3:あ、俺名前変わってねぇわ
俺が転生(?)してから1年が過ぎた。
この1年で色々な情報を仕入れる事は出来た。
出来たが……俺のキャパシティでは管理出来ない事ばかりだった。
『次のニュースです。昨日付けで今年誕生した男の子の赤ちゃんはようやく2,500人を超えたという事です。ただ女の子の赤ちゃんは27,000人を超えている事からも男女比率が更に乖離しているという見解もあり……』
母親が付けているTVをボヘーーと眺めながら、頭を悩ませる代表的な出来事の1つが流されている。
そう、この世界では男の赤ちゃんの出生率が異常に低い。
男女比率が驚きの約1:10!!(厳密に言うと1:11だが……)
だから俺が産まれたあの時、看護師さんと母親は驚いていたらしい。
いやいや、エコー検査で確認もできただろって?
全くもってその通りっ!!!
エコー検査も出産までに何回もしていたらしい。
だがその全てで俺のナニは確認できなかっただとよチクショウ!!!
それも相まってあの2人は驚いていたんだろうが……その話を聞いた俺の心が若干のダメージを受けた事も賢明な諸君ならば理解出来ると思う。
ま、まぁナニに関しては未だ赤ちゃんみたいなもんだし?
これからの成長を考えれば前途有望でしかない現状を顧みると些末な問題だと割り切ればいい。
割り切れば……ぐすん。
話は戻るがそんな世界だからこそ、男は非常に優遇されている。
勿論義務も生じるみたいだが、今の俺には義務の全てを理解するツールがない為に優遇されているという事実しか理解出来ていない。
その内の1つが……。
「夜人様、失礼いたします。」
そう言いながら1歳児の俺をヒョッコリ持ち上げる目の前のお姉さんだ。
「夜人様のオムツは……問題ありませんね。」
彼女の名前は『沢木 麗』。
彼女は国から男性保護国際機構(Man Hospitality Club)に依頼され、我が家に斡旋された俺のお抱えベビーシッターだ。
見た目は20代前半だが、実際の年齢は知らない。
だが非常に可愛らしい外見を持っている。
漫画でしか見た事のない様な黒色の髪に少々切れ長の瞳、シミ1つ無い肌と暴力的なまでのお胸様……前世の世界であれば間違いなく芸能界の頂点に容易く立っているのではないだろうか?
そんな彼女に1歳児とは言えオムツの中を確認されるのは非常に気恥ずかしいが……こんな美人に無料で抱っこして貰える対価と思わざるを得ない。
そんな羞恥に悶えている俺を余所に淡々と俺の状態を確認する沢木さん。
先程も述べたが彼女は男性保護国際機構から派遣された女性だ。
この世界では男女比は約1:10だ。
それ故にこの世界では男が非常に貴重となる。
人生で一度も見た事が無いという人は今のところはなさそうだが、それでも男1人の損失が国の損失と同視される程には重要視されている。
そんな男の子を民間の保育園やベビーシッターに預ける事は出来ないというのが世界での共通認識となっている。
そこで設立されたのが男性保護国際機構(MHC)だ。
『男性が健全で安寧な生活を過ごす』事を第一とした国際機構であり、国連加盟国内で生まれた男の子は半強制的にこのMHCからベビーシッターが派遣される。
だが舐める事なかれ、MHCから派遣されるベビーシッターは超が付くほどの優秀な人材なのだ。
それはそうだろう、世界でも貴重な男の子を見守るのだから、ただのベビーシッターでは務まる訳がない。
強姦、誘拐、監禁etc……。
存在するだけで男の子には世界中で商品的価値があるのだ。
世界レベルで平和なこの国ですらその様なリスクは孕んでいる。
それ故に『心技体』に優れた人材で無ければベビーシッターとして派遣される事は無いのだ。
「ふむ、今日も夜人様の健康は異常なしです。」
まぁそう言って俺の股間を凝視する彼女からはその優秀さは欠片も見いだせないのだが……。
子供ながら彼女の様子を冷や汗を流しながら見下ろしていると。
「夜人きゅ~~~~~~~~~んっ!!!!!!!!」
はぁ……もう1人の姦しい人の声が聞こえてきた……。