29:(閑話)八剱月視点 私の夜人くん
「ふへへへ・・・」
今私は保育園に相当にだらしない表情を浮かべているのだろう
同じカピバラ組の子も私と目が合うと同時に避けるんだから間違いない
「ふへへへ・・・」
でもこればっかりは仕方ない
昨日の夜、夜人くんと『結婚を前提にした交際』の許可を貰ったのだからだらしない表情になっても仕方がない
私だって理解している
1年前の結婚するって約束は夜人くんにとっては真剣じゃなかった
あれはおままごとの流れでOKしてくれたのか、そもそも結婚の事がよく分かっていなかったのかのどちらかだ
だからこそ1年前も喜んだものの、昨晩以上の喜びはなかった
「ふへへへ・・・」
でも昨晩は違う
結婚に対してもちゃんと理解していたし、真剣に答えてくれた
だからこそ朝に私がチューしても嫌がってなかったしねっ!!
このままいけば、私と夜人くんは結婚・・・そして・・・キャーーーーー!!!
「つ、月ちゃんどうしたの?」
「っっ!!!な、何でもないわっ!!おはよう雲雀ちゃん」
「う、うんおはよう・・・た、体調は悪くない?」
朝からバタついていた私を気遣って確認してくれたと思うんだけど・・・
寧ろ私は絶好調っ!!!今なら空だって飛べる気さえするわっ!!!等と言えるはずも無く・・・
「大丈夫よ。ちょっとだけ考え事をしてただけだから」
「そ、そう・・・もし体調悪くなったら言ってね。先生に言ってあげるから。」
「うん有難う」
冷静さを前面に押し出した私に対して雲雀ちゃんが気を使ってくれた
そもそも焦りだしたのは夜人くんが保育園に行きたがった事が理由だ
夜人くんが保育園に行ったらどうなるか?
そんな事誰だって分かる
そりゃもう・・・モテモテだ
それはもう絶対的な真理だ
私だって前の保育園で男の子ってどんな子たちか聞いている
すぐに怒るやすぐに叩くやすぐに叫ぶとか、ポッチャリしているとか・・・
でも夜人くんは違う
夜人くんはカッコいい
カッコいいだけじゃなくて優しい
カッコよくて優しいだけじゃ無くて気遣いも出来る
正直まだまだ夜人くんの良い所をいう事が出来るが・・・そんな夜人くんが保育園に行きたがった
今までだったら夜人くんの世界は私とお母さんと麗お姉ちゃんしか居なかった
でも保育園に行ったら夜人くんにとっては私たち以外にも可愛い子や気が合う子、好きになる子が居ても可笑しくは無い
そうなった時・・・夜人くんと結婚出来ないと想像した時・・・私は私でいられる自信が全く・・・無い
そんな事を思っていた昨日、夜人くんが唐突に『雪ちゃんの家に行く』と言い出した
夜人くんが登園2日目にして女の家に行く約束をしてきた事に驚いたが・・・それ以上に感じたのは絶望と醜い嫉妬
それを自覚した私はお母さんに夜人くんの事を告げた後、私がアプローチする事を伝えた
あとそれと無く協力して欲しいって事も
結果、私は見事に夜人くんと『結婚を前提にした交際』を勝ち取ることが出来た
出来たんだけど・・・昨晩お母さんに告げられた言葉が脳裏に浮かび上がって来る
嫉妬するのは仕方ないかもしれないけれど、それを認めないという様な考えはダメ
そう・・・夜人くんは私以外にも結婚をしなければならない
まだまだ私の中で納得出来ない部分しかないけれど、夜人くんの隣にいる為には認めなければダメなのだ
「つ、月ちゃん・・・だ、大丈夫??」
バスに揺られながら凄い表情を浮かべているであろう私に、雲雀ちゃんの怖がる様な声を聞いて我に返る
・・・まだまだしゅくじょの道は険しいわと思いながら雲雀ちゃんに笑顔を向けた




