33:外面は晴天、内面は嵐
「………」
ニコニコと微笑む草子さんを傍目に、俺は値千金の情報を得た事に身を震わせる
幾ら何でも大盤振る舞い過ぎませんかね?
草子さんに命令してきた男は名家の当主配偶者であり、蕗ノ薹家と同格とも言えるお家という事だ
そして何より、草子さん自身がその命令を突っぱねる事が出来る程度の家格……
そうなって来ると嫌でも『朝焼』の、公理くんの父親というワードが頭に浮かぶ
(オーケーオーケー…クールにいこう)
もしかするとそう思わせるのが草子さんの罠である可能性も否定できない
草子さんは、この蕗ノ薹家の当主だ
ぶっちゃけ、俺自身の社会人経験よりも遥かにタフな経験をしているだろう
俺の思考を誘導して、不利益を被らせて来る可能性も無い訳では無い
「命令してきた事に血が上ったのもそうですし、その内容が…ねぇ?余りに非人道的行為だったものですから、キッチリとお断りを入れさせて頂いたんですよ」
完っ全に!!完っ全に公理くんの父親だ!!!
万一、違うという可能性も無い訳ではないが…此処までの言質を貰えればツッコんでいく価値はある!!
「それはそれは…何処のお家かは存じ上げませんが、愚かな男もいるものです」
「えぇ、幸い泡沫様のご子息は非常に聡明そうにお見受けしますので安心できます」
「いえいえ、愚息もまだまだ至らぬ所が多々御座います。御見苦しい点が御座いましょうがご容赦賜れば幸いです」
そんな事を考えている間に母さんと草子さんは呑気な世間話をしているが…そんなやり取りを聞いている内に再度不味い事実が頭に過ぎる
(いやいやいや…現状、【蕗ノ薹】は我関せずのスタイルを貫くだけじゃん?!!自体が好転した訳じゃない!!)
最悪の場合は黄秋&朝焼VS八剱という図式にもなり得るのだ
(俺が交渉で提示出来る手札は何だ?考えろ考えろ考えろ……)
必死に考える…俺が持っている優位性…男である事と…家格…血筋…
考えれば考える程に出せる材料はたった1つしかない気がする…
「ふぅ…」
俺は深く溜息を付いた後、両頬をパンッと打ち鳴らして草子さんの方へ視線を向けた
すると突然鳴り響いた音に驚いたのか、母さんと草子さんの視線が俺の方へ向けられた
「草子様…私の交渉内容ですが、その愚かな男性と類似する様な交渉内容となってしまう事をお許しください」
「類似する様な交渉、ですか」
「はい…私が草子様にご助力頂きたい内容としましては朝焼公理くんと当家の八剱月の安全確保です」
「……それの何処が類似していると夜人さんは仰るのですか?」
「両名の安全を確保する為に対策としては、朝焼家当主の配偶者の追放と黄秋家の中で指示した人間を追放する事が唯一の打開策だと考えているからです」
「「っ?!!」」
そう言った俺に対して、草子さん母さんは何故か固唾を呑んだかの様な表情を浮かべて俺を凝視していた




