35:ドゥードゥドゥドゥードゥードゥードゥー(〇ースベ〇ダー的な)
「夜人くん…」
この何とも言えない…罪悪感を胸に抱えながら家路に着こう…そう考えていると腕の傍から無機質な声が聞こえた
恐らく月姉さんがフリーズから解除され、正気に戻ったのだろうと思い、彼女の方へ視線を向ける
「っっっ!!!!!」
何か…今までに無い位、ドロッドロな目で俺を見て来る
こういう場合って、目のハイライトが消えてたり、瞳孔が開ききってて真っ黒な瞳だったたりするんだろう
そうなんだろうけど…彼女の場合は、もう何か…ドロッドロだ
濁ってるのに澄んでいて、目に光は無いのに目に力がある様な…何か本当に怖い
生存本能が働いているのか…脳から警鐘が響き渡る様な感じだ
「ねぇ、夜人くん?」
「は、はい…」
「貴方は私が…私が夜人くんとして見ていないと思っていたの?」
「………」
や、ヤヴァイよ…
いつもいつ息継ぎしてるの?と言う様な話し方じゃなくて…ちゃんと会話が成り立つのが余計に怖い
「ねぇ、夜人くん。私は聞いてるの。貴方は私が貴方だと認識せずに愛を囁いていたと思っていたの?」
「い、いや…ね、姉さんの場合は…す、少し違う」
「ふ~ん…想像は出来るけれど聞いてあげる。…さぁ、言ってみなさい」
マジで怖い…
いつも違う視線、口調、声色…それら全てが本気で怖い
可能であれば逃げ出したいレベルで怖い…
勿論、そんな事はしないし、嘘を吐くつもりもないんだけど…怖い
「ね、姉さんは…そ、その…か、家族だ」
「えぇそうね。半分とは言え、血の繋がった家族ね」
「だ、だから…そ、その…お、俺に対しては…あ、愛情というよりも…か、家族愛?みたいな…か、感情を抱いてて…そ、それを愛情だとご、誤認してるんじゃないかと…」
「そう…」
「しょ、正直…い、今でも…す、少し…そ、そう思ってる部分は…あ、あるんだ。だ、だって…お、俺が産まれてからず、ずっと…か、家族として…す、過ごしていたから…」
「そう…」
「…………」
怖い…この沈黙が怖い
月姉さんが理性的な受け答えをしてくれるにも拘わらず、周囲に放つ雰囲気が異様すぎて全てが怖い
「詰まり貴方は、私の愛情を疑問視して真正面から信じることが出来なかったという事ね」
「……そ、そうだ、ね」
俺が月姉さんの質問に対し、正直に答えると「ふぅ…」と短く溜息をつく
そして「どうしたものかしら…」等と言いながら視線を虚空へ移す様子が恐怖心をさ更に煽る
「私と夜人くんの婚約関係を解消、若しくは延期にすると言うのが1番良い手段なのでしょうけどね…。学校ではある程度広まってしまって居るとは言え、他の男子に言い寄られていた実績からすれば然程のマイナスにはならないし。経歴に多少の傷がついた所で正直、痛くも痒くもないしね」
………月姉さんは、本気で対策というか…今後をどうするかを真剣に考えている
詰まりは、俺のやった事はそれだけ失望させてしまったという事だろう
「幸い…彼女たちは夜人くんと婚約関係にはなっていない訳だし。女狐先輩や貴女たちからすれば、今が1番傷が浅くて済む状態ね」
「「「「「…………」」」」」
棗さんたちも月姉さんの雰囲気に圧倒されているのか…それとも思う所があるのか、一同押し黙っている
ただ…俺としては昨晩と同様、皆の考えを尊重するつもりだし、それ以外の選択肢は無いと思っている
月姉さんとの婚約解消となり、顔も見たくないと言われれば…極論、家を出る覚悟はある
それだけ俺がした事は、最低最悪なんだろう…
そんな決意を固めたその瞬間、月姉さんは俺の方を向き直った
「まぁ当然だけど、私はそんな事をする訳がないけれどね」
月姉さんの言葉に、俺は一瞬思考を止めざるを得なかった




