32:無茶振りは無茶苦茶にするのが良い(処世術)
「それでは…夜人さん、私と交渉をしたいとお付きの方は仰っております。その点はお間違いないでしょうか?」
「えぇ…まぁ…はい…」
其処はもう、何となくアヤフヤな形で回答するしかない
というか、それしか無くない?!!
「結構です。先程は私も突然頭に血が上ってしまい申し訳ございませんでした。」
「いえいえ…少し驚きましたが…こちらの言葉も不用意でした為に要らぬ誤解を生んでしまい、誠に申し訳ございませんでした」
俺がそう返答すると少し驚いた表情を浮かべた後に、草子さんは優しく微笑んでくれた
これは…取り敢えず水に流してくれたと考えても良いのか…?
「実は先日に当主として男性と会う機会がありまして…その男性は一方的に要求を突き付けて来たのですよ。幾ら稀少な男性とは言え、当主として命令なんぞ容易に受け入れる訳にはいきません。言い方は違えど、結局男性とは皆そんなものなのかと考えてしまうとどうしても、ね」
「あぁ…」
要は高圧的な命令か低姿勢な命令なのかの違いでしかないと受け取った訳だ
まぁ、ある意味では間違っていないわな…
「己の稀少性を自覚した上で、女全てを言う通りにする事が出来ると勘違いする愚か者と夜人さんは違うと理解はしていたつもりなのですが…」
「重ねて申し上げますが、私の言葉も不用意でした為…そこはもう…」
俺の立場で水に流しましょとは言えない
だからこそシドロモドロになってしまう訳だが、その様子も草子さんからすれば面白かったみたいだ
クスクスと笑って場の空気を和らげてくれた
「では…交…っっ!!!!」
この空気のまま一気に交渉へ持ち込もうとしたが、不意に母さんから脇腹をツンツンされた
いやいやいや…机越しで見えないとは言え、他人の家で何するのさ?!!
そう思って母さんを見ると、何故か滅茶苦茶ジト目で俺の方を見て来る
…何?何で俺がそんな目で母さんに見られるの?!俺なんか悪いことしましたか?!!
「はぁ…」
俺の抗議の表情を見た母さんは小さく溜息を吐く
え……俺、ガッカリされた?!
何かガッカリされる様な事あった?!!
「草子様、横から口を挟む事をお許し下さい。幾ら稀少な男性とは言え、名家であられます【蕗ノ薹】当主と軽々にお逢い出来る男性等、多数いらっしゃるとは思えないのですが」
あぁ…そう言う事か?!!
わざわざ相手が情報を出してくれてるのに、俺はそれをスルーしようとしてしまったんだ…
今更ながらそれに気づいて再度反省する
ましてや母さんの言う通り、蕗ノ薹は名家だ
そうなるとその当主である草子さんに会える男性なんて同じ名家だと容易に推測できる
「あらあら、口が滑ってしまいましたね。そうですねぇ…ご想像の通り、名家と位置されるお家の当主配偶者の方ですよ。あぁ…お家名はご勘弁してくださいね」
そう言った草子さんの表情はニコニコと微笑んでいるだけだった




