6:異世界転生や生まれ変わりって、前の世界をひっくるめての自分だよね?
「それでまぁ…気が付けばこの世界に産まれていたって感じなんだ…」
俺は姉さんに前世の最終日を思い出しながら、ゆっくりと説明する
まぁ夢物語と思われても仕方ないし、別に問題ない
今となっては俺自身も夢じゃないかっておもってるしな…
俺はもう、身も心もこの世界に染まってしまって居るという事なんだろう
ショタ神の事は言っても意味がないから言わないでおくとしよう
「………」
そんな事も考えていると、フワッと良い匂いがしたと同時に月姉さんに抱きしめられた
何だろう…こう柔らかいっていうか…癒されると言うか…姉さんに抱きしめられると母さんに抱きしめられていたのとは違う安心感ががこみ上げてくる
姉さんが何か言っている気がするけれど…正直、今の俺はそれ所じゃない
「夜人くん、大丈夫。大丈夫だからね…」
微かに聞こえた姉さんの声に安堵する
あぁ…姉さんは前世の死に際を思い出した俺が怖がっていると思っているのだろう
全く恐怖が無いと言えばそうでもないが、姉さんが思って居る程は気にして居ない
まぁ、いざ同じ様な体験をした場合にはどうなるか分からんが、ね
「夜人くんは頑張ったよ…。見ず知らずの女の子を助ける為に命を賭けてたり、暴漢から女の子を助けたりね…本当に頑張ったよ」
「………」
そう言いながら姉さんは俺の背中をポンポンと優しく叩いてあやしだした
その瞬間、俺の心奥深くからグッとこみ上げるくるモノが溢れ出そうになってくる
「夜人くんはどの世界でもやっぱり夜人くんだったんだね…。優しくて、お人好しで、人の為に動ける…そんな優しい夜人くんだったんだね。私は、夜人くんが夜人くんなのがどうしようもなく嬉しいわ」
「………姉さん」
姉さんの優しい言葉に、思わず彼女の背中に手を回す
姉さんはビクリッと一瞬震えたが、その直後に俺を抱きしめる手の力がより強くなってくる
「夜人くん…夜人くん夜人くん夜人くん夜人くん…。夜人くんから抱きしめられている…?夜人くんから抱きしめられている何てこと、ここ最近あったかしら?あぁ…夜人くん夜人くん夜人くん夜人くんっ!」
「姉さん…」
姉さんに抱きしめられた事で、俺の心に住み着いていた鬱蒼した感情が霧散していった
俺は多分…受け入れて欲しかったのだろう…
それは男女比1:10のこの世界での『八剱 夜人』だけじゃない
前世での生き方を含む『八剱 夜人』という存在そのものを、知って貰い受け入れて欲しかったのだと実感する
この世界の母さんは俺を愛してくれた
でもそれはこの世界の『八剱 夜人』を愛してくれていたのだ
前の世界の母さんは俺を愛さずに見捨てて去っていった…
前の世界の俺…『八剱 夜人』を本当の意味で愛してくれる様な人はいなかった
もしかしたらどこかに『居た』のかもしれない
けれど出逢わなければ、それは俺にとっては居ないのと同じだ
だからこそ、今俺の腕の中で若干テンパっている月姉さんが…
俺の前世と今世をひっくるめて認めてくれる、この女性が…愛しく感じてしまうのは…
どうしようもない事なのだろうと、納得する事にした




