30:意外な一面はギャップ萌えとしてはポイント高い(不良が優しい等々)
「…………」
「ね?なっちゃん綺麗でしょ?」
「……ですね」
悔しいけれど…本当に悔しいけれど今の棗さんは綺麗だと思う
騒がしくて遠慮が無くて裏表がないのは彼女の魅力だと思う
けれど…キャンバスを前に慈愛を込めた様な表情を浮かべながら筆を止める事無く何かに打ち込んでいる彼女もまた、非常に魅力的に感じる
「なっちゃんって作品をコンクールにも出そうとしないけれど…出したら絶対に入賞すると思うんだけどな~」
「ですです!先輩の作品はそこら辺の画家よりもよっぽど心にクるものがありますからね!!」
「それだけに…中学校で止めちゃうのは残念だけどねぇ…」
「そうなんですか?」
おっと俺の知らない情報が出てきたぞ
まぁ、仲良い友達に自分の進路を言うのは不思議でも何でもないか
「そうだよぉ~。ほらなっちゃんって道場の跡取り娘でしょ?だからバリバリの体育会系に進学するんだってさ」
「そうなると美術に割ける時間はないでしょうしね~。特に先輩は唐突に描き出しますから…体育会系の学校では難しいでしょうねぇ…。私は正直勿体ないと思っちゃいますけど」
「そりゃ私だってそう思うけどさ!でもなっちゃんの人生にまで口出す事なんて出来ないじゃん…」
まぁそりゃそうだろう
幾ら仲の良い友達とは言え、相手の人生を慮れば言える訳はないわな
そりゃ相手の人生に責任を持つくらいの気概がないと言っちゃダメだわ
「じゃあ棗さん絵を止めちゃうんですね…素人の俺から見ても楽しそうに描いているのが伝わってくるんですけど…」
「…多分だけど、なっちゃんも絵を描く事は好きだと思う」
「そりゃそうですよ。あれだけ楽しそうに描く人なんて今まで見た事も無いですもん」
「それになっちゃんって意外と責任感強いからさ…親御さんの期待に応えなきゃ!っていう気持ちが強いと思うんだ」
「絵も合気道も才能の塊ですよね…」
「………」
確かに棗さんは合気道んも絵もどちらも飛びぬけて上手い
小さい頃から彼女と合気道をしてきたにも拘わらず、俺は未だにちゃんと勝ったことが無いし、絵を描いている様子や、部員の子たちの反応を見る限りは抜きんでた才能があるのは間違いないだろう
(才能が有る=やりたい事でも無いだろうしなぁ…結局棗さんがどうしたいのか?だよなぁ~)
自分で考えてみると言われたものの、身近な人が悩んでいるのを放置するのは何かモヤモヤしてしまう
詰まり俺の心に宜しくない状態だからこそ俺は棗さんの悩みに関わる事にしよう
これは彼女の為じゃない!!
自分自身の為なのだ!!
「………みんな何してんの??」
そう決意し拳を握りしめた瞬間、美術室の扉が開いて棗さんと目が合った
「ヨルヨルまで…一体何してんの?」
「え、え~~と……」
咄嗟に最適な答えが出ないあたり、今世でも俺には応用力がないなぁ…と暫し現実逃避をしてしまった…




