33:甘んじて受け入れる事の難しさよ…
ギギッーーーギギギギギーーーー
人骨から鳴ってはいけないであろう音を出しながら俺は首を声した方へ傾ける
ある人にとっては凛とした天上からの神託の様に聞こえるだろう
ある人にとっては豊潤な蜜を思わせる様な蠱惑てきな誘いに聞こえるだろう
だが…今の俺から聞こえる彼女の声はそうではない
静かに、鋭利に、確実に忍び寄る死神の鎌の音の様に聞こえるのだ…
いかん…動揺し過ぎてポエミーな表現を出してしまった…
「夜人くん」
「ひっ!た、ただいま…つ、月姉さん…」
月姉さんは間違いなく俺の天使だ
天使なのだが…今の彼女にはその様には見えない
だって…夜にはOHANASHIしないとダメだなと思っていた相手だからな…
「どうしたの?」
当然だが、姉さんはそんな俺の気持ちを理解している訳も無く僅かに動揺した俺に対して首を傾ける
そしてそのまま俺の眼前に移動してきた…ってどうやって?!!
「夜人くんどうしたの?そんなに表情を強張らせてどうしたの?まるで私と逢うのが嫌だったかの様な表情だよね?そんな事無いよね?有るはずないよね?3日だよ?3日も私に逢えなかったんだよ?3日振りに逢った私に対してそんな表情を浮かべる理由なんてある筈もないよね?合宿で何かあったのかな?私と夜人くんを阻む何かがあったのかな?だったら排除しないとダメだよね?私なんてこの3日間、泣いたり喚いたりしちゃったよ?お母さんも最初は慰めてくれてたのに昨晩なんて明日には逢えるのだから落ち着けって言うの。酷くないかな?私なんて学校のある時間でも逢えないのが辛いのに3日、3日だよ?どう考えても偉業だよね?なのにお母さんったら明日に逢えるんだからっていうの。もし今日に逢えなかったらとしたら私正直、どうなるか分からなかったよ?そんな私に対して夜人くんはどうして表情を強張らせるのか私には分からないんだ。そろそろ教えてくれないかな?教えて貰えないんだったらもう「月姉さんストップ!!!」ふにゃ~~~…」
瞳孔開きっぱなしで息継ぎしてるのか?というレベルでしゃべくり倒す姉さんに対し、徐に頭を撫でた途端に力が抜けていったかの様にもたれ掛かって来る
「ひ、久しぶりの夜人くん成分だよぉ~…」
「俺成分って何っ?!」
難聴系主人公では無いと自称している俺からすれば聞き捨てならない単語に思わずツッコむ
「つ、月せ、先輩……。よ、夜人くんも疲れてます。そ、それ位にしてあげてください」
「「っ?!!!」」
あづみちゃんが月姉さんに対して何か意見するのを初めて聞いた…
月姉さんも僅かに驚いた表情を浮かべ…そして不敵に微笑みだした
「何?何の心境の変化?ちょっと前までは私を避けてた4人が私に何か言うなんて…野外合宿で何かあったの?」
月姉さんがそう言うと同時にあづみちゃんの方へ視線を向けると…あづみちゃん、蓮華ちゃん、雪ちゃん、沙月ちゃんが一塊になって月姉さんと対峙している
「え、何かあったの?ヨルヨル成分枯渇気味の私としても気になるんだけどな~」
棗さんはそう言いながら、俺の腕を組む…
さながら、あづみちゃんチーム VS 月姉さんチーム の様な図式が出来上がっている…
「特別に何かあった訳ではありませんよ。ただ…これから夜くんは僕たちの事をちゃんと見てくれるって言ってくれただけです」
「「っっ?!!!」」
蓮華ちゃんの挑発的な物言いに月姉さんと棗さんが驚いた表情を浮かべた
…ん?一般的には普通の事を言っている筈なのに、月姉さんと棗さんが驚いた表情を浮かべている
って事は……マジかぁ~……
答えに行きついた俺は自己嫌悪を陥ってしまう
(結局…俺がちゃんと見ていないって事を皆気づいてたんだろうな…)
そんな事を思うがこそ…俺は月姉さんたちもしっかりと見ていかなければならないのだろう
月姉さんと棗さんを見ながら俺は改めて彼女達にも宣言する
「蓮華ちゃんが言った通りだよ。だけどこれは彼女達だけじゃない。月姉さんと棗さんの事も…これからしっかりと見ていく。月姉さんは姉さんとしてだけじゃなく、1人の女性として…。当然だけど棗さんも1人の女性としてちゃんと見ていく。だから…これからは俺の事も男としてじゃなく、八剱 夜人として見て欲しいんだ」
俺がそう言うと、月姉さんと棗さんはまた驚いた様な表情を浮かべだした




