6:享受するのかしないのかは人それぞれです。
「………広いな」
誰に言う訳でも無く、思わずそう呟いてしまう
「こちらは最新式のロッジとなります。間取りにして6LDKとなり、リビング部分は25帖、各寝室は7帖となります。それ以外に浴槽は追い炊きジェットバス機能、トイレは人工大理石を敷き詰め高級感を醸し出しております。キッチンはIH4口グリル付のカウンターキッチン、食洗器は御座いませんが係の者に申し伝えて頂ければ食器洗いはこちらで行わせて頂きます。冷暖房はリビングを含む全部屋に搭載しております。」
「…これって最早コテージを超えてね?」
怒涛の昼食が終わった後、俺達男子メンバーはクラス別に宿泊施設まで案内されたのだが…
これを前世のロッジという意味で括るには些か無理があるだろう
確か前世ではロッジって最低限の設備が整った木で造られた施設だった
それが6L?リビング25帖?個室で各7帖?etc.etc.…
最早どこかの富豪が個人所有している別荘だと言ってもおかしくないレベルだ
「うぉー!!!誰がどの部屋にするか決めようぜ!!」
「せやな!ワイは1番日当たり良い部屋がえぇわ!!」
「……暗い部屋」
「僕はどの部屋でも良いが…部屋の前をあまり人が通らない場所が良いな」
そう感嘆しつつ、セルフツッコミを俺の心中を余所に他の男子達は各々希望の部屋を言い出した
えぇ…これって普通なの?
女子メンバーがテントなのに、俺達がこんな超高級なロッジ(?)に宿泊する事に抵抗ないの?
「夜人!!お前はどの部屋が良い?!」
「…あぁ、うん。残った部屋から選ぶよ」
零の質問に対して若干引き攣った表情でそう返事するのが精一杯だった…
◆
「ふぅ…」
滞りなく部屋を決めた俺達は取り敢えず自分の決めた部屋に入る事にしたんだが、扉を開けた瞬間思わずベッドに倒れ込んでしまった
(何と言うか…今が今日1番に疲れた…)
俺もこの世界に産まれて早13年だ
ある程度の常識の違いは理解出来ていた
いや、出来ていたつもりだった…
(前世でも此処まで男女間に違いなんてなかったよなぁ…)
俺が知らないだけで宿泊施設に多少の違いはあったのだろうか?
いや、前世で教師の目を盗んで女子部屋に遊びに行った時も此処までの違いはなかった…筈だ
俺達はこれから女子がテントを張り終わるまでは実質自由時間だ
自由時間なのだが…
(めちゃくちゃ心苦しい…)
いやだって女子たちが自分の寝床を頑張って作ってる間、俺達はこのふかふかのベッドに寝るのも良し、シャワー浴びるも良し、寛ぐのも良しって…罪悪感が半端ない
「……良し!!」
精神的な疲労はあるが、身体的疲労は無いに等しいし、このままダラダラするのなら野外学校に参加した意味がない!!
怠惰な自分を奮起させ、俺はベッドから飛び出してリビングを通り玄関に向かう
「夜人くん、何処かに行くのかい?」
「うん。このままダラダラしてても仕方ないしね、ちょっと女子たちのテント張りを手伝ってくるよ」
リビングソファに座って読書をしていた公理くんに声を掛けられた俺はそう答える
お、よく見たら創くんも向かいのソファで寝そべってるな
「……君は本当にお人好しだなぁ」
「夜人はアクティブ…」
若干呆れ顔の公理くんと顔だけこちらに向ける創くんにそう言われてしまえば苦笑いを浮かべるしかない
確かに俺はこの世界の男基準で言えばお人好しの部類かもしれない
「そんなんじゃないよ。単純に女子が頑張ってるのにダラダラするのが罪悪感を感じるだけさ。それに折角野外学校に来たんだからね、普段とは違う事をしたいのさ」
俺の本心は紛う事無くそれが理由なのだ
俺がそう言うと、公理くんはパタンと本を閉じた
「確かに知識だけでは無く経験も必要だね。創、俺達も零たちを呼んで一緒に行く事にしようか」
「………ん」
どうやら公理くんも皆を誘って一緒に手伝いに行ってくれるらしい
何だかんだで皆、罪悪感を感じていたのかもね!!
女子たちからすれば猫の手も借りたいだろうし、人手が増えるのは好ましい筈だ
そうして俺達A組はA組女子たちの元へ向かう事にした




