42:実は意外と珍しいパターンだったりする
「姉さん、正座」
「………」
俺がそう言うと、姉さんはいそいそと正座をする
あのCHAOSな状況の中を無理矢理に介入して2人のキャットファイト(?)を強制的に終了させ、姉さんを引っ張って自宅まで返ってきたところだ
あ、棗さんには帰り際に「葵さんは棗さんの考えに賛成してくれると思うから一度話をしてみてね」とだけ助言(?)をしておいた
あれ以上、親子の進路に対して介入は出来ないからな
それは兎も角…
「姉さん、俺は怒ってます」
「………はい」
「何で怒っているか分かってる?」
「………彫刻刀を振り回した事」
「そうっ!!完全にそれに怒ってます!!隠れて盗み聞きしていたのは姉さんだから仕方ないと思えるけど、刃物を振り回す行為は許せません!!」
「ごめんなさい…」
いや、マジで刃物は危ないからね?
姉さんが加害者になるのも棗さんが被害者になるのも見たくはない
「俺に謝罪しても仕方ないから、棗さんにちゃんと謝ること。あと…罰として1週間よしよしと添い寝を禁止します!!」
「っ?!!!!!」
俺が沙汰を言い渡した瞬間、この世の絶望という表情を浮かべながら俺をガン見してくる
いや…そこまで絶望の表情を浮かべるっ?!!!
だが…よしよしは兎も角、添い寝に関しては精神年齢四十路手前の俺でも精神衛生上、余り良くない
これを機に添い寝を卒業して貰えればという期待を込めた沙汰なのだが…そこまで絶望した表情を浮かべられると何故か罪悪感が湧いてくるが…ここは心を鬼にしなければならないのだ
「………ヨルトクン」
「ひっ!!」
1人で半無理矢理そう納得しようとしていると…いつの間にか俺の目には月姉さんの顔がアップで映る
うん、相変わらず綺麗な顔をしてるね!!…思わず悲鳴を上げそうになったけど
「ヨルトクン…チュウニメギツネセンパイニハ、チャントアヤマルヨ?デモ、サ…ワタシッテソンナニキビシイバツヲウケルホドワルイコトシタカナ?」
「ね、姉さん…ちょ、ちょっと落ち着こうか」
気のせいだと思うけど…姉さんの声に抑揚がなくて全部がカタカナに聞こえる
それに…今まで見た姉さんのどんな目よりも昏くて、逆らっちゃいけない雰囲気を醸し出してる
「オチツク?ワタシハオチツイテルワ。ソレヨリモ…ワタシッテソンナシケイニモヒトシイバツヲウケルホドワルイコトシタカナ?」
「死刑に等しいって…」
「ヨルトクンニフレラレナイナンテ、ワタシカラスレバシニモヒトシイノ。アァコレッテ…モウオフロニデモ「分かった!!分かったから!!!そ、添い寝は禁止!!だけどよしよしは解除します!!1週間添い寝禁止!!!」
「…………」
ゴクリ…精神年齢四十路の俺をビビらせるなんてやるじゃないか…
だけど俺もこれ以上の譲歩をする気は無いぞ…
「…………モウヒトコエ」
「だ、ダメッ!!!今回の事は俺も怒ってるの!!流石にこれ以上の譲歩は出来ません!!」
「……ちぇ~」
姉さんがそう呟いた瞬間、室内の重苦しい雰囲気が霧散していった
なにこの娘…天使なのに場の空気も支配するの?!!
大天使とかそっち系の神格もってるの?!!
「うんまぁ…今回は私も悪かったしね。厨二女狐先輩の発破掛けた功績と相殺して1週間添い寝は我慢します」
「うん…(そのまま卒業してもええんやで?)」
「でも1週間後にはまた添い寝して……」
そう言いながらカレンダーに視線を向けた姉さんは驚愕の表情を浮かべた
ん、何かあるのだろうか?と思って俺もカレンダーに目をやると…
【野外学校(2泊3日)】と赤丸でグリグリされている文字があった
「「…………」」
「……夜人くん「ダメです」」
そうしてそのまま深夜に及ぶまで八剱家では「お願い」「ダメ」の声が響いていた事を追記しておく




