20:雪の決意 (零 視点)
「ふぁぁ~…」
ーーコンコンーー
そろそろ日が跨ぐ時間帯に俺様の部屋の扉がノックされる音がする
この控えめなノック音は雪だろう
「雪か?入って良いぞ」
ーーガチャーー
俺が入室の許可を出すと、予想通り雪が姿を現した
だが…雪の表情は俺の予想とは異なり、決意したかの様な表情を浮かべている
いつもの雪なら…思い悩んだ表情なのか、夜人の事を聞きたいが為にウキウキとした表情を浮かべるのかのどちらかなのだが…ちょっと珍しい
「夜遅くにゴメンね。お兄ちゃん、ちょっと良いかな?」
「お、おお…別に構わない。そこに座るが良い」
俺はそう言ってクッションを指さすと、小さく頷いてクッションの上に腰をおろす
俺もそれに続く様に雪と向かい合ってクッションに腰をおろした
「今日はどうしたんだ?」
「……うん。今日ね、校内に芸能人のスカウトが来ていたの知ってる?」
「あぁ知ってるぞ!!こないだ雪にもいっただろ?!夜人と会った時に押さえつけられていた奴があのスカウトだ」
「あぁ…そうなんだ…それでかな?」
「ん?それがそうしたんだ?」
この瞬間、俺様は何か嫌な予感を感じ取った
だが、雪からの相談である以上は聞かないという選択肢もなかったが…
「私ね、あの阿多地さんって言うスカウトの人から名刺を貰ったの」
「ほ、ほうほうほう…アイツは誰彼構わず名刺を渡すんだな!俺様も名刺を渡されたぞ!!」
「ううん。あの人が言うには見込みのある人にしか名刺は渡してないって。でね、ここからが本題なんだけど…お兄ちゃん、私と一緒に芸能界デビューしてみない?」
「なっ?!!!」
俺様が?雪と一緒に?芸能界でデビューする????
それは全く予想だにしない相談だった
「い、いや!!俺様は芸能界には興味ないぞ?!!それに…雪も芸能界に興味ないんじゃなかったか?!」
昔の話にはなるが、アイドルが歌っているテレビを眺めている時に「雪に似合いそうだな」とボソッと呟くと、「興味ないし、夜人くん達の傍に居られなくなるから」と首を横に振っていた覚えがある
俺様がそう言って反論すると「うん」と短く肯定し、「でもね」と言葉を続ける
「お兄ちゃんは知っていると思うけれど…私は今でも夜人くんが好き。でもね、今の私が夜人くんに相応しいかって考えるとどうしてもそうじゃないって思うんだ…」
「そんな事は無い!!」
「ううん…そんな事あるよ。夜人くんは全国でも有数の名門校でもある聖明中のA組主席だよ。容姿端麗、頭脳明晰、それに加えて努力家だし性格も凄く良い。血筋だって…私はよくわかってないけど、あづみちゃん達にも負けない様な所の生まれなんでしょ?そんな夜人くんと今の私じゃ…どう考えても釣り合うとは思えないの」
「………」
「そんな風に思い悩んでいた時、阿多地さんと会ったの。あの人の話を聞いて…芸能界でデビューして、有名になったら…私も夜人くんに釣り合う、相応しい私に成れるんじゃないかって…そう思ったの」
「……そんな事を夜人は気にしない」
「私が気にするの。それに実際トップアイドルになった後に男の人と結婚している人も沢山いるんだよ?それに対しての世間の反応だって決して悪くない。つまり他の人よりも秀でた部分があって、努力して、結果を残せば誰も何も言わないの」
「雪……」
「だから私がお兄ちゃんを誘ったのは…お兄ちゃんと一緒なら、1人でデビューするよりも早く有名になれるって思ったから。……お兄ちゃん、ごめんね」
そう謝罪する雪は本当に申し訳なく思っているみたいで…俺様は居たたまれなくなってしまう
だが…此処で反対しなければ雪は芸能界へいってしまう
そしてそれは夜人や俺様と接する時間が間違いなく減るという事であり…夜人の性格的に雪が有名になったからといって、結婚出来るとは限らないという事を理解しているからだ
そしてそれは多分、雪自身も気付いているのだろう…
俺様が気づいていて雪が気づいていない訳がないのだ
「お兄ちゃんの考えている通り、有名になれれば夜人くんと結婚できる保証なんてない。でも…何もせずにこのままで居るよりは可能性は高いと思う」
「何で…」
俺様の考えている事が分かったんだ?と聞こうとしたが、それよりも先に「双子だからね」と答えられてしまえば何も言えなくなる
「……母さんは?」
暫し沈黙が場を支配した後、せめてもの抵抗として母さんの名前を挙げる
幾ら何でも未成年が保護者の同意もなしに芸能界に足を踏み入れる事は出来ない筈だ
「お母さんは良く考えなさいって。それで私が真剣に考えて芸能界に行くのなら事務所に話を聞きに行くって」
「っ!!俺様も!!俺様も行くぞ!!!」
雪の言葉に対して条件反射でそう答える
そう答えるしか、俺様には他に手段はなかったのだ…




