36:介入すれば逃げる事は出来ない…それが責任ってやつだ
「夜人さん…今、何と仰いましたか?」
「白冬家直系の血筋を得るチャンスを与える、と「それがどう言う事なのか理解して仰っているのですか?!!!」」
「勿論です」
「貴方は!!!公理さんを救う為に自分を犠牲にすると仰るのですか?!!それは美談でも何でもない、ただの自己満足ですよ?!!!」
目の前の机を叩きながら草子さんは怒鳴り散らしてきた
母さんからも鋭い視線を受けているなぁ…凄い怖い…
これは早急に訂正する必要がありそうだわ
「草子様、誤解がある様ですので再度お伝えしますね。『白冬家直系の血筋を得るチャンスを与える』…私はそう言いましたよ」
再度チャンスを強調しながらそう言うとハッとした表情を浮かべる
どうやら少しは落ち着いてくれたみたいだな…母さんからは相変わらず鋭い視線を受けているが…
「チャンス…詰まりは確定では無いと…そんな白冬家の血筋を得るというチャンスだけで紅春家は動かないでしょう」
「いえ…紅春家は必ず動きますよ。紅春家だけではなく、緑夏家も…もしかすると黄秋家当主も動くかもしれません」
「何故そこまで断言できるのでしょうか?」
「ご存じの通り、四大名家の中で【白冬】の血筋だけは特殊だからです」
そうなのだ…
俺が四大名家を知らなかった時に麗さんに四大名家の説明を受けた
その時に簡単にではあるが四大名家の特徴も一緒に教えてもらった
曰く、四大名家は血筋や相手の家格を非常に重要視する
当主配偶者は勿論、四大名家を名乗る者全ての配偶者は同じ四大名家であるか、直系の家の者に限られるらしい
まぁ…庶民が四大名家と結婚できても格差や柵で難しい部分もあるだろうから理解出来ない訳でも無い
だが、此処でより特異性を持っているのが【白冬】だ
白冬は代々、一貫して四大名家と婚姻を行う事が無かった
この1:10の世界であっても、だ
全て直系の家から婚姻を行い、白冬の血は別の家と混ざる事が無かったのだ
俺みたいな前世が庶民の人間からすれば「で?」という感想で終わる事だ
だが…昨晩に母さんと話し合った時に聞いたのだが、当の四大名家からすればそうではないらしい
人は金を求める
人は地位を求める
人は名声を求める
金も有り、地位も有り、名声もある人間は次に何を求めるのか?
その答えの一旦として血筋を求めるのだ
己たちと同じ四大名家で有りながら、四大名家とは一切混じらわない【白冬】
その血筋は俺が思っている以上に四大名家からすれば価値が高いのだそうだ
「……ですがチャンスとは?」
「こう見えて私は政略結婚は大嫌いなんですが、逆に相手を好きになれば家や血筋は関係ないと思っているんです」
要は【白冬】の血筋と出逢う機会を与えます
だから俺を惚れさせてくださいねって事だ
その人を好きになれば紅春だろうが緑夏家だろうが関係ないと俺はそう言っているって訳だ
まぁ上から目線の要求である事は理解している
だが何も持っていない俺が出せる精一杯の手札がそれしかなかったって事だ
「……紅春家に対するチャンスは理解しました。では蕗ノ薹が得ることが出来るチャンスとは?」
「紅春家にとっては千載一遇のチャンスを持ってきたのが御家です。その功績として紅春家に覚えも良くなるでしょうし、家の地位を高める大きなチャンスになると思います」
「…………成程。ですが私はそのチャンスを使わず、別の要求を紅春家に使用するとしましょうか」
草子さんは少しの間思案し、徐にニチャァという擬音が似合うくらいに口角を上げてそう呟いた
草子さん、マジ怖えぇぇぇ…




