36:これは果たして病んなのかメンなのか…?
「…え?」
「どんな理由があったとしても、私は夜人くんと婚約を解消する気は無いと言ったの」
え…何で…?
今までの流れ的には婚約解消若しくは延期になりそうだった…よね?
月姉さんや棗さんやあづみちゃん達に呆れられて…皆が俺から離れていくって言う様な流れじゃなかった?
俺自身は正直…それを本気で覚悟したし、そうなっても仕方ないと諦観もしたが
「不思議そうな顔をしてるわね」
「あぁ、うん…。正直、婚約解消かなって思ってたよ」
「ふふっ…やっぱりね。やっぱり夜人くんは…私の事をちゃんと見てない」
背筋に再度ゾクッっとした寒気を感じると同時に、俺の頬は月姉さんにガッチリホールドされる
ヤバい…1ミリも首を動かせない…少しでも動かせる気がしない
「夜人くん…夜人くんは私を舐めてるよね?私が夜人くんと離れるとでも少しでも思ったの?それは私に対するこれ以上ない位の侮辱だよ?」
「い、いや…」
「私は良いの。嫌だけど…それでも良いの。私の知らない所で誰かに優しくしても良いし、悪い事をしても良いの。何をしても良いの。夜人くんの行う全てが、例え人の道を外れた行為だとしても良いの。成功しても失敗しても良いの。傲慢でも良いの。別に謙虚でも良いの。容姿が整ってても良いし、そうで無くても良いの。運動が出来ても良いの。別に運動が出来なくても良いの。知識が足りていなくても良いの。優秀でもどっちでも良いの。私を愛さなくても良いの。勿論愛しても良いの。他の女を愛しても良いの。別に愛さなくても良いの。どんな手段で、方法で、目的で、動機で、倫理で、法律で、正道で外道で、どんな一切合切でも良いの。どんな夜人くんでも良いの。夜人くんが夜人くんで夜人くんなら、本当に良いの」
「………」
いつもの様に抑揚の無い感じで話す月姉さん(暴走Ver)だけど…今回はいつもと違う
言っている内容もいつもの「何で?」という様な語り口ではなく、俺を全肯定する様な内容だけに…無茶苦茶怖い…
「でも…私の夜人くんへの愛を疑う事だけは決して許さない」
「………」
愛されなくても良いけれど愛する事を疑う事だけは許さないって…滅茶苦茶だ…
無償の愛を疑う事だけは許さないという狂気的な考え方だと思い、再度背筋に震えが走る
「つ、月ちゃん…そ、それはまた…イき過ぎてないかなぁ~?」
棗さんがおずおずといった様な表情でそう話しかける
けれど月姉さんは…そんな棗さんの声が聞こえていないかの様に俺を一瞬たりとも視線を逸らす事はしない
「だから、ね。夜人くんは私がたった1つ許す事が出来ない…許さない事を踏みにじったのだから罰を受けるべきだと思う」
「………」
怖い…
月姉さんの罰がどんなものか予想だに出来ないだけに余計に怖い…
「ど、どんなば、罰かな…?」
「そうねぇ…ふふふ…」
目元は笑っている筈なのに目の奥が笑っていない…
そんな月姉さんの表情を見ながら、ちょっとやそっとの事ではないだろうという確信だけはあった…




