30:蕗ノ薹会談
ーーーカコーーンーーー
俺のいる場所から見える庭園で鹿威しが良い音を鳴らしてやがる
大事な事だからもう1度言うが庭園だ…
鹿威しなんて前世でもほぼ記憶にないわ…
しかも庭園が枯山水って…どうよ??
「あづみちゃん家って…ヤバいな…」
「蕗ノ薹家も名家だからね…夜人きゅんが望んで来たのだから覚悟しておきなさいね」
母さんにそう言われて俺は再度表情筋に力を入れた
そう…昨晩、母さんに協力を仰いだ後、俺はあづみちゃんと蓮華ちゃんと沙月ちゃんに連絡を入れた
理由は簡単、各家に協力を仰いで承諾を貰う事、更に欲を描くなら…四大名家である紅春と緑夏に話を通して貰う事だ
自分で何とか出来ればカッコイイとは思うが…如何せん今の俺には力が無い
権力なし資金なし武力なしの無い無い尽くしなのだ
アルスを叩きのめして解決できれば話は簡単なのだが…残念ながらそれは不可能だろう
彼は自分の力を理解してしまっている
仮に俺が彼を叩きのめした所でその後に勝てる可能性はハッキリと0だ
彼の土俵に乗るのは癪だが…母さんにも協力して貰ってやっていくしかない
……ところで母さん
昨晩はキリっとして凛々しかったのに、また『きゅん』呼びなんですね?
あ、こっちがフラットなんですかそうですか
「お待たせしてしまい申し訳ございません」
そんな下らない事を脳内で考えていると徐に障子が開き、1人の女性が入ってきた
間違いなく、あづみちゃんの親御さんだな
そのまま俺達の対面にある座布団に座って口を開く
「紅春家直系、蕗ノ薹家当代を預かります『蕗ノ薹 草子』と申します」
「八剱夜人です。本日は急なお願いに応じて頂き、深く御礼申し上げます。」
「八剱泡沫です。本日は息子の要望に応じて頂き心から感謝いたします。」
そう言って3人ともが頭を下げる
今日はあづみちゃんの友達である八剱夜人として来た訳ではない
母さんもそれを理解した上で顔見知りであるにも拘わらず、自己紹介して頭を下げていた
あ、因みに麗さんは俺の背後に待機している
こういう場合は居ないモノとして見なされる為に自己紹介等も不要らしい
「まぁまぁ…夜人さんは相変わらず礼儀正しいのですね」
「そう…でしょうか?一般的だと考えておりますが…」
「女性としての対応であれば一般的でしょうけど、男性としては稀少ですよ」
「あ、有難う…御座います?」
何か褒められたのか貶されたのか良く分からんが、取り敢えず礼を告げるが…正しいのか?
こちとら前世でもしがないサラリーマンだったからなぁ…あまり礼儀作法に詳しくない
「さて…本来であれば普段のあづみの様子や夜人さんから見た印象等をお尋ねさせて頂きたい所です。ですが本日は何やらそうもいかない話題であるみたいですので、夜人さんのご用件をお聞かせ頂きましょうか」
「はい。因みに…あづみさんからは朝焼公理君の事は?」
「概ねは聞いております。公理さんが被害を受けている事、姉君である月さんが黄秋家嫡男から求愛を受け、断ったら脅迫という手口を使ってきた事…私が存じ上げているのは概ねこの2点ですね」
…それ殆どやんけ
であれば細々と説明する事も無い、か?
「でしたらお話が早い。今回お願いに「少しお待ちください」」
要件を告げようとする俺に向かってあづみちゃんのお母さん…いや草子さんは手と口で制する
「夜人さんは今『お願い』と仰いましたね?」
「……はい」
「お願い……残念ながら当家ではそのお願いはお断りさせて頂きます」
何故かは分からないが先制パンチを草子さんから受けてしまった




