41:ふれて未来を
「すっごく悩んで悩んで悩んで…出てきた答えはすっごくシンプルなものだったんだ」
「それって聞いても良い内容なの?」
「……笑わないならね」
「笑わないよ」
流石の俺でも人様の夢を笑うほど性根は腐っちゃいない
それが俺にとって価値=棗さんの価値ではない事くらいは理解しているつもりだ
「私の夢はね…抽象的だけど【幸せに生きたい】って事なんだ」
「…夢の根本的な部分だね」
「だね。でもね…私は絵だけを描き続けることが出来れば幸せなのか?って考えたら…そうじゃなかったんだよ」
「………」
「月ちゃんの夢は多分、それさえ叶えば幸せで有り続ける事が出来れば幸せなんだと思う。でも…私は絵を描ければ、他がどんなに最悪でも幸せだと思えるのか?って考えるとね…そうじゃなかったんだ」
「そうなんだ…」
「じゃあどうすれば私は幸せだと思い続ける事が出来るんだろう?って考えた時にね…私は月ちゃんほど1つの物事だけで幸せだと感じ続ける事が出来る程、欲のない人間じゃなかったんだ」
「………」
「かと言って月ちゃん程、大きな夢を幾つも持っているのか?って考えるとそれも違っててね。今日の晩御飯が好きな物でも幸せだと思えるし、良い絵が描けても幸せだと思える。1日1日の小さな幸せを維持し続ける…それが私の幸せなんだと思う」
「それはまた…」
激しく困難な夢だと思う
生きていれば嫌な事も辛い事も腐るほど出会う
これは間違いなく断言できる
そんな出来事に出逢っても他の良かった部分に目を向けて幸せだと思い続ける事が出来る人は…多分、世界中を見渡しても驚くほど少ないだろう
「だからね、私は絵を描きたいけど画家でありたい訳じゃないし、合気道も嫌いじゃないけど偶にはやりたい程度には好きだと思う。進路の答えにはなってないけど…ハハッ、それが私なんだよ」
「うん…それも凄く大変な夢だと思うよ。棗さん…頑張ってね」
俺が頷きながらそう告げると、棗さんは俯きながらモジモジとしだした
え?大丈夫?鳥肌たったとか言われたら落ち込んじゃうよ?
そんな事を考えている俺を尻目に、棗さんは意を決したかの様に視線を俺に向けて来る
「ヨルヨル!!!」
「は、はいっ!!!!」
「この間は、当たり散らす様な事を言ってごめんなさい!!!!ヨルヨルだって一杯我慢してたり、大変な事もあった筈なのに、全く考えなくて怒っちゃって本当にごめんなさい!!!!」
「大丈夫だよ。…俺の方こそ、棗さんの気持ちを考えずに言い過ぎた。俺の方こそ、ごめんなさい」
そう言って俺も棗さんに対して頭を下げる
結局の所、俺が勝手に大人目線でアドバイスしたつもりになっていた事が悪いのだから俺が謝罪するのも当然だろう
「…………」
だと言うのに、棗さんはポカンとした表情を向けていた
「あの、棗さん…?」
「…………」
「お~い…棗さ~ん?」
「やっぱヨルヨルは……」
え…何すか?
俺を意識の外に飛ばしてなんかブツブツ言ってるんですけど?
この空気感って姉さんが偶にやる空気感に似てるんですけど…
まぁ、濃度は圧倒的に姉さんの方が濃いんだけどね
「ヨルヨル!!!」
「は、はいっ?!!」
「わ、私は幸せになりたいです!!!」
「は、はいっ!!」
「そしてヨルヨルを幸せにしたいです!!!」
「は……はい?」
「わ、わわわわ私とけ、結婚を前提にお、お付き合いしてくださいっ!!!!」
「……………………………………………………は、は「ちょっと待ったーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」って姉さんっ?!!!」
何このCHAOS?!!!!
謝られて謝ったら告白されて姉さんが美術準備室から飛び出してきたんですけどっ?!!!
「厨二女狐先輩っ!!誠意ある謝罪をしなさいとは言いましたが告白しなさいとは一切言ってません!!」
「だ、だってっ!!こんなに優しくてイケメンで結婚できたら幸せ待ったなしなヨルヨルに告白し無い訳ないじゃん!!!!」
「謝罪で終わらせてくださいよ!!!」
「ちょっ!!彫刻刀はダメ!!危ないからダメッッ!!!!!」
……もう1回言わせて
なに…このCHAOS…




