40:夢は覚めるもので儚いもの…それでも
「や、やぁ…」
「………」
ビックリした
月姉さんと共にマンションの外に出た瞬間、棗さんが待機していた
え?何?ストーカー??
一瞬そんな事を思って咄嗟に返事ができなかった
「……挨拶も返せないくらい、怒ってる?」
「当たり前です。夜人くんの心はシャボン玉の様に繊細なのですよ?触れれば割れてしまう儚さと美しさをもった心、それが夜人くんハートです!!」
「……いや、そんな事ないから。棗さんゴメンね…驚きすぎて一瞬声が出なかったんだ」
「ふふ…何それ?そんな事ある?」
何が面白かったのかは分からないが、微笑んでくれて安心した
どうやら余り怒っていないらしい
「ヨルヨル…今日の放課後、美術室に来てもらえるかな?」
「ダメです無理です有り得ないです。夜人くんの時間はゆ「あ、別に大丈夫だよ」夜人くん?!!!」
いやいや…俺は別に棗さんと仲たがいしたい訳じゃないからね?
お世話になってる道場の娘さんだし、良い友人だとも思ってるからね?
「ありがと…。じゃ、放課後に美術室に来てもらっても良いかな?」
「分かった」
俺がそう返事すると、棗さんはタッタッタと学校に向かって駆け出して行った
どうせなら一緒に行けば良いのにと思わない訳では無いが…やっぱりちょっと気まずいんだろうなぁ~
「夜人くん!!私も!!私も行くから!!!」
「………」
問題は横に居る天使をどう宥めて止めるかだが…今の俺には明確な対策が浮かばなかった
◆
◆
ガラッ
「来てくれたんだ…。忙しいのにごめんね」
「新入生だからね。まだそこまでじゃないよ」
扉を開けると棗さんが既に待っていた
棗さん以外は……よし、居ないな
「どうしたの?」
「いやぁ…姉さんが何処かで聞き耳たててないかなって」
そうなのだ
結局、朝は姉さんを完全に説得することが出来なかった
その為に姉さんが何処かで聞き耳をたてていないか不安に思ったのだが…どうやら常識は持ち合わせていたらしい
「アハハハ流石にいないでしょ?だった私は授業が終わった瞬間に此処で待機してたからね」
「じゃあ大丈夫かな?」
「うん…」
棗さんがそう返事した瞬間、なんとも居心地の悪い沈黙が場に流れる
棗さんが俺を呼ぶ出したのだから用事の内容を切り出して貰いたいのだが…
(まぁ予想出来るのは謝罪かな?)
姉さんが棗さんに発破を掛けたみたいだし、間違いなくそれだろう
謝罪されたら「俺も言い過ぎたよ」と言って仲直りをすれば良いだけだからな
「……昨日ね」
「うん」
「月ちゃんに聞かれたの…。私の夢は何だって…」
「そうなんだ…」
発破掛けたとは聞いていたけど、やり取りの内容までは聞いていない
夢か…中学生に夢の話題を持ち出しても難しい内容だとは思うんだけどな…
「月ちゃんは自分自身の夢をしっかりと決めて、その目的の為に手段や心構えをしっかりと決めてたの」
「へぇ…」
流石月姉さん略してさす月だな…
俺自身、目立たずにまったりとした人生を送るという願望はあるものの、それが夢なのか?と聞かれると些か疑問が残る
(前世でも夢なんていう明確なモノは持ってなかったなぁ~)
そもそも俺の周りは「これが私の夢!!」って明確に言える人の方が少なかった気さえする
「でね…私の夢ってなんだろう?って考えたのね」
「うん…」
「私は絵を描くのが好き。合気道も嫌いじゃない。宇宙にも行きたいし、深海も行ってみたい。結婚もしたいし子供も欲しいんだ…」
「…凄いね」
「うん。でもね…月ちゃんに言われたの。その全てを捨ててでも手に入れたい物はないのか?って…。私のソレはただの願望だって…」
「………」
間違えてないけど…辛辣だな…
凡そ中学生が言うべき事じゃないと思うけど…成し遂げる人っていうのはそんな感じなのかもしれないなぁ…
「でね…私にしては、凄く…すっごく悩んで考えたのね」
「うん…」
棗さんはそう言って後に再度沈黙した




