4:前世の最終日②
「おっと…珍しく酔ったかもな…。じゃあ八剱、また明日な!!」
そう言いながら先輩は駅の方へ向かって行く
先輩は此処から電車で50分位の所に家がある筈だ
酔いつぶれたりしないかという考えが頭に過ぎったが、思いのほか足取りはしっかりしていたので大丈夫だろう
「それじゃあ、失礼します」
「おうっ!!気を付けて帰れよ!!」
そう言って大きく手を振る先輩と別れ、自宅の方へと歩いて帰った
◆◆
「人は強くない、か…」
俺は酔い覚ましがてら、ゆっくりと歩きながら自宅へ向かう
俺もほんのりと酔っているのだろうか…?先輩の言葉が脳裏で反芻される
今振り返ってみれば、幼少期は父親に育てて貰った
ロクでもない親ならば、暴力や育児放棄等で俺は今の人生を歩んでいなかっただろう…
学生時代もなんだかんだで友人には恵まれていたんだと思う
勿論、性格的に合わない人もいたけれど…そういう人は縁遠いだけの話だったのだろう
じゃあこれからは?
社会人になって友人と連絡を取り合う回数も減ったし、恋人もいない
それはそれで別に悪い事ではないけれど…俺は何処まで1人であり続けるほどに強くいれるのだろう…
アイツの事があって、女性を敬遠し勝ちだったが…それでも意識して信じようとしていた俺に1人であり続ける強さがあるとは思えない
「久しぶりに…墓参りでも行ってみてみるか」
それに後輩を誘って再度飲みに行ってみるのも良いかもしれない
その時には先輩を呼ばずに飲みに行くと言ったら驚くかもな
「ふふ…」
どうやら俺も酔っぱらっているらしい…
であれば、やっぱり2人で飲みにいかずに正解だったな
「や、止めてくださいっ!!!!」
「しししし静かにしろっ!!!」
良い気分に浸っている中で女性の悲鳴と、男の叫び声が耳につく
声のする方へ視線を向けてみると、どうやら路地裏の方から声がしたみたいだ
周囲を見渡しても歓楽街から少し外れた場所だからか誰も居ない
「はぁ…何でこんな良い気分な時に限って…」
そんなボヤキと共に、俺は声の聞こえた方へ向かって行く事にした
◆◆
「や、止めてください!!」
「お、おおおお俺だよっ!こ、ここここコンビニでさっ!!」
俺が足音を立てない様に声のした方へ近づいてみると…どうやら女子高生(?)が男に言い寄られている様な感じだ
一瞬知り合いか?とも思ったが、男が手に持っているナイフがそうではない事を雄弁に語っている
「こ、コンビニ…?」
「そ、そうコンビニッ!!!お、俺がコンビニに行くと、りょ両手でお、お釣りをか、返してくれたよね?!!1ヶ月前も24日前も22日前も…5日前だって!!そ、それって…お、俺に気があるって事だよね?!!」
「………」
女の子は恐怖の為か、声が出ない様で泣きながら首を横に振る
要はストーカーみたいな感じなのだろうか…?
男はそんな女の子の様子を見ずに陶酔した様に自分の事を話し始める
「お、俺、俺嬉しかったんだっ!!き、君みたいなか、可愛い子がお、俺に気があるなんて知らなかったからっ!!!お、俺がき、きき気づかなかったから…き、君にさ、寂しい思いをさ、させてしまって…。だ、だから、だから迎えに来たんだ!!お、おおおお俺とい、一緒に、一緒に帰ろう!!!」
おいおいおい…
男の言い分が支離滅裂で心の中でツッコむ
言動も問題だが、その手に持っているナイフはなんなんだ?
「………」
当然、女の子も無言ながらも必死で首を横に振っている
(不味いな…)
今にも男が我に返り、女の子に対して襲い掛かりそうな雰囲気があり、予断を許さない状況だ
俺は急いで携帯電話をポケットから取り、警察へ電話する
『はいこちら警察です。どうかされましたか?』
警察の声に俺は応答する事無く、携帯電話をそっと地面に置いて様子をうかがう
日本の警察は優秀だからな…これで逆探知して来てくれるはずだ
まぁ、悪戯だと思われたら終了だけど…
「ど、どうして?!!どうして?!!!き、きき君も待ってたんでしょ?!!」
「………」
「そそそそんな……。そ、そんなお、俺を弄ぶわ、悪いお、女は…おんなはぁーーー!!!」
男がそう叫びながら刃物を振り上げた瞬間、俺の意識とは無関係に身体は動きだしてしまった…




