この国の王家には、公衆の面前で婚約破棄をする愚か者はいない。
すぐ読み終わる話です。
王立学園の卒業パーティ。尊い方々で会場中がキラキラ。
楽隊の演奏がいきなり途絶えた。
「嫉妬にかられたお前が私の真実の愛をいじめたのは明白!」
叫びの主は、キラキラのシャンデリアで、キラキラの金髪をきらめかせ、キラキラの衣装をキラキラさせた貴公子。
象牙で作ったようなツヤツヤの指がさす先には、黒いドレスを纏った典型的高位貴族令嬢。
貴公子の腰に絡みつくのは、ホワホワでふわふわのピンクブロンド髪の女。
「よって、私はお前を――オオフッッ!?」
貴公子は、バッタンと倒れ、
「きゃぁぁぁぁ! 王子様ぁぁ!? え、あひっ!?」
ピンクブロンドも倒れ、折り重なる。(1秒)
ふたりの首筋に、何かキラキラしたトゲのようなものが刺さっている。
バンッ! と会場の全照明が落ち。漆黒の闇。(2秒)
「わっしょいわっしょい!」
闇の中、その場に似合わぬ掛け声が響き、会場から遠ざかり消え。(4秒)
再び照明がつくと。(5秒)
貴公子とピンクブロンドの姿は跡形もない。
その間5秒。
残された貴族令嬢は、掛け声が立ち去った方へ優雅にカーテシーを決め、誰にも聞こえぬ声で呟いた。
「……見事ですわ。流石は腐っても王家。せっかくの証拠集めが無駄になりましたわ。これでは断罪返しで慰謝料をとれませんわね」
顔をあげ、くるり、と会場を見渡し。
「さぁ皆さん! 卒業パーティを楽しみましょう!」
楽隊の演奏が再開され、高貴な人々は何事もなかったように談笑を再開する。
いや、再開したのではない。
そもそも中断などなかった。
王太子殿下はここには来なかったし、卒業生でもないピンクブロンドはいたはずがないのだ。
そして
数日のうちに王太子は急病で亡くなり、第二王子が王太子となり。
ピンクブロンドは自主退学し、その実家も不慮の事故で族滅するだろう。
この国の王家には、公衆の面前で婚約破棄をするような愚か者はいらないのだから。
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