35:プレゼンは虚勢が大事!!(但し、巻き返しが大変)
「夜人さんの要求を私が飲んだとしましょう。その場合、夜人さんは我が家に何を齎してくださるのですか?」
にこにこ
「先程も申し上げましたが、これだけの要求に対しての対価は容易ではありませんよ?」
にこにこにこにこ
「さぁ勿体ぶらず、そろそろお教えください」
やべぇ…俺のニコニコ攻撃が草子さんに一切効果が無い
これが母さんや月姉さんだったらイチコロなのに…
いやまぁ…必死に脳細胞を働かせた結果、策が無い訳では無い
無い訳では無いんだけど…俺の要求はある意味では蕗ノ薹家を軽視していると思われる可能性があるんだよなぁ…
でも俺のIQでは限られた時間でこれ以上の良策は思い浮かばなかったんだ…
哀しき元社畜ではこれが精一杯だったんだ…
(さぁ言え!!言うんだ夜人!!それこそ取って食われる訳では無い!!!)
そう自分を鼓舞させながら俺は雰囲気を壊さない様に静かに口を開く
…大切だよね、雰囲気
「私が提示させて頂く条件を承諾いただいた場合、御家にはチャンスが与えられます」
「…………チャンス?」
俺がそう言った瞬間、草子さんの視線が滅茶苦茶鋭くなった
『舐めてんのか?あぁん?』みたいな表情、止めて!!!
「相違がある様ですので1からご説明させて頂きますが、私が御家に要求する事柄は黄秋家の人間を追い出す事ではありません」
「ですが「はい、私が最終目的を発した故の誤解ですね。草子様、失礼いたしました」
俺がそう言って頭を下げると、一先ず溜飲を下げるかの様に深く息を吐き、色々と思案しだした
「……でしたら夜人さんは我が家に何を求め、どんなチャンスを与えてくれるのでしょうか?」
「私が草子様にお願いする事柄はただ1つ、紅春家に口添えをお願いしたいのです」
「っ?!!!」
「草子様が仰った様に四大名家が相手では、失礼ですが蕗ノ薹家と八剱家だけではどうにもなりません。だったらどうすれば良いか?答えは非常にシンプルです。同じ四大名家から注意喚起を促して貰えれば良いのです」
「…………」
「失礼ながら私はこの後、蛍ヶ丘家、日暮家にも同様に同じお願いをするつもりです。蕗ノ薹家から紅春家に口添えして頂くだけでも効力は抜群だと思いますが…念には念を入れ、緑夏家、そして黄秋家直系である日暮家からも黄秋家当主の耳に入れて貰おうと思います」
「それはまた…確かにそれが成就すれば不可能ではないでしょう…成就すれば、ですが」
「えぇ勿論。そして私は四大名家の耳に入れば成就すると確信しています」
「それ程までに自信があるのですね…では私が紅春家にその事を伝えたとしましょう。その際に紅春家には何の益があるというのですか?そして我が家が得られるチャンスとは何でしょうか?」
「それは私…いえ、白冬の血筋を得る機会です」
「「……は?」」
さぁ、こっからが正念場だぞ?
自分を切り売りする気は全くないが、自分が矢面に立つくらいは進んでやってやろうじゃないか
そう自分を鼓舞しながら、この交渉の山場に臨んだ




