から植え付けておくのだろう…皆大変だなぁ…
「此処でお前を倒してレッドバンプがさいきょおだと証明する!!」
「……零くん、悪いけど僕も負けるつもりはないよ」
「っっ?!!よ、よ~し…夜人勝負だ!!」
白組の皆があんなに頑張ってたんだから、俺が手を抜くなんてあり得ない
大人気なくも感じるが身体能力は鍛えている分あるにせよ、子供の枠内からは逸脱していない
だったら…偶には本気で勝負しても良いよね?
「りんちゃん、メイちゃん、さつきちゃん…頑張ろう!!」
「「「うんっ!!!」」」
「俺様について来い!!!」
「「「はいっ!!!」
『最終プログラム、アスレチック競争。出場者入場します』
俺と零が自分のチームに発破を掛けると同時にアナウンスの声が聞こえて来る
こうして運動会の本当のクライマックスが幕を開けたのだ
 




