30:これまでとこれからと②(雪 視点)
~♪~~♪~
「あうぅぅ…」
「雪ちゃん、どうかした?」
「だ、だいじょぶ…」
ダメだ、また嚙んでしまった…
ずっとずっと優しい夜人くん
ずっとずっと微笑んでくれる夜人くん
ずっとずっと想っていた、夜人くん…
そんな夜人くんと今、2人でキャンプファイヤーで踊っている
夢じゃないか?と思ったりもするけれど…これは正真正銘、現実
ーーコツンーー
「ご、ごめんなさい!!」
「大丈夫、気にしないで。正直、俺もダンスは上手じゃないから」
「あうぅぅ…」
これで何度目の失敗だろう…
私はあづみちゃん程、皆を纏める力は無い
蓮華ちゃんみたいに運動神経も良くないし、沙月ちゃんみたいに頭も良くない
月さんなんて…本当に全てを兼ね備えていると言っても過言じゃないくらいだ…
夜人くんの周りにいる同性は…皆、何かしら秀でているモノがある
だけど…私には誰かに認めて貰えるほど秀でている部分なんて…ない
そんな私が夜人くんとこうやってダンスを踊ってしまっても良いのだろうか?
A組ですらない、ただの幼馴染…そんな私がこんな光り輝く場所に居ても…良いのだろうか?
「ふふっ…」
「よ、夜人くん…ど、どうした、の?」
私が心のモヤモヤと対峙しているにも拘わらず、頭上から笑い声を聞こえた
すると夜人くんは私を見つめた後に「あそこ」と短く視線を誘導してきた
「うおぉぉぉぉーーー雪ぃぃぃぃーーーーー!!!!」
そちらに視線を向けると…お兄ちゃんが私に向かって大きく手を振ってくる
最悪…本当に最悪だ…
夜人くんの傍に居るのと違い、羞恥心で顔が真っ赤になってしまいそうになる…
「零はさ…本当に雪ちゃんが好きなんだね」
「……恥ずかしいだけだよ」
夜人くんの言葉に思わずそう言って反論すると、夜人くんはまた小さく微笑んだ
そして…私の目を見ながらゆっくりと口を開く
「零が雪ちゃんを好きなのはさ、雪ちゃんが本当に優しいからだと思うな」
「……そんな事無いよ」
「男ってね…結局傍に居てありのままを受け入れてくれる人を探しているんだと思う。まぁ、これは女の子もそうかもしれないけど…」
「……え?」
「この世界って、さ。みんな男には優しいでしょ?その優しさって『男』だからって言うのが多かれ少なかれあると思うんだ…」
「????」
夜人くんが言っている意味が分からない
それって当たり前の事じゃないのかな?
「多分零が雪ちゃんを好きなのはそうじゃないからだと思う。男である前に零を見て優しい…そんな雪ちゃんだからこそ零は好きなんだと思うな」
「…………」
どうしよう…凄く嬉しい…
そんな事を言われたのは初めてだ…
確かにお兄ちゃんは男だけどお兄ちゃんだ
小さい時とは違って、男だからといって接した事はないかもしれない
「男であるけど…俺は夜人だし、アイツは零だし…。そんな風に見てくれた上で優しくして貰ったら…やっぱり嬉しいものだよ」
「…そ、その…よ、夜人くんも…そ、そっちの方が…う、嬉しい?」
「そりゃ勿論」
「……そっか」
私は…彼の止まり木になろう
変に取り繕う事無く、ありのままの夜人くんで居てくれる様な…
そんな一緒に居て無理をさせない…そんな私であろう…
私は夜人くんと踊りながら…自分の指針を見つけた様な気分だった




