34:(蕗ノ薹 草子 視点)ただならぬ男の子
「両名の安全を確保する為に対策としては、朝焼家当主の配偶者の追放と黄秋家の中で指示した人間を追放する事が唯一の打開策だと考えているからです」
「っ?!!」
私は泡沫様のご子息、夜人さんからその言葉を聞くと同時に目を見開いてしまった
朝焼家当主の配偶者を追放するという事、これ自体は未だ良い
家格で言うと同格であるし、当主では無くその配偶者で有るという事も大義名分がある状態であれば他家と共同戦線を張れば難しくは無い
けれど…黄秋家の人間を排除する
これは…
「黄秋家の人間を追放するという事は無理ですか?」
そう言った夜人さんの表情は先程までの焦燥感に駆られている様な表情では無かった
何もかも見透かしているかの様な冷静な表情…それでいてこの私が子供に対して格上では無いか?と思わせるかの様な威圧感を醸し出している
「えぇ…そうです。黄秋家の誰かは兎も角、その家の人間を排除するという事は現実的には難しいと言わざるを得ません。蕗ノ薹も八剱も家格で言えば良家ではありますが…四大名家は文字通り格が違うのです。正直…そんな言葉を吐く事すら躊躇してしまう程に」
夜人さんの威圧感に対して動揺する事無さそうに回答出来た私を誰か褒めて欲しい…
彼に今しがた伝えた様に本来であれば黄秋家を害するという言葉を発する事すら躊躇してしまう
もし私のこの言葉が黄秋家の耳に入ったとすれば…うぅ、想像したくない…
申し訳ないが、コレは借りの範疇を超えている様な要請だ
「そうですか…まぁそうですよね」
意外だったのは、夜人さんが私のそんな言葉に納得した表情というか…分かっているかの様な表情をしている事だ
だったら今このタイミングで畳み込めば、朝焼家の当主配偶者だけで矛を収めてくれるかもしれない
「それに今回のお話は交渉ですよね?夜人さんの希望を私が受けたとして、私が得られるメリットは何でしょうか?これだけの希望…ちょっとやそっとのメリットでは私はYESとは言いませんよ?」
「えぇ、勿論です」
一気に畳みかけるかの様な私の言い分に対しても動揺する素振りも無く、朗らかな表情で肯定してくる
いや、いやいやいや…ちょっと待って…??
この要望を得る程のメリットを提示できるというの?
確かに彼はただものではない
あづみ以上に受け答えがしっかりしており、賢い
当主である私と対峙してもしっかりと話せる度胸もある
それに加えて普段からとても優しい性格である事は娘からも聞いているし、今日我が家に来た理由からもそれは理解出来る
それに加えて泡沫様の美貌も継承しており見目麗しいのだ
ハッキリ言って世の男性の中でも超絶優良な男性である事は間違いない
ただ…それは飽くまで小学生男子というベースに乗せた上での評価だ
(彼は本当に…何者なのでしょうか?)
私は夜人さんの次の言葉を待ちながら、内心冷や汗が止まらなかった




